如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)㉑
「待ってくれ妖精殿。彼らは騎士だ、それに貴女も彼らには敵対する人間はあの中にいないと断言していたではないか。」
『はい、勿論私も彼らが敵に寝返るとは考えてないです。けれど、そういう話しではないんです。』
ルドルフさんは私の言葉や実弟が選んだ部下達という存在、そして騎士の精神を信用しているのだろう。
それは決して悪い事では無いし、彼らだってそれを誇りに思っているの事は先ほどからの行動を見てわかる。
誰もが自分自身に胸を張り、自分達の行動に迷いはないからだ。
それはきっと今の地位に誇りを持てる人生を歩んで来たに違いない。
けれど、私はそれでもそうしないといけないと感じていた。
じっとルドルフさんをみつめる。
『そうすべきと思ったのは、ルドルフさんのお陰です。』
自分のお陰といわれて彼は怪訝な顔を見せる。私はそのまま続けた。
『私の作ったものを使った人にはどんなに取り繕ってもその効果、効力が分かってしまいます。それを一度体験した彼らが、もし私のアイテムを欲してしまったら・・・、それを私は危惧します。ルドルフさんは欲したのを恥じだと自分が弱いからと言いましたが、私はそれが普通だと思います。』
自分の力ではどうにもならない時、その場にそれを可能にするモノが手に届く距離にあれば人は葛藤するだろう。
正直、もし私にもそんな出来事が起これば私だって迷う。
それに実際、今ままでの人生の中で幾度もそういう事に遭遇しているしと独り語ちる。
場合によっては悪いことと知っていても手を伸ばしてしまうかもしれない。
人1人の力なんて無力だ、だから前を進むために人は周りの人を見て聞いて相談して善悪それぞれを自分の物差しで知ろうとするのだと私は思う。
知って諍いの危惧のあるその先にわざわざ行く必要はないのだ。
彼らの為にもこの条件は譲ってはいけない。
私は、私の思う善意でこの事実は隠していたい。
暫く黙ったまま2人見つめ合う。険しい顔をして見てくるルドルフさんを見てると私も心が揺るぎそうになるが、それを耐える。
「・・・・・・わかった、妖精殿。おぬしの意向に賛同しよう。」
ルドルフはしばらく黙っていたが、私にそう告げる。
私、どうやら結構緊張してたみたい。
彼の返ってきた言葉にいつもの間にか緊張して硬くなっていた肩がほっとして緩むのが分かった。
「確かに知らない方が良いこともある。今回がそれだ。弟や副団長の彼には決めた効果内容だけ伝えることにしてわしの胸に留めておこう。だがしかし、それではアイテムの効果威力をどうするつもりなのか?」
彼はそう言って紙に視線を落とす姿を見て、私も釣られて一緒になって紙に視線を落とす。
確かにじゃぁどうすんだ?だよね。
彼の最もな意見に私もう~んと唸る。あれもしたいこれもしたいと希望だけ言ってるだけじゃ何もできない、何かいい方法はないだろうか?
「せめて使用した彼らが授かったアイテムが今回限りというように思ってくれるだけでも良いのじゃが・・・。」
あ!!!
ぽつんと言った彼の言葉に私は、脳天から衝撃をうけた。
それをある言葉で例えるなら天啓を得るという言葉が一番合っているだろう。
それ程、その言葉は私にとって大きな衝撃だったのだ。
『・・・・そっか、その手があった。』
彼の言葉にある策が頭に浮かび、そして順にそれが可能か思案していく。
・・・・・うん、上手くいく。
「妖精殿、何か良い案が?」
『はい!ルドルフさん、こんなのはどうです?』
ごにょごにょと私は策の内容を彼に耳打ちすると、彼は再度それが可能なのか聞き返す。
私はもちろん出来ると断言すれば「それこそ、高等な技術なのじゃが・・・・・まぁ誰にも分からなくなるのなら・・・よいか。」と少し遠い目をして呟く。
『では、それで作ってもいいですか?』
「ああ、よろしくお願いする妖精殿。」
私は彼に承諾を得たのでニンマリと笑ったのだった。
「兄上、どうした。何か問題か?」
出立はもうすぐというところ。
最終確認をしていたハーティスと彼を補佐している副団長のエヴァイス2人にルドルフから急な召集がかけられ、彼らは彼の待つ書斎へ足を運んだ。
彼ら騎士の間で更に緊張感が高まったのか、2人から並々ならぬ気迫のようなものを感じる。
そんな様子の彼らの前にルドルフは勿論、私もちゃんといる。
ルドルフは2人を一度じっくり見た後、口を静かに開く。
「単刀直入に言おう。妖精殿に今回の件で我々に力を貸して下さるそうだ。」
「っ!・・・・兄上、それに我々は期待しても良いと思ってもいいのか?」
その言葉にハーティスは、兄であるルドルフを見つめるとすぐに返事をする。
当たり前だ。誰だって部下を犠牲にしたいなんて思っていない、そこに部下の生還率が高まるなら彼は喉から手が出るほど欲しいと思うはずだ。
彼のかなりの気迫に思わず、本当のことを言おうか決意が鈍りそうになるがぐっと堪える。
それは彼も同じだったようで、無意識にルドルフと私は一度見つめて大きく頷く。
そして今一度彼らを見つめ、ルドルフは机の上に置いてある籠を取り出し彼らの前へ差し出す。
その籠の中にあるものを見ようと2人は食い入るように見る。
そこには同じ形をした青銅の指輪と何かが描かれた布が同じ数入っていた。
彼らの視線を気にせず、ルドルフは話し始めた。
「まず多重付与が相殺しやすいという現状なアイテム付与を一時的ではあるが、妖精殿が負担をして可能にした。」
彼の言葉に思わず2人から声にない驚きが生まれる。
その2人の様子を見て、本当にこの世界ではすごいことになるんだと改めて実感した。
「相手は呪いを使う魔法だ。しかし我々には抵抗手段がなく、こちらの術者もエヴァイス君ならなんとか対抗できるかもしれないが全体的に知識も熟練度も乏しい。それをこの2つで補うのだそうだ。」
私が創ったこの2つのアイテムの説明はこうだ。
青銅の指輪は呪いの魔法が発動された場合、呪いを跳ね返す付与を付けた。これによって呪いで相手に後れをとることはなくなる。
だが、長く呪いの耐久に耐えられないので数発受けてしまうと指輪は砕け散り効果はなくなるとのこと。
もう一つの布切れは何かしら生死に関わるようなことがあれば、一度だけ回復魔法を展開することができるというもの。布に書かれている自分達には解読できない文字は妖精による術式の文字であるとルドルフは2人にそう説明する。
「それだけの物を・・・・!妖精殿!!兄上たちの命を助けるだけではなく、このような凄いものを授けていくれるとは・・・!!誠に感謝する!!」
2人は礼を述べて頭を下げた後、そのアイテムの籠を大事に抱えながら戦略を練り始めた彼らを見つめながら私は微笑んだ。
喜んでくれて本当に良かった、後は決戦のみだね~。
私は彼らにとって良い内容のアイテムだと理解し胸を撫でおろすと同時に、私は胸の内にぽつりと呟く。
まぁ、本当は違うんだけどねこのアイテム付与の内容。
私の姿は見えない・・・・だがそれでもしておこう私の心の為に。
ごめん!騙すような真似にしてまじすまんですっ!!
見えてない彼らに私は頭下げて手を合わせ念を送るように思いっきり謝ったのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
携帯からの投稿なので後日訂正するかもしれません。ご了承ください。
次回も来週土曜日投稿予定です。