まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう㊿と⑫)
彼女の言い放った言葉に周りの大人は騒めいた。
特に驚いた様子を見せたのは彼女達で、逆に一番冷静にティリエスを見つめていたのは隣にいるアドルフだった。
「成程、ティリエスが相談したいという話しの内容はわかった。だが、どうして彼女達にそれを持ちかけたのか教えて欲しい。」
予想以上の冷静な自分の父からの質問に、ティリエスは一瞬怯んだがその瞳に反対するような色は見られないことを理解する。が、それでも彼女はなるべく反対されないように頭で考えていたことをもう一度思い浮かべながら口を開いた。
「私は皆さんが今後どうされるのかどうしたいのか、途中からここにお邪魔した身なので分かってはいません・・・ですが、私の話しを聞いてください。」
と、言ったものの・・・理由はわからないがこの重い空気と見え隠れしている彼女達の昏い表情。
そんな状態から彼女達の首を縦に振ってくれるのか・・・不安しかない。
それにお父様からの快諾が確立していない状態でのプレゼンテーション・・・かぁ。不安が残るから逃げたい・・いや、でもここで言わないで去るとそれで終わりな気がするからそれはそれで嫌だし。
でも興味のない状態からの勧誘って一番骨が折れるんだよなぁ、加えて前も後ろも説得できる説明が要求される・・・っていう。
前世に経験したことが思い出され、げんなりするが初っ端からそんな気持ちを持ってはいけないとそれを端へと追いやり笑顔を作った。
女は度胸だ。
「私の母は薬草を使ってお薬を作っているんですが、いつも遠くの森や山に薬草を採りに行ってそれからお薬を作っているのですが、母は常々、もし近くで薬草の畑を作って育てることが出来ればわざわざ取りに行く時間が他の作業に宛がうことが出来て効率よくできると言っていました。」
以前から母は薬草園を作ることを目標にしている。
しかし現状、今は領内の治療薬がギリギリの数しかないのと医療の心得のある者が少ない為それらを安定させるため今は自生した薬草の採取しに行くという方法で母は薬を作っている。
それに薬草園を作ったところで、世話をしてくれる人がいない加えて薬草を育てる知識や経験が今の助手の人達では難しい。
なのでこの話しはまだ先の話しになるのだとそう思っていた。
だが、ひょんなことからこの人達と出会った。
ティリエスは言葉を続ける。
「エルフの皆さんは森で暮らしていると聞いています。であれば薬草の特徴や育て方をご存知じゃないのでしょうか?」
「確かに私達は薬草や野菜などの栽培をしていましたが、でも魔法が使えません。」
「魔法?」
「はい、栽培の成長促進の魔法や強い効果のある魔法は使えないのです。魔力はある程度あるんですが・・・だから、お役には立てないかと・・・。」
彼女はそう言うと俯いて気まずそうにする。そんな彼女達にティリエスは困惑したまま言葉をかける。
「魔法は、別に使わなくてもいいんですけど?」
「・・・え?」
「その?促進魔法という魔法ですか?確かにあれば便利でしょうけど特にいらないです。母がおっしゃっていたのは薬草の成長状態をみて育てるのに必要な土や栄養状態や水やりの加減といった微調整が上手な方が望ましいのでそれが出来る方、または今からでも覚えてきちんと仕事して頂けるという方なら全然大丈夫です。」
「それだけ・・・それだけでいいんですか?」
女性はティリエスを食い入るように見つめる。
ティリエスはそんな彼女にしっかり頷いた。
一瞬、彼女達は願ってもいない提案に誰もが喜びに沸き立つ、だがはっとしてそれもすぐに萎んでいった。
彼女達の表情で勧誘の手ごたえを感じていたが急に表情が曇ったことにティリエスも感じ取り一瞬だけだが眉間に皺が寄ったのを感じた。
「申し訳ありませんが・・・私達は請け負えません。」
「どうしてですか?」
