出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(嬉しい!悲しい!諦めない!㉟)
今年もあと2ヶ月かぁとしみじみしたと同時に、ある事に気が付く。昨年の1月からこの話し掲載始めたんですが、昨年でここまで書きたかった話しまでかけずじまいで、その時もまぁ今年あげるぞ!みたいな感じの事を言っていたと思うんですが、その書きたいと言っていたのは4章までなんですけどまだそこまで行きついていない事実を今思い出しました。(今年中に書けるのか?書きたいなぁ・・・。)
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「うっ・・・ぐぅ。」
「いいんだよ、リリス。我慢することはないよ、全部吐き出しな。」
自分の娘であるリリスの何度も背をさすりながら、ジョアナは自分の不甲斐なさにただ歯を食いしばり辛そうに嘔吐する娘に寄り添う。
・・・娘の打つ脈が日に日に弱まっている。
リリスの手首を持ちながらジョアナはここ最近の彼女の体調の不安定な数値の表れ。
長年様々な患者を見てきた自分の経験から、もう娘の意識が混濁する兆しが見え始めていることにジョアナは神に祈りたくなった。
本来であれば、ずいぶん早い段階から娘は意識がなくなりそのまま死ぬまで眠るだけの状態になっていたことだろう。
それを娘は、耐えて耐えてここまで持ち堪えていた。
けれどそれももう・・・。
「ふふ、お母さん今・・・私よく生きてるなって、思ったでしょ?」
吐き出して少し楽になったのか、リリスは桶を持ったまま微笑んで言った言葉に一瞬だけどきりとする。
「・・・馬鹿なことを言うんじゃないよ、全く、領地に戻ったベルダといいうちの子供達はなんてそうなんだろうね。それだけ減らず口を言えるんだ。まだまだ女神の橋へ行く事はないさリリス。」
彼女の持っていた桶を奪うように取り上げ横になるように促すが、リリスはそれに従う事はなく更に口を開く。
「ねぇ、お母さん。」
「なんだい。」
「私、本当に幸せよ。大好きな人と一緒になって、可愛い娘にそれに自分の好きな仕事もさせてくれる。一緒に頑張ってくれる仲間もできた。・・・本当ならその幸せを無くすかもしれないリスクをしない方が賢い選択かもしれないけど、不思議とこの子達を選択したことをまだこんなになっても後悔してないの。」
「そうかい、それなら余計に体調を良くして出産に挑まないとね。アドルフ卿もティリエスもそう思っているよ。」
「うん、本当にそうだね。・・・でもね、お母さん。もし、私がもし助からなかったら・・・どうか私の家族をお願い。」
その言葉に作業をしながら聞いていたジョアナは手を止めてリリスを見つめる。
頬がこけた娘の瞳には切に願う色を持っていた。
命を捨てたわけではない・・・けれど自分の体のことを理解している彼女の言葉にジョアナは彼女の手を握りしめる。
「馬鹿を・・・言うんじゃないよ。」
「・・・有難う、お母さん。」
ジョアナはそれしか言えず項垂れる。
もし、ここに女神が聞いているのならと彼女は思い願った。
家族思いの優しい私の娘を。
どうか、どうか女神様。まだ、私の娘を連れていかないでください。
身近な人を助けたいが故に多くの医療を編み出してきたというのに自分はなんと無力なんだろうか。
自分より先に逝ってしまいそうになっている娘を想い、ジョアナの目から涙が溢れそうになるその時だった。
ドアを叩く音がした。
その音にジョアナはリリスに見られないようにサッと涙を拭い、扉を見やる。
ドンドンドンと強く叩く扉の向こうに居る人物にジョアナは眉を顰める。
「何かしら?」
「ほんとさね。ここに病人がいるというのに。」
「あら?お母様私はちょっと体調を崩しているだけで病人ではないわ?」
「そういうのはいいんじゃよ!・・・全く。誰さね?そんなに強く叩いて。」
鍵を開けて扉を開けると、その人物に思わず目を丸くさせた。
そこには従者に抱き抱えられているティリエスの姿があった。
一瞬、何か孫の身に何か起こったのかと外傷や顔色を見るが問題ない様子だったのでジョアナは首を傾げた。
何もない・・・けれどどこか、妙に急いでいるような雰囲気を纏っている彼女に不思議と思いつつ口を開いた。
「どうしたんだいティリエス?今日はお茶会に誘われていただろう?何かあったのかい?」
「あ、あの!お、お母様!お母様は起きていますか?!」
「リリスかい?丁度横になるところだけど一体どうしてそんなに慌てているんだい?」
それを聞くや否やティリエスはそのまま中へ入っていく。
いまだよく分かっていないジョアナはその奇怪な行動にますます首を傾げ自分もリリスの元へと戻った。
「レイ!おろして!」
そう言うとレイは恭しくティリエスを下す。
「どうしたのティリー?」
「お母様っ、お母様っ!今からこれ、これ使って!」
