出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(カッコイイ!可愛い!私の相棒さん!⑨)
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回は金曜日投稿予定になります。
「どうかされましたか?」
『・・・・・・・いや、黙っていても仕方ない。ティリエス殿、恥を承知でお願い申す。どうか、どうかその枝をまだ持っているのであれば我らへ譲ってはくれぬだろうか?』
ラニングが緊張した声で言いきった後頭を下げてきたので、思わず「へっ?」と素っ頓狂な声をだす。
その声に驚いてなのかそれと緊張していたせいか一瞬だけ彼は肩をすくませたが、私の反応に疑問を持ってかそろそろと頭を上げてきた。
「そっか、これで魔獣へ転じれるかもしれない・・・ということでしたね。」
彼の頼みごとに納得しつつも、ある問題が発生したことに私は眉間に皺を寄せる。
それはこの枝の特性だ。
どれを食べても1つ食べれば彼らは本来の力を発揮することが出来る魔獣へと転じれるというのならいい。
それなら今保管している分でも十分に足りるだろう。
だが私が気にしたのは鑑定で判明したことだが、付属された能力最大値の種類がランダムだということ。
もしあの時、彼の食べたこの枝が魔獣へ転じることが出来る特別なものが付与されていたという事であれば、恐らくここに居る全ての彼の同胞が魔獣に転じることが出来る可能性はとても低いものとなる。
それは彼の望むものではないだろう。
黙っていたティリエスは目の前にいる彼、そして固唾をのんで見守っていた他の馬達にも説明をする。皆、黙って私の推察を聞きそして、静かに目を閉じた。
『そう・・・であるか、それなら例え全てを譲ってもらったとしても・・・そうか。』
彼もまた静かな声色でそう呟くそれは諦めの色を滲ませていた。
どの馬も悲しそうな表情でその場に立っているのを見てティリエスの心も沈んでいく。
その時だった。
「ヒヒーン!!」
一頭の馬の声にティリエスと馬達が顔をあげる。
そこには一頭の幼い白い馬が静かに佇んでいた。
周りの馬と比べれはその体躯は小さく庇護対象としてみてしまうが、顔は利発、誰よりもこの子は冷静に物事を見ている眼でこちらを見つめていた。
「・・・あの馬は?」
『我の倅だ。』
ラニングがそう短く答えると、彼もまた馬の鳴き声を返す。すると、今度は立て続けに幼い馬は鳴き始め、それに答えるようにラニングも鳴き返す。時折周りの馬も鳴き声を発する様子に何かを話し合っているのだろうとティリエスは黙ったまま見届けた。
暫くそれは続き、最後のラニングの高らかに鳴く声でそれは終わり一瞬で静まり返った。
『・・・皆で話し合った、ティリエス殿。』
「はい。」
『我らは話し合った結果この枝を譲ってほしいという願いを取り下げることにした。』
「そう、ですか・・・。」
どうやら彼らは先ほどの話し合いで自分達は何を選択するのか話していたのだろう。
そして、彼らはこの力が得られる枝を食べるという選択を辞めたのだ。
でも、これでよかったのかもしれないとティリエスは心の中で呟く。
ラニングは兎も角、もし譲るとなれば誰に食べさせるか彼らは決めなくてはいけない。
それは今の彼らの絆を傷つける恐れのあるものだ。
残念な話しだが、その選択を正直私はして欲しくはない。
彼らにはつらい選択をさせてしまった『そこで、我らは別に新たな頼みごとを聞いてもらいたい。』・・・・ん?
ティリエスは彼らにどう声をかければいいのか悩んでいると、ラニングの言葉に一瞬思考が止まる。
「新たな頼み事?」
オウム返しにティリエスは聞き返すと、彼は小さく頷く。
『左様、我らの頼みはこのパースニップの枝を栽培という形で育て我らに提供して欲しいのだ。』
「なっ・・・・。」
なんだって?
裏設定:ティリエスがいない場所での一コマ編
一方その頃、ティリエスと別れたレイはというとーーー。
「以上で今回の奴らは処理という形にした・・・が、旦那様ぁ?」
レイはソファにだらりと力を抜いてだらんと座って書類を見ている自分の主人にあたるアドルフに声をかける。
アドルフはチラリとそちらを見たが、だらりと座っているレイに対し別段注意することもなく、また書類の用紙に目を通し始める。レイはレイで構わずアドルフに話し続ける。
「最近、お嬢様にまとわりつく虫、最近ちょこまかと飛んで面倒になってきたんだがぁ・・・もう、いい加減虫の巣を潰してもいいだろぉ?」
随分と棘のある言い方でレイはアドルフにそう提案する。
あの子と一緒に行動する時間が少なくなり、苛立ちが隠せないようになっている・・・か、ちっ、もう少し我慢すればいいものを。
アドルフはこの男と自分の娘との時間を作らせたくないと思っているので今の状態にやや満足していたが、こいつが怒りで独断に出てもそれはそれで面倒だとも考える。
「巣を叩くのはもう少しまだだ。」
「俺ならぁ、問題ないと思うんだがなぁ・・・憂さ晴らしにちょうどいい。」
「だめだ、王がまだと言っているんだ。それにあいつはそれ相応に罪を償う必要はある。それに」
「あぁ・・・わかってますよぉ?あの薬を売っていた奴、あの薬で夫人は死にかけた・・・あんただって相当苛つているんのは知ってるさ。」
それを聞いて思い出すのはリリスの妊娠の件だ。
妊娠抑制剤を飲んでいたにも関わらず妊娠したあの件、すぐに薬を調べれば妊娠促進剤が紛れていた。
その理由は言わずもがな、リリスを亡き者にし己を絶望させる為のものに違いない。
ティリエスのおかげで事なきを得たが、もしあの時リリスを手放していたら何をしでかしていたのか・・・。
実際、口を割った商人の最後はもう少し軽くしてあげても良かったかもしれないと思うほどだったのだから。
まぁ妻も娘も預かり知らずなことだし、もう過ぎた話だとアドルフは別段気にすることもなくレイに返事をする。
「だからだ、だから待つしかないんだ。今は。」
「・・・・・・わかりましたよぉ。ただ、そうなったらあんたきっとイイ顔してそうだ。」
アドルフの顔を見てニヤリとレイは笑ったのだった。
(というまぁ、この2人は常に不穏です・・・っていう話し。実際レイがいないときこの人何してるの?というのをかくと15Rから一気に18Rにあがると作者は思ってます。)