出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(嬉しい!悲しい!諦めない!㉙)
「ちょっとレンジさん、早く前に進んで頂けますか?後が仕えているんです。ここが開いたという事は姉様が起きて待っているんでしょう?」
頭を下げていると、いつもの聞き慣れた声にティリエスは頭を上げる。
「シナウスもいるの?」
「はーい、僕もここに。ほら早く進んで!」
シナウスにレンジといわれたその男はのっそりと動き出し、もう1人部屋の中へと入ってくる。
扉が閉まると共に暗がりになるのを察してティリエスは机まで戻りその上に置いてあったランプを手に持ち彼らの元へ戻る。
暗くなっているその場所に灯を向けるといつもやってくるシナウスに長身のガタイの良い男レンジと言われた男性が其処に居た。
・・・そういえば、この部屋って別名イケメンほいほいだったわ。
ワインレッドの瞳の彼の顔もキリっとした彫りの深い整った顔だった。
シナウスはほんわか可愛い男子というなら、彼は頼れるかっこいい漢という感じか。
私と同じ親近感がわく黒い髪はオールバックの髪型で纏められている。
だが、私とは違い髪の一部が瞳と同じ色に染められていた。
シナウスと一緒に来たから箱庭のメンバーのはずなのに・・・どうも、思い出せない・・・なんでだー。
それにレンジという名前の人なんかいたっけ?
黙ったままうんうん唸っていると、シナウスが苦笑してレンジを肘でほんの少し小突くと一歩前に踏み出す。
「姉様、この方が以前お話ししていたキ族の方のレンジさん。“元魔王”さん、ですよ。」
「え?!!」
素で驚き彼の顔をもう一度マジマジ見入る。
確か元魔王って優男でもっと悲壮感漂う表情の儚げなイメージ・・・じゃなかったっけ?
画面越しに見ていた彼を思い出し、頭の中で比較をする。
「ぜんっぜん、分かりませんでしたわ・・・。」
「レンジさん黙ってないで自己紹介!」
相変わらず黙ったままの彼にシナウスが促すと、彼は意を決したように口を開いたが何かを言う前に口を閉じ、そしてまた口を開いては閉じを繰り返す。
なんだ?どうした?とそう思っていると、急に今度は目から溢れる涙にギョッとする。
「きゅ、急に泣い・・・え?なんで?」
「もー・・・だから連れていくのどうするのか迷ってたのに・・・。」
大の男がしおらしく泣き始める姿に2人は困惑とうんざりした面持ちで彼をとりあえずソファへと引っ張っていったのだった。
「レンジさんにとって姉様は命の恩人ですから、こうして姉様の事を話すと感情が溢れて泣き出してしまうんですよ、今回は目の前ですから特に。今回の件で姉様が助力をお願いされたことを聞き、それで今回彼に同行をお願いし、彼も最初は泣くのは我慢すると約束したんですが・・・。」
「はぁ・・・。」
とりあえず、シナウスが用意したお茶を受け取りながら今はグズグズ鼻をすすっている彼に戸惑いながらもティリエスはシナウスに相槌をする。
「も、もうじわけ、・・・ありまぜんっ!」
「そう思うなら泣き止んで下さいよ・・・ほら。」
そう言ってシナウスは白いハンカチをレンジへ渡すとレンジはハンカチを使って涙を拭う。
そんな彼に苦笑を漏らしながら、ティリエスは本題へと入った。
「貴方達がここへ来たという事は、何か見つけたんですね?」
「えぇ、姉様の方は何か?」
「はい、実はこの手紙の送り主は私の大叔父に当たる人なんですが―――――。」
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「ディオス様という人物の話しが本当だとすると・・・これは魔力が関係しているという話しにいきつきます。」
「シナウスもそう思う?」
「えぇ。僕の方でもそういうものに詳しい者達には聞いてみたんですが、僕達も魔力を持つ人種に当たりますが、やはり多胎児であっても無事に出産できるということです。ですが、僕達にも分からないことがあります。」
シナウスは一度言葉を切り、そしてまた話し出す。
「胎児自身魔力はいつ発現するのか、です。」
「魔力の発現?」
「えぇ、これは姉様の推察も同じでしたが。もし魔力というものは私達が生まれ落ちてからの発現だとすれば。本来なら成長に必要ない魔力が、何らかの影響で母親の中にある魔力が供給できることになってしまい、そのような事態に陥っているとしたら胎児たち自身の機能障害に影響するということに辻褄は合います。」
シナウスの話しを聞いてティリエスもそれに納得する。魔力のいらない体が魔力を触ったせいで、ディオス大叔父様が苦しむことになった、ここまでは理解できる。
でも―――。
「それなら、既に魔力に触れている母親がどうして影響を受けてしまうのか・・・ですよね?」
「はい、それが解らないのです。私たちとこの世界の人間と・・・一体何が違うのか。」
シナウスもそこは結局解らない・・・か。
がっかりする気持ちが胸を占めるが決してそれを表を出すことはせず、話しを変えることにした。
「それで、レンジさんはどうしてここに?」
「はい、それは「あ、ここからは俺が、話します。」だ、そうです。」
涙が収まり、鼻を赤くさせたレンジが話し出す。
「俺達の、種族は魔力はないのであまりお手伝い出来ない・・・けれどもしかしたら、姉上様のお母様の悪阻、悪阻を軽減させる方法があるかも、と思いこうして一緒にきました。」
「そんな方法があるんですか?」
「はい・・・気を使ったものなんですが。」
「気を・・・使ったもの?」
ティリエスは突然の言葉に目をまるくさせオウム返しをした。
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