如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)⑮
もし読んでいてご不快になられた方申し訳ありません。
3/23:漢字の誤字があることを教えて頂き修正しました。とあるユーザーさんありがとうございます!気を付けていても間違ってしまっているので、こうしてこっそり教えて頂くと大変うれしいです。
彼らの行動は早かった。
直ぐにハーティスの後ろにいた1人の騎士が指示を出す。ある2人は犯人がいる地下牢へ向かい、もう2人の騎士はメイサさんを警護するために彼女の眠る寝室部屋の扉の前に配置された。他のメンバー達は今後の話し合いと情報のすり合わせがしたいということで念のため話しが外部へ漏れないように、遮断魔法が使用されている客室へと移動することになった。
勿論、私も彼らについていく。
と、なぜか時折振り返るルドルフさんが目につく。
彼の行動にピンッとあることに気が付いた私は、ふわふわと近づいてこっそり彼に耳打ちをする。
『大丈夫、あの2人は悪い人達じゃないです。』
「!・・・・・判るのか?」
『はい。少なくともアドルフさん達にとって悪意のある人はその人を見れば分かります。』
彼が心配していたのはこの中に間者が紛れ込んでいないかという心配だった。
私の存在をすぐに明かさなかったのもきっとその可能性を見越しての事だろうとすぐに分かる。
実際、今回の犯人は信頼していた古株のメイドさんだったし、いくら彼が優しい人であろうがそのような裏切りに遭った直後に他人を全く疑わないという方が正直おかしいことなのである。
幾ら実の弟率いるチームだからって間者いるかもしれないって疑っちゃうよね。
でも、そこは安心してください。私というチートがいます。
実は密かに彼女を拘束してから屋敷全体蔓延していた靄がなくなったので、事前に屋敷全域に索敵を行ったところ悪意のある人間はこの屋敷に1人もいないということが分かっている。
あることをしながら別の事をする、その辺りはソロで探索していたゲームの癖である。
それに安全が分かるまで周りの警戒を怠らずべし。
それが敵陣に踏み込んだ時のゲームの基本である。
更に念には念をと私は彼ら騎士団のメンバー1人ずつじっくり見ていた・・・が、靄が滲み出ていないことは確認済みである。一先ずは安心して良いという事だと私は結論付けていた。
私の言葉にほっとした表情を浮かべたルドルフは彼らに聞こえないように礼を言うと、すぐさま気持ちを切り替えたようだ。もうそこには当主という威厳を放った男性がそこにいた。
客室へ入るとルドルフとハーティスが向かい合わせに座り、ハーティスの横にもう1人男性が座り残りの騎士は四方の壁際に一人ずつ立ち、残りの2人は外の扉の前に立ったままであった。
『何の合図もなく、さも当然のように警護兼話し合いをする・・・流石騎士、かっけええ。』
と、そんなことを誰にも聞こえないように呟く私はルドルフの隣にちょこんとちゃっかり座る。
「王宮では何かつかめたか?」
前触れなくルドルフはハーティスに質問する。
「あいつらとつるんでいるハエどもを突き止めた。よくもまぁこんなに集めたなとは思った・・・が、酷く胸糞悪い話も見つかった。」
「それは一体どういうことだ?」
話しながら苛立ちを見せたハーティスにルドルフが聞き返すと、少し落ち着きたいのか彼は話しを区切り、小さく息を吐いた。そしてまた話し出す。
「どうやらなかには悪どいことをしている身代わり、そう言ったことに無理やり加担させられている奴らも多数いることが分かった。妻や子供といった身内を人質にしてな。そういった無理やり協力させられている奴は裕福層の商家が大体だ。商家は貴族より身分は低い、対策もある程度はしているが貴族より魔法に関して疎いし今回がやり手だったからな。あの有名な貴族御用達のワークス商会の会長も同じように加担させられていたのもわかった、だが流石商人だな。このことが明るみに出るよう且つあいつらに悟らせないように細工してワークスが内密に報告してきやがった。ギリギリのところで加担せまいと策を講じているがそろそろ限界だ。
あともう一つはディオスがつかんだ・・・だがまぁこれもあまり役に立つのかどうか・・・という風な情報だ。」
ハーティスは少し間があったが頷いて隣の男性の持っている荷物から紙の束が出てくる。
「王宮で発動した可能性の高い呪いの魔法陣の痕跡が王宮から近い離宮の物置部屋で見つかった。大方痕跡を消されてはいたが王宮魔法師団の連中がなんとか解析してくれたぞ。説明も一応聞いたが俺には複雑で蘊蓄な奴らの説明は今ひとつ理解してないが、ざっくばらんに言えば自分の望むとおりに皆が行動する、という呪い内容だそうだ。」
かさりとページをめくると複雑な魔法陣が書かれた絵が飛び込んでくる。
所々模様が描かれていない部分は解析不可能だった箇所だろう。
近くで目を凝らしながら私はその魔方陣を見る。
よ・・・・・・読めないぞぅ。
どう頑張っても目を凝らしてもただの変な記号やらミミズが張ったような文字にしか見えない。
どうしたもんか・・・・・あ。
・・・・・これも鑑定すればわかるのかな、試しにしてみて・・・あ、できそう!だけど・・・・。
鑑定で表示された内容を見て眉間にしわが寄る。
3××××の模写→使用済みの魔法陣の残骸を模写したもの。
なんと、初めて鑑定できないものに出会ってしまった。
私には難解な代物なのか・・・・・、えぇーー!!なんだこれもやもやするこれー。
3・・・なんちゃらっていう魔法なんだろうけど。わからん!