このように興奮したティリエスの見るのはリリスも初めての事だったので、とりあえず彼女を落ち着かせるようにゆっくりと「どうしたの?」という。
すると彼女はリリスの前に掌を見せるように前へと突き出しあるものを見せる。
左右の手には彼女の掌ほどの大きさの石が1つずつそこにあった。
ただの石ではない。誰かが磨いたようにつるりとしており、黒い線がぐるぐると渦巻いている模様がある少し珍しい色合いをした白い石だった。
しかし、磨かれているとはいえただの変哲もない石だ。
何故ならこれは、この領地では特に珍しくもない山から採れる石だったからだ。
「これは?」
「トーラから借りました!これで、お母様の体調が良くなるはずです!」
そう言い切ったティリエスの言葉に「馬鹿な。」と真っ先にジョアナが浮かんだ言葉だった。
そんな石に一体何の効果があるというのか、いや、ないだろうと可哀そうなものを見る目でジョアナは目の前の幼女を見つめる。
家族が死ぬという運命を突き付けられた人の中に、こうして何かに縋る人を幾人も見てきた。
信憑性のない眉唾のものに翻弄され、それでも助かる事を信じてやった人のそれを見ているようだった。
ジョアナはふとリリスを見て驚いた顔をした。
リリスは最初驚いていたがティリエスの表情を見ていたかと思えば、急に神妙な顔つきをしたのだ。
ティリエスの表情はこちらからだと背を向けられて分からない。
だが、リリスが興奮した子供を宥めさせるのをやめたその顔にまさかと思った。
信じているのか、5歳にも満たないこの幼女の言葉を。
「どうすればいいの?」
リリスは一言そう言うとティリエスの目の前に両手の掌を差し出すようにする。
ティリエスは、リリスの掌に石を其々を置く。
「お母様、自分の魔力を右の石には送るように念じて、左の石に自分の身体を通してやってきた魔力をまた右の石へ送り返すように念じてみてください。」
「わかった・・・やってみるわね。」
説明を聞いたリリスは目を閉じてティリエスの言う通りに念じてみる。しかし、いくら時間が経っても何の変化も兆しも見られない。
「やはり・・・お母様・・・。」
何の変化もない事に何かティリエスはぶつぶつと何かいうと、今度はリリスの掌の上に自分の手を乗せる。
彼女自身何かをしているようだが、それもすぐに辞めたようだ。
「駄目だ・・・私では差が・・・。」
「失礼します。お嬢様旦那様をお連れしました。」
今度はやってきたのはアドルフとティリエスとよく居るギリアだった。
アドルフもまた緊張した面持ちで入ってきた彼に、ティリエスが父を見るその横顔はまるで何かに縋るように父親の顔を見つめていた。
ティリエスを一度見やったアドルフはティリエスに対し何か決意したように頷き、今度はアドルフがリリスの前に膝まづいた。
「リリス、今度は私も共にしよう、まだ出来るかい?それとも、私とじゃぁ不安かい?」
「いいえ、寧ろ貴方ほど心強い方が何処に居ましょうか。」
違いないと、アドルフは少し笑った後リリスの手を握り彼は微動だにしなくなる。
「どうか、上手くいきますように。」
ティリエスが手を組んで祈るように呟く。
「っ!こ、これは!」
ジョアナは驚いで、その光景を見つめる。
アドルフとリリスの手が光始めたのをジョアナは捉える。
よく見れば、彼らの手ではなく2人が包み込むように持っている石からの光だった。
これが、魔力。
初めて可視化した魔力の漏れ出た光でさえ美しいと思える輝きにジョアナは魅入られる。
「お父様、お母様そのままです!お母様の身体が暖かくなるまでそのまま続けて下さい!」
変化があった直後尽かさずティリエスはすぐに次の指示を出す。
ジョアナは黙ってその光景を見続けながら、自分の前に居る自分よりも低い背の背中を見つめた。
「・・・あなた、もういいわ。ありがとう。」
暫くしてリリスが静かにそうアドルフに伝えると、アドルフは一度切り替えるように息を素早く吐き出すと同時に石の光もまた段々と弱まりそして光は失った。
「リリス・・・どうだ?」
「お母様・・・。」
固唾をのんで見守る中リリスはややあって顔を上げる。
その顔を見て驚いたジョアナが真っ先に動いた。
「まさか!そんなことっ!」
顔を触り手首をとり脈を計る。
慌てて図るジョアナにリリスは苦笑を浮かべたが、嬉しそうにジョアナの好きにさせていた。
一通り調べ終えたジョアナは呆然とする。
「まだ弱いが脈が正常値になっている・・・それに体温も、これは本当のことかい?私は夢をみてるのではないかい?」
「いいえ、いいえお母様。現実ですわ。」
そして、ジョアナの向こうに居るティリエスとアドルフをリリスは見つめる。
明らかに顔色が良くなった母が微笑んでいるのをみて、ティリエスは胸を撫でおろしたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。