これが夢だというのならとっくの昔に目は覚めている(さぁ、愉快なパーティーを楽しみましょう⑱)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は7/19(火)投稿予定です。次週はすいませんが火曜・木曜投稿になります。いつも良いねやブックマーク、評価もありがとうございます!
「このような大層なものを私個人が持つことは本当はいけないことだと知っていた・・・けど、どうしても私には必要でしたの。」
ことりと裁縫道具を机に置いたメイサは、その箱を愛おしそうに撫でる。
ティリエスはどうして祖母がこれを持っているのか不思議に思っていると、メイサが少しためらうような仕草をしたがゆっくりと話しの続きを話し始めた。
「私はねティリエス。昔、とても死ぬような思いをして家族以外の人間を怖がってしまってしまう・・・そんな時期があったのよ。私に害をなそうと思っていない相手でも私には害をなそうとしているように思えて恐ろしくて、外に歩けない、寝ている時でも嫌な夢を見てはルド様に助けて貰う日々を過ごしていたの。・・・そんな時、ルド様がこれを持ってきてくれたの。」
「この箱をですか?」
「えぇそうよ。本当は王に献上しないといけない代物をルド様が無理を言って私の為に持ってきてくれたの。ルド様は私に渡す時こう言ったの。」
『これは、私達を助けてくれた妖精の物。だから自分達には扱う事も箱を開ける事さえ出来ないじゃろう。でも、君にとっては心強いお守りになるのではないかと儂は思っておる。だからメイサ、これを大事に持っていなさい、きっとあの時の妖精殿も君が持っている事を許してくれるだろう。弱った者に傍観ではなく躊躇なく助けてくれたあの妖精殿の持ち物なのだからね。』
メイサは祖父ルドルフから言われたことを一字一句思い出すように目を閉じその時の事を話し終えると、メイサはゆっくりと目を開けた。
「これには大きく秘めた力がきっとあるのでしょう。でも、譲り受けてから今まで一度もそのような力を私は見たことはないわ。でも、これを持っていると、不思議と不安が小さくなってだんだんと他人を怖がらなくなっていったの。だから、この箱は私にとってなくてはならないもの・・・いつか持ち主に返してしまうのは私自身まだ少し怖いけど、でもそれでも私はきちんとこれを返そうとそう思っていつも綺麗にして持ち歩いているの。」
そう優しく微笑むメイサにティリエスは何と声をかければいいのか分からず目尻を下げて俯く。
お祖母様の言う通りこの所有者は妖精と言われている私である、だからこれを開けることも使うことも出来ない。
有効として考えれば私が持つべきなのではわかっている・・・だけどなぁ。
私が所持していた当初よりピカピカに磨かれ綺麗になっているそれを見てティリエスは悩む。
でも、こんなに大切に扱ってくれてたお祖母様の事をそのままに返してもらうように動いてもいいのだろうか?
「ティリエスちゃんどうしたの?」
「あ、いえ・・・本当にお祖母様それは返さないといけないのですか?」
「そうね・・・貴女もこれに触ると分かるわ。」
ん?なんだろう?
そう言って、スッと私の方へと差し出したそれを受け取る。
少し重みを感じとりながら持ったそれの蓋に私は手をかけた。
「!?」
「ね?開かないから不思議でしょう?」
ティリエスは蓋に手をかけ驚いたまま、それを凝視する。
これはどういうこと・・・そんな、こんなことあり得ない。
真っ先にティリエスが思ったのはその言葉だった。ティリエスは自分は当然開くと思っていたのだ、なぜなら―――。
所有者である私がこの蓋を開けられないなんて有り得ないからだ。
何も思わずに言われるまましちゃったけど、開けたら開けたで問題になっていたからこれはこれでセーフか?・・・いや、でもそもそもだ。
この裁縫道具一式に一体何が起こったんだ?まさか何か魔法をかけられたのだろうか?
