出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(嬉しい!悲しい!諦めない!㉕)
すみません、今日は短めです。
取り敢えず立ち話もなんだし・・・ということで、一番近い客間へと案内する。
オーガと名乗ったその男はスマートに彼女の持つお盆を代わりに持ち、彼女をエスコートした。
ニコニコと笑ったまま表情を変えずに行動するのがこの人特有なのか、互いに向かい合わせでソファに座ると、彼は何も言わずお盆の上にある母の手つかずの昼食を優雅に食べ始めた。
ティリエスは慌てる。
「あの、折角ですから新しいものをお持ちしましょうか?冷めてしまっているでしょうし。」
「・・・ん、いいえ。ティリエス嬢はお気になさらず。これで十分ですよぉ。」
「ですが、「実は私の生まれた地域は今はまだましですが食材が中々流通しない場所でしてね。」・・・はぁ。」
言葉を遮られたと思ったらそのままオーガは話し始め、その間も食事を運ぶ手は休みことはなく着々と料理は減っていく。
「なのでひもじい思いを子供頃よくよく体験したものです。まぁ・・・私含め、あそこの地域は親なしが多いのでこうして食事が残っていると昔の習慣で食べたくなるんですよ。意地汚く思われる方が多いですけどそこは大目にみてください。勿論、外では分別をわきまえてますからこういうのは身内にしかみせません。」
ということは私を身内扱いにしているという事になるんだろうか?それともただ子供だから問題ないと思われているだけなのか・・・どっち?にっこりしすぎて逆に分からん。
悶々としているティリエスを他所に、きっちり残さず食べきったオーガは口元を自分の持っているハンカチで拭いた後、話しを切り出した。
「今日は貴女のお父様に会う為もあったんですが、実は貴女にも会いたくて屋敷へ赴いたんですよ。」
「私も?」
「えぇ。貴女の考えた商品が元で我が商会アメジストが成り立っているんです。寧ろ挨拶がこんなにも遅れてしまったことに申し訳ないと思う程ですよぉ。」
まぁそれだけ忙しかったというのもあるんですけどねぇと、付け加えるようにオーガは相変わらずニコニコと話す。
「そう言っていただけで光栄です・・・ですが、私はただこういう物が作れればと提案をしただけで、事実商品として実を結べたのはお父様が親交していた方たちのお陰とディオス大叔父様発明があってこそですわ。」
きっぱりとそう言うと、オーガは目をまるくさせた。
その表情を見てティリエスもまた内心驚く。
笑っているだけの表情が初めて崩れた。
人として色々な表情があるのは当然の事だけど、この人こんな表情も出来るんだ。
でも、なーんでここで表情が崩れたのか・・・もしかしてこの人、私自身が私のお陰で商品ができたという傲慢な性格を持っている子供とか思われてたのかな?んなわけないない、そしてちょっと解せぬ。
ティリエスはムッとして口を尖らせそうになったが何とか踏みとどまった。
そんなことを思っていると突然オーガは頭を下げたのでびっくりする。
なんだ?なんで頭下げた?
ますます不可解な行動にティリエスが動揺していると、頭を下げていたオーガが頭を上げこちらをじっと見た。
「どうやら、私の見立てが誤りだった様です。申し訳ありませんティエリス嬢。」
「は、はぁ・・・?」
今度は急に謝罪され困惑していると、オーガはまたニコニコ笑う。
「貴女の御父上、アドルフ卿から大体の話しは伺ってお母様のご懐妊の件も存じています。その時、貴女はどちらの命も助けたいと仰った事も・・・その話しを聞いた時、私は正直貴女に出会うまで傲慢な方と思っていました。貴女は確かに先の未来に残るようなものを作り出した、故にその自信が貴女の知識で人の命を救えると貴女はそう思い上がっているのではないか・・・と。でも、先ほどの受け答えで分かりました。貴女は物事の視野も広く謙虚さをもち、そして何より冷静。そんな方が思い上がりで言った言葉ではない。今回挨拶には勿論、アメジストとして来たのも本当。けれどそれと私は貴女に忠告をしようと思いここへ来たんですよ。」
「貴方は・・・私に母に堕胎手術を促すよう説得しに来たんですね。」
ここまで言われてようやく彼の目的を理解したティエリスは表情を硬くして言い返す。
その言葉に彼はほんの少し眉を下げて困ったように笑う。
「父に言われましたか?」
「いいえ。彼は貴女達の選択に賛成していますよ、今も葛藤しながらね。これは私の独断ですよ。私はあの人にこのまま壊れて欲しくない。あの人は最愛の女性を無くせば今までのように生きていけなくなる。そうさせてしまったら貴女達を私は恨んでしまうでしょう。でも、貴女を見て少しですが考えが変わりました。」
そう言って、彼は懐から何かを取り出し目の前の机におく。
「オーガさんこれは・・・?」
「あなた宛てへの手紙です。私経由から渡してほしいと頼まれたんです。貴女の大叔父様から。」
そう言われてティリエスは思わずその手紙をとったのだった。
それは、1か月前ティリエスが今回の件で綴った手紙の返事だった。
いつも読んでいただきありがとうございます。