出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(カッコイイ!可愛い!私の相棒さん!⑥)
目の前にいるラニングは目の前に居る私の姿を捉えるとその柔らかく長い尾をゆらゆら揺らす。
どうやら嫌われているわけではなさそうだ。
触ってみたいと思ったがそれは我慢し眺めるだけに徹した。
「馬ってこんなに大人しいんですね。」
「私も今まで馬を気にしたことはありませんでしたが、どうやらこの馬たちは特別らしいんですよねぇ。」
「?特別ですか?」
「えぇ。見習い従者の頃に聞いた話しですが、知能数は他の馬とは違い高く、意思疎通は図れないだけで人の言葉を理解している・・・なので己の意思でルーザッファ家に仕えているという思いからこのように礼儀正しい馬が多いときかされました。なのでお嬢様の家の者には決して危害は加えず身を挺して護るのだ・・・とも。それを聞いた時はたかが動物が・・・とも思ったこともありましたが、他の馬とは確かに違う・・・馬が纏っている空気が違う。」
レイはそう言うとジッとラニングに対し鋭い目を向ける。
「特にその馬、その馬はそれが濃く感じる。」
レイの言葉に自分もラニングの顔をジッと見る。
レイのようにその纏っている空気・・・というのは正直私にはわからないが、ラニングの真っ黒な瞳をみても特に嫌な感じに思わないので首を傾げるしかない。
「でもそのお話しを聞きますと、この馬達は私達ルーザッファ家の第2の騎士、という事なのですね。」
そう言えば、心なしかどの馬も胸を張り誇らしげにしているような姿に見え、ティリエスは思わず目をぱちくりさせた。
本当に言葉を理解しているかのような行動だ。
そう言えば、以前ラニングに話しかけた時も絶妙なタイミングで返事を返されたり表情も変わって見えたことも思い出す。
すげぇな・・・馬達。
感心していると、レイがふと出口の方へ視線を向けたので何事かとティリエスもそちらを見る。
「・・・旦那様が戻られたようですね。お嬢様、先ほどのご報告をしなくては参りませんので一度ここを離れますが、誰か御付きを呼びましょうか?」
「うーん・・・別に一人で大丈夫です。私ももう少し馬達を見てから戻ります。」
「畏まりました、では・・・。」
恭しくお辞儀をすると、フッと彼は目に見えないほどの速さであっという間に屋敷へ向かっていった。後からやって来た横風で靡いた自分の髪の毛を抑える。
「・・・・いつもながらなんという速さ。」
ぽつりと漏らしながら出入り口に向かって独り言ちる。
グリップさんといい、さっきの彼の走りといい、こうも皆早く走れるのだろうか。
「本当、もう姿が見えないし・・・どのくらいの速さで走っているんだろうか・・・マッハ1ぐらい?」
『“まっはいち”という言葉が理解出来ぬが、彼奴の走りは中々だと我も思うぞ!我でもあのように走れるか分からぬ!』
「マッハだと本当に凄いのでこれは比喩表現と言いますか・・・そうですよねぇ・・・ん?」
つい言葉が聞こえ返事をしたが、はたっ・・・というのを止める。
・・・・今、誰に私は返事をしたんだ?
『こちらですぞ!ほら後ろ!』
今は誰も居ないはずこの場でもう一度声をした方を振りむく。
後ろをみればラニングが立っていてこちらをジッと見つめていた。
・・・え?もしかして?
ある可能性を見つめティリエスは恐る恐る声をかける。
「もしかして・・・ラニング・・・さんですか?」
そう目の前にいる馬に問いかけてみる。
だが数秒待っても馬から言葉を発することはない。
やはり私の勘違いか?
そう思った時だった。
『おぉ・・・やはり、我の声が聞こえるか!』
また声がし、パッとまた目の前を見ると先ほどとは打って変わり変化が見られた。
そこには先ほどまで黒い瞳であった眼が真っ青な蒼い瞳へと変化しほんのりとだが体中に淡い光を纏っているように見える。
「やはり貴方が?」
『左様、ようやく我の言葉を聞くことが出来る・・・いや、違うな。そなた、あの時の妖精殿であろう?』
確信をついた質問の言葉に、ティリエスは思わずギクッと周りに人がいないかさっと辺りを見渡し居ないことを確認した後、小さく頷く。
「その通りです、でもそれは秘密にしているので内緒にしていて下さると助かりますわ。でもどうしてお分かりに?」
『何、我らには魔力の流れを視ることが出来る・・・あの時と今、そなたの魔力のオーラは隠していていても分かる。だが、それも時代と共に随分前に廃れていた我らの能力のひとつであるが。会話もそうだ、この念話も随分前からできなくなり今となっては我らの昔話として語り継いでいたもの。』
念話・・・確かに、ラニングは口を開いていないし、驚いて分かっていなかったけど今冷静に聞いたら直接頭の中に響く声だ。
彼の言葉に耳を傾けながら確認したティリエスは早速だが質問をする。
「貴方が会話できるという事はお父様達はご存じですか?」
『いいや、実はそなたに話しかけた今回が初めてだ。』
その言葉を皮切りに彼はこれまでの話しを始めた。
そもそも彼らの祖先は魔獣、魔力の帯びた知能の高い動物種族であり今では凶暴化する魔獣つまりは魔物からは考えにくいが人とこうして共存する種族も居たのだ。
彼らもその種族の1つではあったが、段々と数を減らし能力も衰退し今ではただの動物、普通の馬より知能の高いといわれるまで衰えてしまった。
ラニングもまた言葉は理解できるが会話などできない、他の馬と同じ状態だった。
でも、それがある事を機に変化することとなった。
『その変化があったのは、そなたにあってからだ。こうして念話もでき魔力も視れるようになった。それだけではない、我の寿命も身体の衰えも未だ感じん。一体そなたは我に何をしたのだ?』
その質問にティリエスはここで初めて首を傾げた。
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