あちこち何か変わったことがないかティリエスは目を光らせてみるが、別段何も変わったところはないようだ。
じゃぁどうしてこれは私も拒んだんだ?・・・ん?いや、待てよ・・・これって。
ティリエスはあることを思い出し、箱のある部分を見る。
そうかやっぱり・・・じゃぁ、これは・・・。
「でも、今日はすこしいつもと違うわね・・・。」
「え?お祖母様それはどんな風に違うんですの?」
「いつもなら開けようとすると音が鳴るのよ、こう・・・カラカラ?シャンシャンッって。」
その言葉を聞いてティリエスは思った憶測が確信に変わり、一瞬だけ眉間に皺を寄せた後目の前にある箱を見つめる。
実はこの面白シリーズ。課金アイテムでありながら面白い特徴があった。
それは所有者以外の人間を彼らが気に入れば現在進行中の所有者がいようが勝手に所有権が無効になるという不思議な機能である。
見た目ギャップ、そして課金アイテムという枠組みで所有者が自分以外の人間に変わるというその設定、故に面白シリーズといわれるアイテムだったと思い出す。
この説明をゲーム内で初めて見た時、何かの条件でそうなるという設定なんだと・・・それしか思っていなかったけど、まさか本当にそうなるとは。
しかも今まさにその所有権が無効になっている状態。
そして更に驚いたのはその所有者としてもつ権利を持っているのがメイサお祖母様ただ一人ということだ。
音が鳴ったという事は裁縫道具一式が所有者として望んでいるのだ、自分の祖母を。
理解したティリエスはそれはそれでどうしたもんかと考える。
お祖母様が所有者となってもそれは構わない。だが、この世界より優れたものの存在を手渡しお祖母様に迷惑がかかってしまうのだけは避けたい。
「そうですか・・・、ねぇお祖母様。もし、お祖母様がこの裁縫道具が使えたらどうしますか?何か作ってみたいとか・・・この力を使えたらどうしたいとか?」
「・・・そうね。もし使っても良いなら、皆の為に使いたいわ。それで私の作るもので少しでも助けられるものが作れるのならお力を借りたいと思ってしまうこともあるわね。それに私自身を己で守れることができればそれだけで皆の足を引っ張らずにできる。それがルド様や息子の・・・前で戦う者の助けになる。だからその為の力があればと何度も思ったことはあるわ。・・・・一度もそんなことはできなかったけれどね。」
昔のことを思い出しているのだろう、メイサの瞳に少し暗い影を落としたのが分かりティリエスはそれ以上聞かずもう一度箱を見る。
祖母はこの箱を持っている時、綺麗に磨いている時そんなことを思いながらこれを見つめていたのだろうか・・・。
心を動かされたと言うわけですね・・・なら、私が言うことはただ一つだ。
「お祖母様、もしかしたらこれはお祖母様に使っていただきたいのではないでしょうか?」
「?どう言うことかしら?」
「だって、私が振っても、・・・あぁ、エヴァイス卿も振ってみてもらって良いですか?」
「自分ですか?」
不思議そうにエヴァイスは箱を受け取り振ってみるがそこからは音が鳴くことはない。
「お祖母様が今度振ってみてください。」
「えぇ・・・・。」
そうしてエヴァイスから箱を受け取り、ほんのすこし揺らしただけだと言うのに中から音が聞こえメイサもエヴァイスも驚く。
「・・・どうして?」
「ね?ですからこれはお祖母様にしか反応していないのだと思います。それはきっとお祖母様が資格を持っているからではないでしょうか?」
「でも、それならどうして蓋を開けられないのでしょう?」
「それなんですけど・・・ここではないですか?」
そう言ってティリエスは箱の表面のある端を指差す。
そこに絵柄はなく箱の色より白く塗られている部分があるだけでメイサには特別おかしいようには見えない。
そんなメイサにティリエスはその意味を言うため口を開いた。
「ここに、お祖母様の名前が無いからですよ。無いから開けられないんだと思います。」
以前ここにかつて自分の名前が書かれていた空白の場所を指差しティリエスはそう言った。
いつも読んでいただきありがとうございます。




