出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(嬉しい!悲しい!諦めない!㊲)
いつも読んでいただきありがとうございます。
第3章前半は次回でお話し完結です。(多分、長いかもしれませんが・・・。)
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それから数か月後。
箱庭にある神殿内のとあるベンチでシナウスは静かに鼻歌を歌いながら目を下に向けそれを目で追っていた。
本日は快晴の日。
毎日決められた天気が寸分狂わぬ訪れる偽りの空だというのに、今日はなんだかすごく良い天気と思えるのは今自分の手元にある物の存在のお陰なんだろうとシナウスは記されている文字にそっと指でなぞった。
穏やかな気候の中かさりと一枚の紙が音を立てた。
「・・・シナウス、お姉さまの手紙は読み終わりましたか?」
「!王妃様!」
後ろから声を掛けられたシナウスは驚き飛びのくように椅子から離れると、いつの間にか神殿の祈りの間から出てきて背後に立っていた王妃の前で膝をついて頭を垂れた。
忘れていたわけではないが、王妃の警護を任されて同行していたシナウスにとって失態であった。
そんな慌てた様子のシナウスを見るのは、悪いと思いつつも王妃はクスクスと笑う。
「そのようにお笑いになるとは、酷いですよ王妃様。」
「フフ・・ごめんなさい。だって、気配に人一倍敏感な貴方がそんな風に驚くなんておかしくって。そんなに何度も読んでいつか手紙の字が読めなくなってしまいますよ?」
「大丈夫です、本物は保護魔法をかけて部屋に保管してますし、これは模造品という魔法で作ったものですから大丈夫ですよ。」
「そ、そうなの。それは・・随分厳重ですね。」
頭を上げてシナウスがきっぱりとそのように言い切ると、王妃は少々戸惑いながらも率直な気持ちを伝えた。
シナウスはにっこりと笑うとその持っていた手紙に視線を落とす。
「えぇ。何せ、姉様からの感謝の手紙ですから。ただの手紙とはわけが違います。」
自分達が赴いた5日後に自分達の頭上に手紙が落ちてきた時は何事かと思ったが、差出人がティリエスだと分かると他の目も憚らずその場で手紙を読む。
内容はこの前の謝罪とある方法を用いれば自分の母親の回復の兆しがみえ、良い方向に向かっている事が書かれていた。
手紙に書いてある内容の言葉がここに居る皆がどんなに喜び嬉しかったことか。
「同様の手紙をレンジさんも貰いながら泣きながらそのように仰ってましたね。だんだんとあれから良くなっているのだとお聞きしてますから・・・もう、お姉さまのお母様は大丈夫でしょう。けれどこれからが女性にとっては正念場、母子ともに健康で無事産まれてくるまでは安心できませんから。」
「そうですね、でも、あの姉様の事ですから、些細な不安でさえ全て摘み取って滞りなくその日を迎えるでしょう。」
「そうね・・・あぁでも羨ましいです。お姉様に私も会いたいですのに・・・今度は私もついていっていくというのは駄目かしら?」
「そのお願いは恐らく却下されるでしょうね。」
すかさず言われたシナウスの言葉にしょんぼりと王妃は肩を落とす。
「今は文通だけで我慢してください、あちらの世界と繋がっているとはいえまだ不安定な部分がありますから。」
「そうね・・・我儘は言ってはいけないわね。時が止まったこの箱庭では子供は大人の年齢で肉体で止まりそれからは肉体が老いることも死ぬこともない。私も皆と待てます。今は生まれてきた民の自分の子らの成長を見守りましょう。」
「・・・そうですね。」
機嫌よく歩き出した王妃の後ろを少し遅れてシナウスは歩き出す、そしてふとある事を思いだす。
世界の繋がりの不安定確かにそれもある・・・が、それは姉様の魔力が日に日に増えている事から遠からず行き来は安全になっていくだろう。
