如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)⑭
2/24:少し言葉の訂正しました。
「はぁ・・・それでは本当に妖精様がこちらに。なんという幸運だったのでしょうか・・・。」
笑い終えた後、ルドルフはロゼフに私の存在を説明する。
初めは半信半疑の様だったが、私は前回彼らにみせたベルを空間収納から取り出して鳴らしてみると、彼は次に驚き、そして最後には感慨深げにそう呟いた。
そんな彼の姿を見るのはなかなかないようで、ルドルフは少し目を見張っていたがすぐに話しを戻した。
「今回の件も様々なことが絡んでいるのだが・・・。」
真剣な声色に私も真面目な顔をして彼の話しに耳を傾ける。
彼の息子アドルフと政略結婚を求める、とある令嬢の出現から事は始まる。
名をカナディア=ダンテ・ルディリア。
既婚者の男性だろうが婚約中の男性だろうが欲しいと思った男性は言葉巧みに彼らをその気にさせ籠絡させる魔性の女。
侯爵令嬢という地位ではあったが、あまり良い噂を聞かない女性であった。
その女性が事あるごとにアドルフの結婚を迫っていたが、なかなか進展しない。それどころか彼と親密になったとある令嬢の噂が夜会でもちきりになっていた。
全くといっていいほど進展しないこと、更には噂を聞いたことで業を煮やした女性が彼の両親、つまりルドルフとメイサに詰め寄ったのだという。
彼女は結婚を承諾してもらえたら公爵家を支える為力になる、自分の力は公爵家に相応しい。という事を雄弁に語っていたが、勿論2人はその女性の言葉に耳を傾けることはしなかった。
息子の人生は本人が決める、私達が強制強いることではない。
そう言って彼女に婚約は結べないとそう伝えた。
彼女がやって来たその数日後に今回の呪いの兆候が現れ始めたのだという。
『か、完璧に自分が犯人って言ってるようなものじゃないですかっ!』
そんな展開、漫画でいえばこいつ疑ってくれと言っているようなものの登場の仕方や事の起こり方に私は思わず口を挟んだ。
「あからさまなやり方だったのは、そこまで自分にたどり着ける決定的な証拠が見つけられないと思っていたのだろうし、わしらが自分の命可愛さに助けを乞うよう自分が関与していると分かるように仕向けたんだろう。だが、それも恐らく息子との婚姻を了承させられた後はあっさりとわしらは殺されただろうさ。」
淡々とその時の状況を話すルドルフの話しの内容にに私は苛立つ。
その人って一番最初に夢に出てきたアドルフさんにやたら言い寄ってた悪女だよね。・・・絶対この女、また出会ったら全力でビンタかましてやろう。
ルドルフはそんな私の心情など知らずに話しを続ける。
「あの女の誤算だったのは、呪いに対してわしらが長い間抗い続けたことと、呪いの連鎖が息子達にまで及ばなかったことだろう。」
『どうしてです?意中の相手なら尚更何らかの方法で止めようとしませんか?もしかしたらアドルフさんも死んじゃうかもしれないのに?』
彼は私の問いかけに首を横に振る。
「いいや、その逆だよ。呪いの存在を知れば、わしらも巻き込まれていると息子はもっと早くに勘づいていただろう。誰に似たのか自分の事より相手のことを想って自己犠牲をするような息子だ、敵も息子のその性格を利用した上で今の手を考えたに違いない。それに相手は強力な呪いを制御出来るほどの手練れ、その境界線ギリギリを見極めていたんじゃろう。」
誰かを想って・・・・、それ、絶対オジ様に似たんだよ。だって、オジ様もアドルフさんの未来を考えて何も言わず冷たく突き放してたでしょ?
結局親子って似るのかもしれない、まぁ私にはよくわからない感覚だけど・・・・・それより。
『でも、それでもただ一の侯爵令嬢が公爵家に盾突けるものなんですか?それに私、アドルフさんから聞いているんです。自分が守らないとリリスさんはどうなるか分からないって。公爵家より強い力を持っているって王家ぐらいじゃないんですか?王家の誰かと結託してません?』
「・・・・そうか、アドルフも後ろに背後の存在に気が付いていたか・・・。」
ルドルフが渋い顔を作って呟く。
「・・・その通りだ、あの女は王太子の第2夫人と繋がりを持っている。」
ルドルフさんが再び話し出したのは、この国の王家の内情だった。
第2夫人の存在ができるまで、王家の現在直系血族である血縁関係に当たるのは現国王そしてその妻の王妃、そして彼らの間に産まれた王太子と王太子に見初められた伯爵令嬢だった王太子妃だけであった。
本来なら王家というのは義務として血が途絶えないように側室を迎えるものだが現在はそれ自体が廃れた風習と化している。その理由は今より少し昔に遡り、現国王の過去の話しから始まる。
現国王の父、つまり元国王は類を見ない多くの側室をつくった人であった。
要は見境なく女性と関係を持つ色狂いな男で、上に立つ人間であったにも関わらず勉学に励むような性分で無かった故に頭も相当残念な人間だった。そんな男の統治した国など先が見えていた各臣下の要望もあり、家柄人柄申し分ない聡明な元王妃が迎えられたのだが、結局自分を改めるどころか妻の存在に余計劣等感を強く抱いたばかりか、歩み寄ることもしない冷え切った夫婦関係という安らぎのない場所に元国王は、まるで逃げるかのように自分の悪癖を更に拍車をかけた。
