これが夢だというのならとっくの昔に目は覚めている(さぁ、愉快なパーティーを楽しみましょう⑩)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は6/29(水)投稿予定です。
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「・・・・誰かわからないけど、どうかもう放っておいて。何度来ても私の気持ちは変わらないわ。」
「!」
項垂れている女性のしわがれ声がティリエスの耳に届く。
涙を拭うことをせず静かに涙を流して俯いて言い放った女性に思わず驚いた目で見つめそれは肩に止まっているホルアクティも同じだった。
認識阻害魔法を作動したままなのに私達の気配に気がついた?早々に見破られる事ってあまりないんだけどな・・・この人何者?
こちらを見ていないから気づかれなくてよかったけど・・・何か、魔法に長けた人なのか?それとも何かの技量か?
しかしバレてしまえば認識阻害魔法を使っていようがこの魔法の効果は皆無になる、知り合いの誰かと勘違いしたままこのまま言われた通り立ち去ることも出来るが、それは思わずティリエスはとりあえず魔法を解除する。
先程ほっといてと言われましたけど・・・まぁでも私、泣いている女性をそのままにして立ち去るなんてそんな薄情な事しませんし。それに・・・。
老婆の横顔から見えるもう何時間と泣いた様子のある様を静かに見つめる。
泣いている人をそっとしておくのも必要な場合もありますけれど、もうずっと泣いていても泣くことを辞めることが出来ない人を放っておけませんわ。
ティリエスはポケットに忍ばせてあったハンカチを取り出し、老婆へと近づいてそっと彼女の目の前にそれを差し出す。
彼女も思っていた人物とは違う人が居ることにハンカチで気が付いたようで、驚いた目でこちらを見、目と目があった。
涙で濡れているその瞳、前世の言葉で例えるなら蜂蜜色の瞳がキラリと光って、失礼だと思ったが綺麗だとそう素直にティリエスは思った。驚いて涙は少し引っ込んだようだが戸惑っている女性にティリエスは優しく涙を拭う。
女性はティリエスのされるがままであった。
「申し訳ありません、急に入ってきてしまい実は少し迷子になりまして。」
「貴女・・・もしかしてルーザッファ家のお嬢さん?」
「ご存じでしたか?」
しわがれた声で言うその女性は「えぇ、えぇ。」と何度も頷く。
「ご両親から譲り受けたというその左右の違う瞳、メイサ様からお聞きした通りとても綺麗な瞳ですね。」
知っていたのはお祖母様の知り合いだったからかと納得しティリエスは警戒を解いて彼女に接する。
「ありがとうございます、でもあなたの瞳も月の色でとても綺麗ですわ。」
「まぁ嬉しい、ありがとう。」
本当に嬉しそうに笑う女性に少しだけほっとしながらハンカチをそっと渡すと女性はハンカチを使って涙をしっかり拭っていた。
「ご挨拶が遅れたわ私はマルグリットよ、初めまして。」
「私はティリエス。ティリエス=フェルザ・D・ルーザッファと申します、気軽にティリエスとお呼びください。」
「ティリエスね・・・わかったわ。それより、ここへはどうしてきたのかしら?」
「えぇっと・・・正直申しますと散歩していましたらいつの間にか道に逸れていまして。気がついたらここまで来てしまいました。」
あの第2夫人を撒くためにここまで走って来たなんてとてもじゃないが言えないので、曖昧に濁しながらティリエスがそう答えた後、マグリットを見つめていると彼女の視線がふと自分の肩をみていることに気が付く。
「その子が貴女の霊獣ですね。」
「はい、ホルアクティといいます。」
そう言うと、ホルアクティが器用に肩の上でくるりと周り紳士のように羽を器用に曲げてお辞儀をするのを見てマグリットは驚いた後小さく笑った。
「とても、可愛らしくてユニークな霊獣なのね。」
「えぇ、ホルアクティは私には勿体ない霊獣様ですわ。」
ホルアクティを撫でながら答える。と、マグリットが先ほどとは違い酷く寂しそうに自分達を見ているので不思議に思っていると、マグリットが小さく口を開く。
「私にも霊獣様がいたの、でも今は会えないから貴女達が羨ましいわ。」
「会えないのですか?」
「えぇ、私自身にも事情があって・・・夫がどうにかしようとしているのだけど、でも私は夫には無理をして欲しくなくて・・・いいえ、寧ろ私の為にして欲しくないことなの、それなのに・・・誰も私の話しを聞いてくれない、眼も合わせてくれない。」
「マグリット様・・・。」
「偶然の出会いだけど、貴女が真っすぐ私の目を見てくれて話しを聞いてくれて少し心が軽くなったわ。」
マグリットはそれ以上何も話さずホルアクティを撫でる。
詳しく話してはくれないが、どうやら何か複雑な事情があるらしい。
まぁ、出会い頭泣いていたし勿論何かはあると思っていたけど・・・霊獣に会えないなんて。
私にとってそれはホルアクティと会えないことを意味する。
唯一の相棒に会えない。
それは霊獣と契約した者にとって身を切られるような辛さだ、自分が想像しただけでも辛いと感じてしまうのだから当事者はどんなに辛いことだろう。
何か、この人に出来ることはないだろうか?
そう思っているとホルアクティがくいくいと肩の部分の服を引っ張るので何だろうと思って彼を見ると彼はティリエスの耳元まで近寄る。
「お嬢はん、アレこの人に渡したらどない?」
アレ?・・・あぁ、あれか!
