如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)㉘
5/10:漢字を少し訂正しました。
私は女の正体が彼女だと分かった時、あることを思い出していた。
それは前回錬金術のアイテム作りに勤しんでいた際にオジ様の手元にあったある報告書の内容だ。
女性28人
男性25人
子ども37人
その報告書には人数が記されていた。
そしてその数の意味・・・・彼女の犯した行いによって亡くなった人の数だった。
どのようにして発見されどのようにして殺されていたのか細かく書かれたその報告書を、険しい表情でルドルフが読んでいた。
そして読み終わった彼が言うには貴族の位の人達の不可解な死から判明した人数なので彼女の領地の事も含めるともっと大勢いると思われるという。
亡くなった方は殆どが彼女と面識のない市井で暮らす普通の人々だった。
なぜ、彼らが殺されなければならなかったのか―――。
ただその日を懸命に生き働き、家族や子供の未来を考えそしてその先の未来に夢を抱きながら暮らしていた人々に彼女は―――――。
彼らのささやかな暮らしを支える富を奪い
家庭を奪い
人としてのありとあらゆる尊厳と幸福を奪ったばかりか命まで奪っていった事実だった。
「私より楽しそうに嬉しそうに笑っているのよ?ゴミ並みの命の人間が、両親に抱かれて真綿みたく守られている全く可愛くない子供が?そんな不愉快なものを私に見せたのよ?だから彼らは命をもって私を楽しませるのが・・・当然なのではなくて?」
報告書の内容、そして本人口から理由を聞いて、私は静かな渦巻く白い怒りをその胸の内に留める。
そんな私の胸の内を知らない彼女はさも当たり前のように笑っていた。
不思議そうに微笑んで言い聞かせるようにいう彼女の足元に黒い靄が溜まり揺らぐ、私の目にそれは汚い溝のように見えた。
限界だった。
「汚い。」
「・・・・・は?」
微笑んでいた彼女にただ一言はっきりと吐き捨てるように彼女に告げると彼女は気に障ったのか怒気を乗せて返事をする。
そんな彼女に私は構わず話しを続ける。
「貴女の人生には同情するわ。けど、貴女は力を持った時考えるべきだったことをしなかったどころかそれ以上にしちゃいけないことをしたの。それに、貴女、昔虐げた人間に抗ったと言いながらその人と同じ事、それ以上の事をしてるじゃない。一番最低だと思っていたことを貴女自身がしてるじゃない。結局貴女の人生ってその人たちに囚われて固執して、貴女という質の悪い子供が力を振り回して多くの人達を快楽の為に殺したっていう事実だけよ。それって、人の法に則った当たり前の事さえできなかった、とても可哀そうな人なの。それ、理解できてる?」
「・・・可哀そう?・・・・私が、可哀そう・・・?」
「そう、とても可哀そうなの。誰からもそれを教えてくれるチャンスを貰えなかった貴女はとても可哀そうなの。だから、死んでここにいるんでしょ?」
私は彼女に解らせるように子供に言い聞かせるように話す。
「うるさぁぁいい!!!」
彼女は私の言葉に一瞬呆然としたが、すぐに怒りの表情を浮かべ私を睨みつけた。
「私は可哀そうなんかじゃないっ!!!私の価値も分からないお前なんか消えてなくなれぇぇ!!!」
そう言って私に向かってくる。左手には黒い炎が現れる。
「お前も炎に巻かれて死ねぇぇ!!」
私に向かって放たれたその炎を真っすぐ見つめる。だがそれは私の目の前で勢いを無くしピタリと止まりかき消されたように私の前から炎は霧散して消えた。
「そんな・・・・私の魔法を触れずに消した・・・?」
彼女はその光景に怒りを忘れ唖然とした。
私はそんな彼女の様子に気にもかけず真っすぐ見つめる。
「悪いけど私には効かないよ。それに貴女もうおしまい。」
私の言葉がよく分かってないようで彼女は一瞬小馬鹿にした顔を見せたが、私の表情が変わらないのを見て何か変わりはないか自分の周りを見やる。
「!!な、なによこれぇ!!」
悲鳴じみた声を彼女はあげる。
彼女の身体が少しずつ崩れていたからだ。
体中がひび割れそこからパラパラと砂となって崩れ始め、すでに魔法を放った衝撃で左手はもう影も形もなかった。
「貴女の存在は謂わば残骸程度。そんな存在が魔法を使ったら衝撃に耐えられないみたい。魔法を放つ前から崩れてたよ。」
「い、嫌よ・・・嫌。まだ消えたくないっ!!た、助けてっ!!」
恐怖で顔が引きつり彼女は縋るように私に言う。
私は首を横に振る。
「出来てもしないけど、無理だよ。貴女はここで無くなる。」
「いやぁぁ!!」
彼女はその場で蹲ろうとしたがピタリと固まり、また私を見る。
傲慢な女の考えそうな行動。
私は彼女が何を思っているのかすぐに分かり眉間に皺を寄せた。
途端、彼女はまた私に向かって走り出す。体がより崩れていくのを気に留めず、手を伸ばしてただ一直線に私に向かってくる。
「お前の・・・」
私は障壁をなくし、右手に反射魔法を込める。
「お前の・・・身体ぁぁぁ!!よこせぇぇぇ!!!」
彼女は目と鼻の先までやってきてそう言い放つ。
私はそんな彼女を睨みつけたまま―――。
パァンッ!!!
右手で彼女の隠元顔に思いっきり平手打ちをした。
そして右手の反射の魔法が発動して白い光が辺りを包み、彼女は声をあげることも出来ないまま一瞬で砂へ変わり霧散しその場からいなくなったのだった。
「・・・・まさか、本当に夢の人物に思いっきりビンタをかますことになるなんて思わなかったな。」
辺りが静寂を包み込む中、以前出来もしなビンタ宣言して本当に実行出来たことに私はぽつりとそう呟いたのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。 出来れば明日投稿したいけどまだパチポチうっているので約束できないかもしれません、でもできるならけりをつけたいのでちょっと頑張ります。難しい場合は水曜日になる予定です。
ちょこちょこ裏設定:カナディアの黒い炎→呪い魔法で相手の一番の恐怖を見せ皮膚をも焼けただれる苦痛を与える魔法。インドの風習で神聖な手は右手 不浄の手は左手とされていることから呪いの魔法の表現の為左手にしています。(逆に主人公は右手にしています。)
どうして主人公はカナディアの状況(残骸)について分かっていたのか→鑑定魔法をこっそり発動させて調べていたため。因みに表示されていたのは『絶命類の禁忌魔法。呪い魔法の思念体の一部』。
主人公のいる場所は一体どこなのか?→次回にお話しさせてもらいます。ネタバレになりますので。