出来ることが増えてくると色々したくなるお年頃なんです。(嬉しい!悲しい!諦めない!②)
それは私が木刀を持てずにへそを曲げている8日前まで遡る。
『あの子は明日から見習いで別邸へいくのに茶会の席を外させてしまってすまないティリー、どうしても話しておかないといけないことが出来たのでな。』
ティキとのお茶会を切り上げ父の書斎室へと向かったティリエスは、書斎の椅子に座っている・・・眉間に大きく皺を寄せた父の姿を見ていつもの様子とは違うことに首を傾げつつ父に呼ばれた理由を聞くべく口を開いた。
『いえ、ティキさんには夕食を招待しましたから大丈夫です。それでえっと・・・お父様。それでお話しというのは・・・?』
『あぁ・・・まずは良かったことから話そう。』
そういってアドルフは先ほどとはうってかわって穏やかな表情を浮かべた。
『実はティリーとギリア、そしてアイルの3人で作り出したバターとマヨネーズの調味料が予想以上に売れていてな。冬の備えの分を差し敷いても資産の貯えに余裕が出来そうなんだ。』
なんと!思っていた以上のお金がゲットできたとな!!
穏やかな表情を保ちながらも耳がぴくぴくと動いた。
あの調味料はこの国で・・・いや、ほぼ万人向けと言っていい味だ。上手くいくとは思っていたが予想以上の成果に裏でしたり顔になる。
『良かったですわ。これもディオス大叔父様が作ってくれた容器のお陰です。』
そう、彼は私があげた飴の容器に貼っていた紙を見て大発明を作っていた。
彼が着目したのは賞味期限を決めることが出来るあのシール、錬金術を使用したそれを彼が即座に感じ取り作ったのがマヨネーズやバターを入れる瓶の容器である。
その容器を作り出す初めの工程であるガラスの材料にソーダ灰がありそれを作り出す際錬金術を使用しているのだとか。
そして幾千もある付与の中で大叔父様は難しい時空付与の1つである【時間低速】という付与を纏わせることに成功させた。
その付与を纏わせたソーダ灰を使ったガラス容器を作らせたところ、上手く付与が付き劣化速度が2、3ヶ月まで遅らせることが出来、その期間は常温に置いても蓋さえきっちり締めておけば劣化は大幅に防ぐことが出来たのだとか。
この発明のお陰で王家だけではなく保冷庫のない貴族や商家の人達まで買えるようになったのだ。
後に私の元へ届いた手紙で大叔父様からそう説明されたが、彼自身正直満足はしてないようで【時間停止】の付与ができるまで試行錯誤はする旨が綴られていた。
だから販売に至るまでに劣化して売るまでに至らなかったあの2つの商品が販売されそして瞬く間に売れるようになったので我が家の財源が潤うことになった、ということだ。
でも、確か王家の魔法師団、そして懇意にしている商会、そして今回父の知り合いが父の助力もあって立ち上げることができた商会【アメジスト】。
この3つにも勿論魔法師団には協力料、そして商会には利益率の何パーセントかは幾らか支払う手筈となる・・・でもそれでも我が家の財源が潤ったというのは・・・。
父、一体どれくらい売れたの?
正直に言えば詳細な額を聞いてみたいが子供の私には教えてはくれないだろうし・・・少々残念、でもまぁそんなことよりどうしてその話しを私に持ってきたか・・・である。
『ティリーが考え始めたことがこうして良い方向へ向くことが出来たんだ。何か欲しい物とかはないかい?』
成程?成功報酬というという事ですな?
父の言葉にティリエスは悩む。正直そこまで考えていなかった彼女にとって突然の申し出だった。
『ティリーの欲しいドレス何着でもいいし、珍しい本でも構わないぞ?』
お父様がそこまで言うならそうだなぁ・・・あ。
『それならお父様、私、お部屋が欲しいですわ。』
『部屋をか?あの部屋では狭いのか?』
帰された言葉にブンブンと大きく首を横に振った。
『屋敷ではなくて村に近い位置に学び舎を立てて欲しいのですわ。そこでここに住む子供達が勉強できる場所を作ってほしいのです。』
その言葉に父は今度は驚いて娘を凝視する。
暫く黙ったままだったが、アドルフはスッと目を細めて娘をみやる。その表情は領主の顔それであった。
『ティリエス、貴族は市井の者とは違って様々なマナーそしてしきたりそして知識も必要とする。だから学園があり、家庭教師をつけさせる。だが市井の子供の殆どは親の仕事を手伝い、覚え、そして次はその子が仕事を引き継ぐことが多い。市井にも学び舎があると聞くが通えるのはお金に余裕がある家庭一部だけだ。それなのにどうしてティリエスは学ぶ場所を作りたいといったんだい?』
『お父様、私ティキさんに勉強教えたり悪い奴らの事を見て思ったことがあったんです。』
そう言って一呼吸おいて、じっと父の目を見つめる。
『悪い人は悪い事をしようとする。その為には知恵を働かせて欺きます。そしてそれが出来るのは経験と色んな視野を広げた知識があるからだと思います。実際、私を誘拐・・・いえ、連れ去るように企てた人は元貴族だと聞きました。』
前回の、ティキ達ハールエルフやエルフ達を奴隷に従え悪事を行っていたバカスの起こした事件に私は一切関与していないという風にされている。
理由は貴族という理由である。
誘拐されて傷もなく無事に生還したと事実を伝えたところで貴族にとって、ましてやまだ未婚の更に言えば女の子である子にとってそれは醜聞扱いとなる。
なので今回関わっているメドイド領の騎士、そしてレイン子爵家の騎士達には私の存在について箝口令が敷かれ私は誘拐未遂を起こされ、変わりに父の療養でお世話になっていたティキが誘拐されたことになっている。この事はティキ自身の快諾を得て捏造されたもので、私が身代わりのようなことをさせることに反対を唱える前に既に処理されてしまっていたのだ。
私の気持ちは正直複雑であったが彼女がそれを条件にメイドとしての勉強、そしてメイドとして能力に見合える者としての存在になれたら私の直属メイドとして雇ってもらいたいという交換条件があったので、彼女にとってプラスにある事ならと私は彼女に謝罪と礼を述べ、私もあの事件はそういうことにしている。
『良い人も勿論いるのは分かっています。でも、その悪い人に出会ってしまった時読み書き、計算、そして幅広い知識がその人の手助けになるかもしれません。私は自分の領地の人達がそんなことに無知のせいで巻き込まれて欲しくない。だから学ぶ場所を作って欲しいのです。』
『・・・・・そうか・・・・。』
黙って聞いていたアドルフは小さく息を吐いて徐に立ち上がるとティリエスの前へと立ちそのままティリエスの頭を撫でる。
『本当なら、お前の欲しいものをと・・・そう思っていたんだがなぁ。』
諦めるようにそう呟いてアドルフは彼女に微笑む。
『分かった、ティリエスの言う通り学び舎を作ろう。少し時間を要するがいいかい?』
その返答にティリエスはにっこり笑った。
『はいっ!勿論ですわお父様!』
そう言って2人してにこにこと微笑み合う。
穏やかな時間が2人の間に流れる・・・とティリエスは思い出したように口を開いた。
『そう言えば、お父様他にも何かお話しがあったのでは?そのような口ぶりだったと思うんですが・・・?』
『あぁ・・・そうだった、忘れていたかったんだがな。』
思った以上に低い声が聞こえ、ティリエスはぴしりと身体が固まった。
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