ひそひそ声で言ってきたホルアクティの言葉にティリエスは思い出し、それもそうだと彼の提案に頷く。
迷いは勿論なかった。
「どうかしたの?」
マグリットの声にティリエスは彼女を見てにっこりと笑う。
「マグリット様、ちょっと待っててください。」
「?」
そう言うとティリエスは一度扉から出ていき、誰もいないことを確認すると空間収納を展開すると迷う事なく手を入れる。
えぇっと・・・あぁ、あったあった!
そう思いながら出したのは先ほどまで持っていたアロマディフューザーの入った箱と壊れていないティリエスが錬金術を使って作ったアロマディフューザーがそこにあった。
ティリエスはさっと木箱を開けガラスが割れ石材の方もひび割れ壊れたアロマディフューザーを確認すると魔法で物を浮かせそのまま空間収納の中へ仕舞い込む。そして変わりに自分が作ったアロマディフューザーをそこに仕舞う。
・・・本当は王妃様の贈り物だったものだけどまぁ、家族には壊れた一部始終見ていたし今更渡せないし・・・いっか!
そんなことを心の中で呟きながらティリエスはそれを持ってまた小屋の中に入っていくとマグリットはティリエスの手に持つそれを不思議そうにみる。
「あら・・・それは?」
「実は私の領地の職人が作った物なんですけど、宜しければこれを差し上げますわ。」
香りを楽しむものなんですけどと付け加えて説明しながら彼女の机の前に木箱を開けアロマヒューザーを取り出し準備を始めていく。
準備をしていく中で今のマグリットの状態を聞く。
最近、よく眠れているか。
気になることはないか。
漠然とした不安を抱えていないか・・・等、あえて神妙に聞かず世間話しのようにティリエスは質問していった。
最初こそマグリットも戸惑いがあったが、ティリエスが聞いてくる様はまるでお医者様のように振る舞う小さな子供のままごとのように思え、途中から笑みを交え子供の相手をするようにマグリットも徐々に自分の今の心情を包み隠さず話してくれた。
ティリエスも別段不満に思うことなく彼女のそれに合わせて、話しを聞いていく。
「なるほど、ではマグリット様はあまり眠れていないのですね?」
「えぇそうね・・・眠れていないということはないんだけど最近不安に駆られることもあるのか眠りがすごく浅くて・・・寝ていない感覚に思ってしまうことがあるわ。」
「ふむふむ、あとは何かご不調はありますか?例えばお肌の悩みなどどうですか?」
「肌・・・。」
マグリットは一度自分のしわくちゃになった両手をしばらく無言のままじっと見つめ出したのを水を注ぎ終えたティリエスが不思議そうに見ていると、マグリットは両手を見つめながら口を開く。
「そうね・・・もし、叶えられるならこの肌を若々しく蘇ることができれば、私の心は晴れやかになるのだけれど・・・きっと、無理ね。」
おや?もしかして肌のトラブルを抱えている・・・と。うーん、でも確かに皺が多いと女性は憂鬱になるよね・・・うん、よし!決めた!
ティリエスは彼女の言葉を参考にしあるものを一つコトンと机に置くとマグリットは目を瞬かせる。
「まぁ、なんて綺麗・・・まるで虹の水が閉じ込まれているような。」
「これが香りのもとです、これは薬師であるお母様から教わって作ったものですの。キラキラして効能によって使うものが違うのでいろんな虹色の種類があるんですの。」
「本当、どれも違う色合いの虹だわ。」
そう、結果として綺麗なものができたけど精油の成分が混ざっていない感じでヒヤヒヤしたんだけどね・・・でもこうやって傾けると・・・・。
そう思いながらティリエスは決めたアロマの小瓶の蓋を開けアロマヒューザーへ傾けると色が別れていたそれが下へこぼれ落ちる際に混ざり合い光る、まるで光の滴が落ちていくそれをマグリットは食い入るように見つめる。
何滴か落とし蓋をしてティリエスはボタンを押す。
すると静かな音で震え出し、水蒸気が小さな口から昇ってくると周りに良い香りが包み込む。
「・・・とても、いい香り。」
うっとりと呟くマグリットに満足そうにティリエスが笑っていると、不意にある事を思い出し「あ!」と声をあげた。
「どうしたの?」
「大変、お父様達に遠くへ行ってはいけないと言われていましたわ!」
いい加減戻らないとバレて叱られるとティリエスは慌てる。
「もうしわけありませんがもう戻りませんと。」
「そう、帰り道はわかるかしら?」
「はい、大丈夫ですわ。ホルアクティもいますし、そうだマグリット様、このアロマオイルと使い方の説明書ここへ置いておきますから、よければまた使ってみてください。その時は旦那様も一緒に。」
「えぇ、そうね。・・・今夜にでも夫と一緒に香りを楽しむわ。ありがとう、ティリエスさん。」
微笑んでいるマグリットにティリエスは淑女の礼をすると急足でその場を去っていき、マグリットはその後ろ姿に小さく手を振った。彼女が見えなくなった頃手を下ろし彼女から贈られたものをじっと見つめる。
「とても不思議な子、メイサ様が言っていた通りだわ。なんて優しい子なんでしょう。それになんだかこの香りを嗅いでいるともう少しだけ頑張ろうと思えるのも不思議だわ。・・・夫と話しをしなくちゃね。」
そうして、また香りを感じ目を閉じた彼女は香りに誘われるようにそのまま深く眠りについたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