これ、誰か読めないかな?ルドルフさんに聞いてみようかな?
「これは・・・・わからんな。」
ええええ、聞こうとした矢先にまさかのルドルフさんも読めない!だったー!・・・・・まじか。
ルドルフは奇怪なものを見るような目で凝視している。そんな彼を見たハーティスは肩をすくめた。
「こんな複雑なものは王宮魔術師ぐらいしかわからん。だがその魔術師様も分かったのは発動後の術の効果、というだけだ。誰が使ったのか、発動条件、どういう風に皆に作用されたなど分からない方が多い、正直これはお手上げだ。」
「普通なら魔法陣で使った魔力が若干残るではないか、それさえも残らなかったのか?」
「誰の魔力の型かまでわかるような魔力が残ってねぇんだ、魔力の残骸は確認できたがそんなものだけじゃわからないといわれた。おざなりな魔法陣じゃねぇし、それにかなり綿密な魔力の使い方だ。計画的に足が付かないように魔力の量を調節しているとよ。」
成程、話しを聞く限り魔力というのは現実でいう指紋とかDNAといったものみたい。
今犯人の痕跡判明出来ない・・・・うーん、厳しいな、本当にこちらが劣勢だよ。
何か方法はないだろうかとうーんと首を捻っていると、左頬に何かの感触を感じたので驚いてそちらを見ればルドルフさんは人差し指をこちらへ向けていた。
つまりは指つん・・・である。イケオジが微笑んで指つん・・・・ごちそうさまです!
「貴女でも分からないようですな。」
『う、ううう~、面目ありません。私でもこの魔法陣の内容がつかめないです・・・・。』
「そのように言わないでくれ、決して責めているわけではない。懸命に考えてくれてありがとう。」
しょんぼりと申し訳なく言うと、彼は優しく私にそう言葉をかけてくれた。
その言葉にキュンっとしてしまう。
ああ、こういう人が上司だったらなぁ・・・・もっと仕事頑張れるのに。
「おい・・・兄上、誰と話しているんだ?」
ハーティスが恐る恐る声をかける、そういえば私が見えるのはルドルフさんだけだった。
傍から見れば1人でしゃべっている姿だ、そりゃどうしたのかと心配するよね。
また、ベル出そうかなと思っているとルドルフが先に口を開いた。
「実はなハーティス。今回わしが助かったのは妖精殿が助けてくれたからなんだよ。」
「は・・・・は、はぁ?!」
ハーティス含め周りの騎士達も動揺する。
見えない存在なのだから言われて当たり前の反応だ、よし!ここで先ほどのベルを出そうと思っていると誰かの視線を感じたのでそちらを見る。
団長の隣に座る若草色の髪の長髪男性がこちらを見ていた。
うん、2枚目俳優さんみたいに美形で変に色っぽい。やばいな、夢だからかなイケメン率たっけぇですね!
「団長、どうやらその話しは嘘じゃないようですよ。」
男性にしては中性的な声でその男が言う。
「あぁ?んなこといわれてもな・・・・。エヴァイス、お前にはなんか見えるのか?」
困ったように言うハーティスに2枚目俳優さん・・・もとい、エヴァイスは小さくこくりと頷く。そしてその場ですぐにルドルフに向かって姿勢を正すと、会釈しながら口を開く。
「まずは許可なく発言したこと申し訳ありません。後、このまま発言を失礼します。私は第2聖騎士副団長を務めますエヴァイスという者です。先ほど団長に言った様にルーザッファ殿のすぐ近くに何か不思議な波動を感じることだけなら・・・・。若干、蜃気楼のような揺らぎも見えますが、それは微弱なものです。」
「そのようにかしこまらなくてもいい・・・・・・っ!君・・・目が。」
・・・・目?
