如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)②
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「休憩中によくまぁ飽きずにそれやってるよね。」
午前の仕事もようやく終わりお昼休憩しているいつも場所でゲームを起動させた私に、親友が頬杖をつきながらそう言う。
私はちらりと彼女を見て大きく頷いてゲームを操作する。
「だって、ようやく皆成長できたんだもーん。町の復興とかダンジョンとかサクサク出来てウッハウハ~。」
「最初なかなか進化?できなくて嘆いてたもんね。」
「違うし成長!進化じゃない!」
こことても重要です!という私に友人は適当に相槌を打つ。
「ごめんごめん、ええとなんだっけ?魔王に子供にされたNPC達を成長させて一緒にダンジョン攻略して国を再復興するゲームだったかしら?
なのに2年半もソロで攻略ってなんの拷問よ。初めてから今年で4年目・・・・だったかしら?」
彼女は指折り数えてそういう。
そんな彼女に私は顔を上げると自分もどの位このゲームを費やしているのか考えてみる。
「えっと、5年、6年目ぐらいしてるかな?だって元の姿に戻すのにバラバラにされた魂の欠片を1人100から150ぐらい集めないと元に戻れなくてさぁ。本当に材料集めと一緒に地道に探したなぁ・・・・・・。」
本当よくあんなにも地道に頑張ったなと思う。
「最初はなかなか大変だったけどでもそのおかげで私レベルとかスキルとか結構頑張れたし、ソロでもラストダンジョンいけそうな感じ。」
「広く浅くな私にはえらい長いわ!本当に何でもだけど嵌ったものにはコツコツやってるよね~。・・・・げ、そして何そのステータス!もはや神ね!てか魔王逃げて!」
彼女に見せるようにして見せた私のアバターのステータスを見て驚きながらも彼女も携帯ゲームをいそいそ起動させている。
類友なので彼女も私と同じゲーマーである。
といっても彼女の専門は育成やRPGより乙女ゲームを主にしている人なので私とは系統が違うゲーマーで且つ貴腐人な御方である。
趣味は広く浅くという彼女ではあるが、最近のゲームは珍しく結構やり込んでいる。
以前彼女に搔い摘んでストーリーを教えてもらった、簡単に言うと魔法があるファンタジーさ満点の学園の恋愛ストーリー、どちらかといえば王道の類のストーリーだ。
主人公はとある平民の子。
率先して家事やお手伝いなどを手伝うような優しい子であり、更には同年代の子達よりも物覚えが良く、勉学意欲が強い子でもあった。
何一つ不満を言わず家事や困っている人を手伝い勉強もできる少女。
勿論、そんな少女の性格や姿勢に村の人々は優しく見守り、誰からも彼女は好かれている存在だった。
平民の学校は12歳までで卒業を控えていたヒロインは仕事先を探していた矢先、彼女の能力を高く評価していた神父様が彼女をこのまま終わらせるのは惜しいと思い至り、伝手を頼りに貴族の魔法学校に行くよう勧められたのが切っ掛けである。
裕福ではない家庭でこれ以上我儘は言えないと一度は断る彼女だが、両親の説得や周りの後押しに心を動かされ、ヒロインは特待生として貴族の高等学園へ入学することを決意する。
学園生活を送りながら話を進めていくことからこの物語は進んでいくのだが、話しが進むにつれ彼女がいる国と隣の帝国との同盟の均衡が崩れ悪化していく。結果最終的に国同士の戦争の話にまで発展していく。
均衡を崩したその背景には勿論陰謀がある。
元々同盟をより強く結ぶ為に王国の第1王女と帝国の第3皇子とが婚約したのだが、この王子が根っからの悪役で王女の国を唆し公爵家という身分であった悪役令嬢と結託して帝国に宣戦布告の戦争をけしかける為である。
悪役令嬢はヒロインと学園での接点があり、悪役令嬢らしく戦争と同時に学園は学園でヒロインに悪質な虐めもしていくという徹底ぶりだそうだ。
