如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)㉕
直接表現はありせんが暴力表現を感じさせる内容があります。暴力表現苦手な皆さまご不快な思いをさせて申し訳ありません。
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「やっと今年も終わりだね~。」
「そうだね~。」
今年最後の仕事納めの日。
私と友人は2人だけでちょっといつもより贅沢して予約したレストランで食事をし、ほろ酔い気分で駅まで歩いていた。
「そういえば明日は実家に帰るの?」
「まぁ・・・挨拶程度ぐらいだけどね。泊まるようにパパは勧めてくるけど、あの人が良い顔しないのわかってるから。」
なんてことなく彼女は言ってのける。
「それより、貴女こそどうなの?孤児院行くの?」
「それは明後日。明日は部屋でごろごろしてようと思って!だって最後の仕事の追い込み半端なかったもん、流石に・・・明日も通常運転は無理無理。」
「それなら明日行っても良い?」
「もち、あたぼーよ!いつでも歓迎!」
「言質はとりました、覚悟してくださいな。」
「・・・・・え?なんかフラグ立てた?」
怪しくフフフと笑う彼女に、私はへ、へへへと曖昧に笑う。
「そういえば、かれこれ知り合ってからもう10年は経つんだねぇ・・・。」
しみじみとそう言うと、彼女も感慨深く頷いた。
「そうねぇ、大学の頃私はお金持ちの娘として変に有名で。」
「私は、親なし苦学生の特待生で変に有名で。」
「「最初は気が合う事はないと思ってたけど、結構気が合ってね。」」
「最初に出会ったバイト先も久しく行ってないわね?」
「今度2人で行こっか?」
彼女に相槌しながら私達は改札口をくぐった。
「そういえば話しが変わるけど、小説はどのくらい書けた?」
駅のホームで電車を待ちながら私は別の話題を彼女に問いかける。
小説というのは例の数ヶ月前から書き始めたあの乙女ゲームの2次作小説のことである。
彼女は、私の話しに相槌し携帯で時間を見ながら口を開いた。
「まぁまぁってところかな。あれから数ヶ月経つけど、まだ2人の出会い編ぐらいね。何せ彼らが出会う前から事件多発なのよあのゲームの話し。まずは王女のお兄さんを助けるルートを作らないとどうにもこうにも・・・と、そういえば今日貴女、えらい上機嫌だったけどなんだったの?」
彼女に言われて、あることを思い出しぱぁっと顔を輝かせた。
「そうだ、言おうと思ってた!あのね、ゲームの称号でやっと錬金術熟練者から【最高錬金術師】と【叡智を極めし者】の称号が採れたんだよ!あと解放されてない称号が1つだけになったの!」
そうなのだ、あのいつもやっているゲームの称号をすべて回収しようと現在奮闘中でなかなか取れなかった称号が今日ようやく取り残すところあと1つだけとなったのだ。
どうしてこうして必死になっていたのかというと、例のあの夢をまた見ることがあればサクッと解決しようと心に決めていたからだ。
難しい称号を取得すれば様々なことがきっとあの夢でも出来るようになるなはず。
そうすればきっといつもよりスムーズに事が上手くいく。
更に夢に反映させるために結構色んな本を読みこんで知識を詰め込んだからいつでもバッチコーイな状態なのだが・・・。
待てど暮らせどここ数ヶ月はあの夢を見ることはなかった。
アドルフさんとリリスさんのこと、ハーティスさんのこととか、オジ様の事だって気になっている。
それに皆が関係していたあの事件はきちんと解決できたのだろうか?
気になっているので毎夜、念じて眠りにつくのだがとんとその夢を見ることはなかった。
・・・がっくりである。
「いよいよゲームのやり込みも大詰めを迎えている様子ね。本当にすごいと思うわ。
・・・・そういえば中々電車が来ないわね、遅延かしら?」
「そういえば、全然来ないけど・・・あ、今から来るみたいだよ。」
アナウンスが聞こえてきて私達はそのアナウンスを聞きいる。と彼女が急に口を開いた。
「本当に、貴女は凄いわ。」
「どうしたの急に?照れるじゃん。」
「・・・ずっと思っていたのよ。出会ったころからね。この年になってようやく口からでたけど・・・ずっと元気をもらっていたのよ。だから、家庭の事とかなんてことないっていう気持ちになれたし。ありがとうナナ。私の友達でいてくれて、感謝してる。」
冗談で終わると思っていたのに、真面目に言われて私は酔って真っ赤になった顔が更に熱を帯びるのを感じそっぽを向く。
恥ずかしいからだ、勿論。でも一つ訂正をするために私は彼女を向き合う。
「違うし。友達じゃなくて、親友!」
「・・・そうだね。」
2人して笑い合う。
私は彼女に伝えようと口を開く。
勿論私だって、彼女の存在に元気をもらっていたこと。
毎日楽しく過ごせること。
親がいないなんて孤児院で育ったことなんて、なんてことないと引け目に思わないようになったこと。
私だって、彼女の存在に救われているんだってこと。
「わ、私だってさぁ――――。」
振り向いて彼女に告げようとしたその刹那、私は目を見開く。
全てがスローモーションに見える。
彼女の背後には迫る電車の光。
そして彼女の真横から黒い両手が彼女を前に押しているのが見えた。
徐々に彼女の身体がぐらつく。
前。
線路。
落ちる。
危険。
その言葉だけが私の脳裏を掠めた。
「きぃちゃん!!!」
咄嗟だった。
彼女の身体に手を伸ばし掴む。
落としたら、死ぬ!
私は彼女のコートを必死につかんだ。
だが――――――――。
ドンっ!!と私の身体に衝撃が走った。
自分の視界がぐらついた。
何が起こったのか分からず私は自分の後ろを目だけで見る。
黒い両手。
私の肩をそれが押した。
何かを思う前に目の前が真っ暗になり、ただ強く引きずられる強い力と何か太いものが千切れる鈍い音がした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・
次に気が付いた時はまだ真っ暗だった。
一瞬気を失っていたのか。
それとも長い間気を失っていたのか。
ここはどこなのか・・・全く分からない。
分からないまま私はその場に立ち尽くす。
『私は・・・・私は・・・・死んだ?』
暫くして呆然として呟いたその一言で私が最初に襲ったのが死という事実だった。
『あ・・・あ・・・。』
言葉が出ない。
その代わりに私からとめどなく涙が流れ落ちる。
死んだ。
電車に撥ねられて。
どうして・・・どうして。
死を拒絶したい私はただただその場に蹲り堰切って声を荒げて泣いた。
けれど、そんな私の声は誰の耳にも聞こえさせないようにまるで遮るかのように闇の中にただ吸い込まれていくだけだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。次回はもう少し早めに明後日ぐらいには出来れば投稿する予定でいます。