出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(嬉しい!悲しい!諦めない!㉛)
「え?あ、あれ・・・?そ、そんなにおかしいこと、なのかな?」
ティリエスは2人の予想以上の反応に首を傾げる。
そんなティリエスを他所に合図もなく互いに目を見合わせた彼らは同時に頭を抱えるのでティリエスはギョっとして彼らを不安げに見つめる。
「・・・姉様、少々すみませんが情報の再確認をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
頭を抱えていたシナウスが急に改まって言う。
彼の言葉になんだろうと思いつつも断る理由などないのでこくりと頷いた。
「この世界の人はどうやって魔法を使っているんですか?」
「えっと確か古の文字を実際に書くか詠唱しつつ魔力を手に集めれば出来るとこの世界の家庭教師に教わりましたわ。」
「・・・・、例えばですけど中級魔法は1人で扱えてますか?」
「うーん、どうでしょう?出来るかもしれませんが、失敗することもある様子でしたね。」
この前やって来ていたヴォル達騎士団の訓練の様子を思い出しながら答える。
上級になると数人がかりでないと扱えないことをシナウスに話せば急に唸り始める。
そして一人そうしていると、彼はスッと姿勢を正し先ほどとは違い何かを悟ったような表情をしていた。
彼のその表情や今までの様子からティエリスはもしかして・・・と口を開く。
「私のいる世界の魔法をここに住む人達って・・・効率よく使えてないの?」
そういうとシナウスは返事もなくこっくりと頷いた。
シナウス達が実際にこの世界の人間にあった人は私だけ。
それに彼らも魔力の扱いはそれこそ息をするようにコントロールができる。それも子供頃からそれは義務教育の一環でもあったので別段何も思わなかった。
だから、ここの世界の人達がそんなにも扱えていない事実に正直頭を抱えたのだ。
私自身が規格外な人というのはわかっていたことだったが、ここまで魔力というものを扱えていないとは思っていなかったらしい。
そこで私達はこの世界の魔法と魔力、そしてシナウス達の魔法と魔力の違いを見つけることにした。
シナウス達の場合、魔力量に個人差はあれど魔法は誰でもできる。幼少期から魔力のコントロールをし自分の魔力の度合いを把握させるのでまず無駄な魔力量は使用しないよう訓練される。
なので余程元々の魔力量が低くとも中級魔法まで使用は出来ていた。その際には勿論魔法の出現させる原理そして古代文字の言葉を唱えないといけないが頭の中で唱えればいいし無詠唱にも近い。
これは私にもあてはまることである。
そして、これは私がこの世界に来てから学んだ魔法に関する事だ。
私達の世界の場合、魔力量の計測は神殿又は神殿に連なる教会にある魔力量を調べる水晶しかなく自分自身では把握できないということ。
把握できない情報をステータス化を出来るわけがなく、よって同じようにステータスと技量もまた神殿や教会そして戦力が生業のギルドそして騎士そして魔術師にある石板に触れないと分からないらしい。
それを一番最初に体験する時期が自分が5歳になった時。
なのであの時もバレないようにするにはどうすればいいのか話していていたわけだが、ここでもシナウスはてっきり相手に見せないといけないというそういうしきたりで行うものと思っていたようで、まさか誰も自分のステータスや魔力量の把握が出来ないとは思っても見なかったのである。
そしてまた魔法も古代文字を利用しないとうまく発動しないということにも乾いた笑いが漏れ出ていた。
「聞けば聞くほど・・・なんというか・・・なんでこんなにも出来ないのでしょう?」
「・・・・俺はやり方が違うからとやかく言えるわけじゃないが・・・そんな俺でもこの世界の魔法は非効率だと分かるな。」
「えぇ、レンジさんの言う通りです。魔法が発動しにくいから古代文字を媒体にして発動する・・・それは魔法がなかなかできないという改善の為に編み出した技、よく考えられています。けれどそれ以前に、魔力のコントロールの訓練をしない、自分自身の力量を計ることもできない、更には道具を頼るとか・・・それが変な数値を表示しても信じるほかない。はっきり言ってこの世界魔法はレベルが低いです。どうして姉様がしきりに隠そうとするのか今本当に理解しましたよ、これでは姉様は超人な魔法を使える危険人物になり得る。」
シナウスの言葉に最早何も言えないティリエスは苦笑いを浮かべる。
どうやらそんなにもこの世界の魔法はきちんと把握できていなかったらしい。
本来なら科学同様、身近なものになれば必然と歴史を重ねるごとに向上するはずなんだが・・。どうして低迷したままだったのだろうか?
「まるで魔法というより呪いのような曖昧な認識ですね・・・まるで選ばれた人にしか扱えないような認識です。」
「選ばれた人間というのは?」
「シナウスの説明だとこれは市井の人も魔法を扱える前提です。けれどこの世界では魔法を扱えるのは貴族という身分の高い者となります。もし意図的に貴族が上の存在として確立するために魔力の制御方法を秘匿したということ。残念ですがそれは十分にあり得る話しです。」
ティリエスはどうしてこうなってしまったのか仮説を言う。
だが、別に過去の歴史をほじくりたいわけではない。今はそう自分の母をどうすれば助けられるか・・・それが分かればいい。
「まぁ、その辺りは魔法に詳しい大叔父様が・・・・。」
と、そこではたっと言葉を切る。
魔力
魔力コントロールができない体
子供の懐妊
・・・まさか。
「シナウス。」
「はい?なんでしょうか?」
「仮になんだけど、魔力のコントロールが出来ない体で、更には一度目の懐妊と出産で魔力の開通が無理やり起こった後、もう一度懐妊したらどうなるのかな?」
「それは、体に大きな負担が起こるでしょうね。魔力はもう一つの血液ともいわれてますから倍以上にかなりの負担が・・・まさか。」
シナウスも気が付いてティリエスを見る。
「妊娠によって魔力のリミッター解除、そして過剰な魔力暴走を起こしているんだわ。」
ティリエスはそう断言した。
それなら辻褄が合う。どうして母親にあれ程までの負担がかかってしまうのか。
魔力が体内で暴走し、それを胎児たちが受け止めているとしたら身体障害の件も母親の衰弱も説明できる。
やっと・・・やっと原因が突き止められた!あとはこれの改善策を考えればいい!!
グッと拳を作ってティリエスは力の限り握りしめる。
「もしかしたら、これをどうにかすればお母様を助けられるかもしれないっ!」
小さく呟いた希望を願うその言葉を聞いたレンジとシナウス2人は互いに顔を見合わせたのだった。
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