彼を見ていたルドルフが何かに気が付いて呟く。私は驚いた理由が分からず気になったので彼の眼を見るためにふわふわと近づいた。
彼の顔の前に立ちじぃっと彼の目を覗き込む。
『・・・・瞳の色が、乳白色?』
「・・・・妖精殿はなんと?」
「君の眼の色を不思議がっている。」
私のいる場所を見てエヴァイスは質問してきた、彼の言う通り私の気配が分かるようだが声はやはり聞こえないらしい。
代わりにルドルフが私の言ったことを代弁する。
目の前にいる青年は優しく微笑みながら、そっと右目の下を自分の手で触れる。
「私の目は生まれつき他の人とは違う目をしてます。生まれた時から私は世界の色が分かりません、更には眼の容量以上の光や暗闇を感じると極端に全く見えなくなるほどまで視力は下がります。
今でもこの目は厄介ですがないよりはましです。目がつぶされた代わりなんでしょうか、魔力の質が他の人間より高いのが評価されて私は今ここにいることが出来ています。」
生まれつき色が分からないって・・・もしかしてあれ?
彼の言葉に私は思い当たるある情報に顎に手を当て思いだす。
もしかしてこの前テレビの番組特集で見てた全色盲っていうやつかな?
全色盲って確か色が全く分からず明暗だけで物を見ている人で、現実でも数万人に1人という確率でいるといわれている、所謂白黒の世界で生きている人-----。
色を識別している細胞が産まれたときから全くない、又は極端に少ないのが原因らしく、これの何がやっかいなのかというと、明暗でしか物が見れないということはその場にいる暗さや光の強さによっては視力にも影響を及ぼすと専門医の偉い人が分かりやすく説明をしていたのを思い出す。
つまり彼は見えている範囲は思っている以上に狭く、本来なら普通に生活するのでも大変なはず。にも関わらず指摘されて説明されるまで、他の人と同じように歩く速度や動作だって同じように動いているのである。
勿論何かしらコツや経験や訓練で今のことをやってのけているのだろうけど、今に至るまで彼は何倍も大変な思いをしたに違いない。
彼は・・・・すごいなぁ、ハンディキャップ持っているのに副団長という役職まで就けたんだ。
でも、こんな人に騎士という道しか進むことが出来なかったこの世界って逆に言えば鬼畜だよね・・・。魔法素養があれば目がほとんど見えないのに肉体労働の仕事させるのか・・・・・・・なんか、マジ鬼畜。この人がここまで頑張れたからいいものの、弱い立場の人間になんか優しくないよね。
もしかして・・・・・。
この人がこんな仏の様に微笑んでいるのって昔騎士見習いの時代に酷く虐められてたんじゃないだろうか・・・?自分のことや今までの経験で悟ったからこんなに穏やかな笑みを相手に向けているんじゃないだろうか・・・?
優しく微笑んでいる彼を見て私は胸が締め付けられる思いになる、そして同時に苛立ちも生まれた。
もし、そうなら・・・なんかしたれよこの国。生まれながらのハンディキャップとか仕方ないじゃん。それなのにまるっとそういうの含めて本人任せなのはどうなのよそれ、命かけて護っている役職の部下にその体制てどうなのよ?魔法あるんだからなんか出来るんじゃないの?
せめてサポートできる物か何かがあれば、ちょっとはこの人も少しは楽に生活できるかもしれないじゃん。
自分の勝手な想像もあるが彼の境遇を考えて私は大いに心の内に不満ぶーぶー言っていると、彼は微笑みを崩すことなく隊長のハーティスに目を向ける。
「私の事より団長、心強い味方もいると分かったですし話しを進めませんか?」
私も一緒になってハーティスを見れば、何やらうんうん唸りながら難しい顔を向けてこちらを凝視していた。
私はその気迫にスススッとルドルフの隣まで後ろに下がる、変に力んだ様子の団長に気が付いているのかいないのかエヴァイスは特に声色を変えずにハーティスにそう言ったのだった。
『ふっ・・・ふふふん、そんなことしても団長さん私は簡単に見えないぞー、・・・・・でも気力で見えたらそれはそれで怖いなー。』
ハーティスの眼から圧を感じ取り、若干引きながら私はそう心の中で呟く。全貌が見えているルドルフに至っては、よほどおかしい光景なのか笑いをこらえているのが私の目の端に写っていた。
「・・・そうだな、まぁ、妖精でさえ分からないとなると後は直接屋敷に入って証拠を探すしかねぇが・・・・大きな賭けだな。」
彼はどうあがいても私が見えないことに結論づいたのか、すこしがっかりした後、気持ちを切り替えて話しを進め始めた。それに伝染したようにルドルフも笑うのをやめまた魔法陣の模写に目を移す。
「そもそも、そんなぼろが出ていれば早くに解決できているな・・・・。」
話し始めた途端八方塞りの問題に行きつき、難色を示し始めた彼らを見て私は私でどうしたらいいのか考える。
じっと模写された魔法陣をみるが最初の見た時となんら変化はない・・・・・と、ふとある疑問が浮かんだ。
3・・・てこの魔法陣にとってどういう意味の数字何だろうか、辛うじて分かっている数字に私は首を傾げた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回色盲について色々本やらネットやら眼科に関わっている人たちから教えて頂きましたが、知識に偏りがあるかもしれません。これ違うやん!と思われた方、こっそり教えてください。
次回は来週の土曜日に投稿予定です。