「私達はもう少しすればここを去らないといけません、だからそのお誘いを受けるわけには参りません。」
「故郷へお戻りに?」
「いいえ、何処かでひっそりと暮らすつもりです。それに私達がここに居ればお嬢様達に迷惑がかかります・・・ですから「迷惑?迷惑ってなんですかそれ。」・・・それは、どういう。」
ティリエスが遮ってまで言われた言葉に彼女は顔を上げる。
「貴女方を迷惑に思う?ここに居る誰1人そのような事を思っていませんわ。それに、何か勘違いしているようですから伝えますが、領地の事人の事に迷惑も何もない、何かあればそれは我が家貴族の地位を持った公爵家が請け負うのは当然の事ですわ。」
ぴしゃりと言った言葉に驚いているとティリエスはその場で立ち上がった。
「それだけを心配されているというのなら、貴女達がそのように迷惑をという理由でここを去るというのなら、それは心配ご無用ですわ。それよりここで働き住んでいただけるのでしたら私は努力を惜しみませんわ!なにせ我が家の領地は交通不便!娯楽も少ない!初老の年代が多いから若い方は少ない!ですから子供でも仕事を手伝ってもらう事にもなりましょう。でも勤め先は賄いつき、温泉入り放題、お祭り行事だってあります。お子様がおられる方はきちんと託児所を設けて仕事が終わるまでそこで勉強したり遊んだりご飯を食べたりする、そんな施設を作りますわ!ですから、もしご興味のある方はより詳しく説明させていただくお時間を設けてお話しさせていただきます!」
そう言い切ると、し・・・んと広場が静かになる。
ティリエスは言いたいことが言えたので達成感はあったが、一声も聞こえない静寂な空間にプレゼンテーションは失敗を確信した。
やっぱり・・・ダメだったか。
ティリエスはその場から出ていこうと本を持ち上げようとした・・・が、その前に隣にいるアドルフが制止を掛けたのでティリエスは父に目を向けた。
「では、娘の提案に1つ私からも提案がある。」
「お父様?」
父はそう言って騎士の一人にある物を持ってこさせる。
父が持ってこさせたのは書状で、その書状は立派な洋紙に見えた紋章は王家の紋章であることを理解し、これにはティリエスも驚いて目を見開いた。
「この書状は王家から私へ宛てたものだ。もし、貴女達が今一度この国で暮らすという希望があれば我が領の領民として承認し手助けをして欲しいというものだ。修道院に入れば貴女達は俗世から離れ戸籍を持たぬ者になる。そしてここから離れて静かに暮らそうにも障害は多いだろう。だから貴女達が故郷に帰れるまで、貴女達が本当に進みたいと思ったその先に別の地を目指したいと思うまで、ここに居てはどうだろうか。勿論、ここに永住してくれても構わない、領民が多くなることは私達とっても喜ばしい事だ。」
「でも、「娘が言うようにこちらの心配はしなくてもいい。その為の書状を受け取っている、だから後は貴女達の気持ち次第だ。」・・・・・・・。」
彼女達は互いに目を合わせて、そして小さく頷き合った。
そして彼女達は領主とその領主の娘の前でもう一度 背を但し → 背筋を正し or 姿勢を正し た。
「どうか・・・どうか私達を領民として迎えて頂けませんか。必ず自分達の知識経験を生かしてこの領地の為に頑張らさせて下さい。」
深く深く頭を下げながら、彼女達は静かに涙を流したのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
裏設定:アドルフの説得で彼女達がここに居てくれることになったことにほっとしつつやはり大人と子供では説得の重みが違う事を痛感し、若干父に対して悔しい思いをしている。因みに大きく分厚い本を持っていたのは、持っているとちょっと賢そうに見えるのではないかという正直意味のない事をしていたという設定。(騎士達は重たそうな本を持っている彼女が落として怪我をしないかハラハラしてながら見ていた。)