だが、あの屋敷に一人・・・油断できない人物がいる。
姉様の従者。
彼は薄っすらだが僕達の存在に気が付き始めている。
姉様の部屋の所かしこにマーキングのように自分の魔力を付着させている。
今はまだこちらの動向を伺っている状態だが、きっとその従者が僕達を排除する人間と判断すれば屋敷の見えないところで処理された人間共と同じ末路を辿るかもしれない。
その従者の判断基準が姉様に害をなそうとする人間だから該当しない僕達が曖昧で判断できず泳がされているのかもしれないが。
まぁ、なのでそんな危険因子がいる場所に王妃様を連れていくのは無理な話しだ。
「今日はお姉さまはどんな日を迎えているんでしょう。」
「そうですね。姉様の事ですからきっと、笑顔で過ごしていらっしゃると思いますよ。」
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「アイルお兄様・・・どうでしょう?」
ティエスは不安な目でアイルをじっと見つめる。
アイルはスープに口をつけ、喉仏が上下した瞬間ティリエスもまた緊張してごくりと固唾をのんで見守る。
かたんと持っていたスプーンを机に置いてアイルはティリエスの方へ振り向く。
「うん、鶏の臭みもない・・・香草が良く効いている。」
「つまり・・・?」
「美味しいよティリエス、これなら大丈夫だよ。」
にっこりと美しい笑みを浮かべてアイルは太鼓判を押すとティリエスは不安な顔がぱぁっと花が咲いたような笑みに変わり、隣にいたギリアにハイタッチをするとパチンと子気味良い音が鳴った。
「やりましたわねギリア!」
「えぇ、これで奥様も美味しく食べてくれます!」
「ありがとうございます、お兄様。休日中なのに我が家に来てもらって、学園の交遊もあったでしょうし、しかも来て数日毎日こんなに試食して頂くことになってしまって・・・。」
そう言って、そっと彼の後ろにあるまだ洗われていない寸胴鍋と幾重も積み重なった皿の山に目を向けてそっと目をそらした。
確かに料理に使う香草の配合量を比べる為に様々な料理を拵えたとはいえ、お兄様の食がグレードアップしている!
でも太らない・・・なんで?
何時も気にしないようにしていたが、とうとう今回で明らかに体と量の比率が可笑しいほど食べているアイルに若干彼の胃についてぞっとしたが当の本人はけろり顔だ。
「今回は今ここに来れない王都に居るルドルフ様のお使いも頼まれて来たし、ティリエスの顔も見たかったし全然。試食だって僕にはとてもうれしいよ。いっぱい食べれるし美味しいし、それに最近よく剣の稽古でよくお腹が空くんだ。正直言うとまだまだ食べれるけど・・・料理完成しちゃったから少し残念だね。」
「う・・・うふふ、では夕食はいっぱい食べて下さいね。」
ティリエスは取り敢えず笑顔で誤魔化し、そんな彼女の気持ちに気づくことなく機嫌よさそうにアイルもまたにっこりと笑顔で返した。
「それよりお嬢様、そろそろ昼食のお時間。今日はジョアナ様の往診でもありますからそろそろ行きませんと。」
ギリアの言葉にハッとし、ティリエスは身だしなみのチェックした後大きく頷いた。
「えぇ、それではギリア、今日も渾身の逸品を食べて頂きましょう!」
そう言って彼女達は勢いよく出、厨房を後にしたのだった。
裏設定:アイルの腹減りは学園でも有名で学食のコックも彼だけ別枠で料理を作って泣かせているのだとか。提供する皿がパーティ皿スープも鍋で提供されているので誰もが自分の皿を3度見をするほど。
彼がそっと腹を撫でた時の仕草にコックたちはいつもドキドキした面持ちで見ています。(満足した?足りない?どっち?!という感じ。)
大食いな彼ですが、女学生から贈られるものには丁寧に断っています。(何が入っているか分からないからね。)