少しあらすじから外れるが、どうして首謀者2人がこんなことを起こすことにしたのか。
この2人、結構同情する人物設定であった。
まず戦争を起こすきっかけとなった人物の皇子。
帝国の第3皇子は帝国を継ぐ第1皇子その次の第2皇子とは母親が違い、母親は皇帝の側室で更には母自身身分が低かった。
彼を産んだ後母親はそのまま息を引き取るのだが、彼を守ってくれるものはおらず幼少期の頃から様々な悪意に晒される日々を過ごすことになる。
誰も味方がいない、皇妃に命を狙われる日々。それでも何とかギリギリのところまで彼は耐えていた。けれどそれも自分で壊してしまう。
自分の母が生前残していた日記を見つけ明らかになったのが、愛していた婚約者がいたのに珍しい瞳を持っていたことで無理やり側室にされたこと。
婚約者だった男は皇帝の命で先の戦争で前線に送り出され戦死したこと。
自分の母親も同じように味方誰ひとりおらず、自分の周りは悪意や脅威にさらされていたこと。
いつか近いうち自分は皇妃に殺されるだろうということ。
そして苦しみに耐えながらも最後まで自分の子を案じている内容だった。
全て読み終えた後の皇子は・・・・今の自分、自分の母を死へと追いやった帝国を憎み恨みそして、いつしか自分が帝国を滅ぼすことを望んでいった。
悪役令嬢に至っては家族に愛されず幼少期を過ごしていた。
愛を切望したが多くの裏切りに絶望した彼女は誰にも傷つけられない地位をいつしか欲するようになり、彼女が考え付いたのがこの国の王妃という地位につくことだった。
ただの思いついたそれは彼女の中でだんだん固執し更には執着し、彼女は心血を注いでいくようになる。
努力の甲斐あってようやく王太子である第2王子の婚約者に納まり、ようやく自分が夢見た願いが叶うと思ったその矢先に本作のヒロインと自分の婚約者の第2王子が親密になっていく様を見せつけられ・・・・・自分の婚約者をとられると思い邪魔者を排除できるならと手を組むこととしたのが理由とのこと。
でも結局2人の暗躍も珍しい魔力を持っているという設定のヒロインが最後には女神の力を覚醒して、様々な悪事を暴き且つ戦争から皆を守り抜くので結局彼らはヒロイン達に敗れ・・・・・・・・。
結果悪事にかかわった人物は皆処刑され、最後には攻略対象の青年の誰かといい感じなって何かしらのハッピーエンドを迎える・・・・・・という話の流れである。
他にはダンジョンに潜ってレベルを上げることもしたりするのでRPG仕様なところもあるので聞き終わった私は面白そうだと思ったのだが、ここも珍しく彼女は渋い顔をしていた。
いつもなら嬉々と攻略を進める彼女なのだが、どうやら今回のゲームは面白いと思わないという評価であった。
というのは、今回彼女はメインヒーローや他攻略対象ではなく彼女が推しているのは悪役の第3皇子なんだそうで、第3皇子の救済エンディングを見つけることというあるのかないのかさえ分からない目標を彼女は掲げゲームをループしている状態だった。
珍しく飽きることもなく何度もやり直し、その度に毎回最後に寡黙な王女と一緒に公開処刑されるのでどうにかして救いたい、製作会社とシナリオ書いたやつが憎い!と怒りながらカチカチゲームを進めている状態である。
攻略対象そっちのけの進め方に制作会社真っ青である。
「広く浅くていってるけど珍しく今回のゲーム続けて長いよね?どう?エンディングありそう?」
「・・・・・・・・・・・・・・製作会社。」
ぽつりと漏らした彼女の言葉の中にある怨嗟の声が聞こえ私はひくりと顔を引きつらせた。
一体今日で何回目のやり直しをしているんだろうか?
彼女の顔を見る限り今回もバットエンドなんだろうな・・・・・第3皇子的に。
そんなことを思いながら私は私で携帯から見える彼らに指示を出しながらダンジョンへ行く準備を進めたのだった。
勿論ゲームループしているときはスキップ・早送り機能使ってます。〈友人〉
読んで下さりありがとうご会います。