出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(様々な思惑!暗躍!そして現実逃避!)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は3/14(月)投稿予定です。次でこの章は完結となります。
こっそりとコンテストをエントリーしました、応援していただけたら幸いです。
「フンフンフン・・・フフッ。」
教会の深夜、誰もが寝静まった廊下を小さく鼻歌を歌い時折思い出したように笑いながら、マルフェはスキップしながら歩いていく。
その後ろ姿は愉快そうに、そしてランプを照らさずほんの少しの壁の蠟燭の灯りを頼りに歩くその姿は同時に何処か不気味さを醸しながら彼は迷わず真っすぐ、他の扉とひと回り大きい扉をノックなしに開けた。
開けた先は真っ暗な寝室で月明りだけが差し込むその部屋の窓一角に、誰かが立っているのが輪郭だけマルフェの目に写り込む。
「あぁ・・・やっぱり、結局お忍びで来てたんですね。」
顔の見えないその人物に警戒心もなく近づくと、その人物の右手を慣れた手つきで取り手の甲に口づけをすると、マルフェはそのまま机にあったランプを手に取ると先ほどよりも周りが明るくなり、そしてその人物の顔も見えるようになる。
そこには清楚な白いローブを身に纏った女性が居た。
サラリと絹糸のような白金の色をした長髪にラベンダー色の瞳をしたその女性の容姿は、まさしく今目の前にいるマルフェに酷似しマルフェが女性ならその人に、その女性が男性であればマルフェと言われてもおかしくない程2人はよく似ていた。
「カリファ法王、政務の方は問題ないので?」
マルフェが指摘すればカリファの顔に先程よりにっこりと笑みを浮かべた。
「私が居ようがいまいが彼らは勝手にしているでしょう。所詮は私も彼らにとってお飾りな存在なのですから・・・それよりマルフェ、王都の神殿の中ではない、今は誰も居ない2人きりなんですからその呼び名であまり呼ばないでくださいな。私達は母親は違えど同じ血を分けた唯一の家族なんですから。」
「そうだね・・・ごめん、姉さん。でもまさかこちらに来るとは思わなかったけど。それで、本物の彼女を見てみてどうだった?予想以上だった?」
「えぇ・・・そうね、予想以上だったわ。」
マルフェとカリファは互いにそう言うと、まるで鏡合わせのようにフフッと笑い合う。
「王都の神殿に来てくれない時は、正直がっかりしたけれど・・・でも、今回彼女の起こしたことは教会にも良い風を起こしてくださいました。」
「そうだね、きっと今回の事でアメジスト商会は教会に介入しやすくなるだろうね。何せ、彼女は霊獣のドラゴンをも容易く倒してしまう稀有な霊獣を招いた。箝口令は敷くから貴族側は精々王家の耳ぐらいしか入らないから問題視してない、けど教会側は既に密偵の人間が姉さんの嫌いな彼ら・・・枢機卿達の耳には確実に入るだろうね。そして、その存在は枢機卿達にとっても喉から手が出る程欲しくなる人材・・・いや、彼らにとっては人形というのかな?兎に角、情報欲しさに商会の出入り制限が緩和するだろうね。」
「私が彼らのお気に入りの人形になりきれなかったから・・・だから今度は言いなりになる、次の法王となる器となる母体を育てたいと思っているからきっと知れば公爵から奪ってでも欲しいでしょうね。」
「でも枢機卿達はわかっていないよ。殿公爵は、普段は温厚に見せているけれど、あそこを突いたらとても怖い公爵だっていうことをね。容赦なく彼らを潰しにかかるだろうさ、その財も繋がりも着々と実を結んでいる。数年前まで裏で揶揄されていた【何もない後ろを護る事しかできない無能殿公爵家】と言われなくなるのはすぐだろう。でも、姉さんも出来れば欲しかったんじゃない?ティリエスの事。」
マルフェの最後の言葉にカリファは言葉を言わずにっこりと笑みを深める。何も言わないがマルフェの言葉を肯定している事が態度で示されマルフェは肩をすくめた。
「やっぱり、彼女に来て欲しいってお願いすればよかったかな?」
「いいえ、それは望んでいないわ。確かに出生の頃から彼女が来てくれることを望んではいたけれど、彼女を見た途端彼女には教会という窮屈な場所ではなく自由にすべきだと感じたの。私とは対極な人ですけれど・・・いつか、彼女とお話し出来れば・・・私のお友達になってくれれば嬉しいわ。」
彼女の立場からみれば、その機会が与えられるのか一体いつになるのか。
マルフェはただ普通の暮らしをしたい彼女の夢を壊しただ魔力が高いというだけで法皇という重荷を背負わせ縛り付けた枢機卿らにいつか報復させることを心に再度刻みつけながら、悲しいのだろうにその感情さえ面には出せず、笑う表情しか出せなくなった彼女の両手を握り、精一杯笑う。
「姉さん、大丈夫。僕がきっと彼女に会わせてあげる。約束するよ。」
「えぇ、マルフェありがとう。どうか、お願いね。」
マルフェは彼女に頭を撫でられながら、きっとどこかで約束を果たすことはないと思い始めているであろう彼女の心を見ないようにそっと目を閉じた。
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その同時刻、王都にあるアメジスト商会の本部のとある部屋では、今月の売れ上げを確認していたオーガは上機嫌である報告書を読んでいた。
「そうですか、ティリエスお嬢様が霊獣を・・・これは、お祝いの品を持っていかないといけないですねぇ。」
オーガもまたティリエスの霊獣のことが気になっていた人物であり、アドルフには内緒で密かに自分の密偵を送らせていたのだ。するとその報告書には彼にとって面白いことが書かれていたのだ。
最初の彼女の霊獣にしてもそう、そしてその際昨日騒動が起き彼女の霊獣が元凶に至るドラゴンの霊獣を倒し、場をおさめたということが密偵の報告書で書かれていた。
さらに他にも我が商会の者以外、教会側にあの女狐の息のかかった者らもいたという事も書かれていたのである。
これは、数日前の報告でも目にしていたことなので気にしていたのである程度分かるまでは泳がせていたのだが、まさか霊獣を使った騒動を起こすとはオーガ自身も読めなかった行動だった。
「まぁ彼女にはアドルフもレイもいますから大丈夫とは思っていましたが・・・まさか霊獣がここまでの働きをしてくれるとは・・・。」
オーガは一度そう呟いた後、最後の一文に目を通し終えその報告書はそのまま暖炉の火の中へと捨てた。
火が燃え移り燃えて灰になっていく中、最後の文章が見える。
そこには、彼女の従者であるレイが女狐の密偵共を亡き者にした事が書かれていた。
暖炉の中の紙が燃えきったことを確認したオーガは自分の椅子へと座る。今までの報告書の内容を思い出しながら今度のことを考え始める。と、その中で彼、レイの行動にオーガは口を開く。
「彼のことですから、きっとお嬢様に害をなした虫を駆除した程度にしか思っていなかったんでしょうが・・・これも上々ですねぇ。本当、最近は良いことや運に恵まれすぎてますねぇ・・・ティリエス様が何かしでかしてからですがぁ・・・彼女のおかげなんでしょうか?それとも本当に女神が微笑んでいるんでしょうか?」
おかげで近いうちに商会が教会の内部に入りやすくなる、先の未来を想像してオーガはティリエスの作り出した飴玉を一つ取り出し口に放り込んでその甘みを味わいながら不敵に笑った。
「本当、美味しいこと尽くめですねぇ・・・ん?」
遠慮がちなノックにオーガは思考を止め、目の前にある扉を見た。
いつも読んでいただきありがとうございます。