こうして元国王は手あたり次第女性との関係を持った結果、王家の義務でもある多くの血縁関係者が産まれ残すことに成功した。
だがそれによって生まれたのは側室たちによる国庫の金の食いつぶしと勢力争いという醜い日々だった。
後に当時の話しを現国王に聞けば幼少期から側室たちの暗殺されそうになったり、女に襲われそうになったりと幼少期の子供が過ごすには随分と酷いものだったそうで、己の自衛と王妃派の人々の助け、更に自分の母元王妃が剣の扱いや魔法に長けていたのでなんとか事なきを得ていた。
だが同時にそれらが公になればなるほど、王家に手をかけようとした罪で多くの人々がその度に処刑され多くの血が流されたのも事実で、現王は仕方なかったとはいえ今もあの時、何か別の回避策があったのではないかと思うことがあると話しているらしい。
見せしめに処刑することで事の鎮火を期待したが、結局落ち着くどころか、身内を殺されたことへの恨みをどこかの人間が利用しまた騒動を起こしていく。
どんどんそれは悪循環と化し、何年たっても収束できないどころかそれは大きく膨れ臣下の貴族たちや民たちを巻き込み、とうとう国が傾くほどの腹違いの兄弟達の勢力争いが起こることとなった。
多くの義兄弟が死にそして最後に残ったのは現国王と彼の妹にあたるメイサだけ。
義兄弟の母に当たる側室の女たち、それらの者に加担した貴族たちは反逆罪とみなされ処刑と爵位の取り上げになった。
そして最後まで生き残っていた元凶。
ただ女との遊びを興じ多くの混乱をつくり、国の政治義務をも放棄していた自分の父に温情かけることもなくその罪を背負う形で息子の手で処刑された。
父を手にかけた彼は二度とこのようなことはないようにと王家の血筋存続が危ぶまれる事例を除き、基本一夫一婦という制度をとる法を作った。
「勿論王太子様もそれに法り妻と決めた女性は王太子妃様のみ。現段階でお世継ぎの事もまた深刻には程遠く2人は相思相愛だったこともあり、側室の話など全くなかった。
だが一時期、立て続けに王家の暗殺未遂事件や中枢の人間の裏切りなどが相次ぎ不穏な空気が王宮に漂い始めた頃、その不安に煽られるような形で周りから側室の話しが急に浮上した。突然の何の脈絡のない話しに王家側の人間は初め困惑した。先程の話し《一夫一婦》が基本だ、一時の不安によるもので次第に側室の話しは鎮火すると誰もがそう思っていた。
だがなぜかその時は周りの貴族の不安と一緒に伝染して次第にその声は大きくなり、現国王達も早急な事態の収束に尽力はされたのだが側室の件だけは持ち上がったまま家臣たちに押し切られる形で、結果形だけとはいえ側室を設けることとなり今の第2夫人がその椅子に座っている。当時は全く分からなかったがここ最近の事であれも恐らく呪いを利用したと確信していたが、まだ捕縛できるほどの証拠がそこまで揃えないでいる。」
その時の事を想ってか、彼は固く拳を作り悔し気にする彼に私は胸が痛んだが、その話しの内容について自分なりに整理して考える。
呪い魔法によって側室の話しが上がるように仕向けたそれ・・・という事はその前の2つの事件も決して無関係じゃなかったんだろうね。
てか、今回の呪いを使ってきたカナディアといいその側室の女性といい、本当に姑息な奴ぅ!正直好きになれん!!
憤慨していると、目の前に良い香りの存在に気が付く。
テーブルを見ると、紅茶の入ったカップが2つ音もなくそこにあった。
何時の間に・・・?
隣を見れば白い磁器のティーポットを持ってお辞儀している執事、ロゼフの姿があった。
ヤバイ、この執事・・・出来るっ!全然淹れてくれているの分かんなかったーー。
「喉が渇くと思いましたので、よろしければ妖精様もどうぞ。」
紅茶のカップと執事を交互に見ていると彼にそう言われたので遠慮なくカップをとり紅茶を口にする。
ふわんと紅茶の良い香りが口いっぱいに広がる。
苦みが全然ない紅茶なんて初めて飲んだ・・・・・すげぇ、流石執事。
『・・・とても美味しいです。ロゼフさんありがとうございます。』
彼の美味しく淹れてくれた紅茶で気持ちを落ち着かせた私は彼にお礼を言うと、彼には私の声は聞こえないので私の言葉を代弁してルドルフが言ってくれた。
ただ、言葉を聞いた彼が涙目になってめっちゃ感激されたので、ちくりと良心が痛む。私はより強い精神攻撃になる前にそっと胸にしまい込んだ。
『話しを戻しますが、前から縁のあったこの2人元々仲が良かったんですか?』
「いいや、そんな話しは聞かなかった。当時社交場でも何度も長い間一緒にいるところを見ていれば誰かが覚えているものだが挨拶はすれど一緒にいる姿を誰も覚えていなかった。だが第2夫人として表舞台に上がってきた頃からよく一緒にいるところを見かけるようになっていると報告を受けていた。」
と、いうことは・・・・。
『それって友人じゃなくて利害一致で手を組んだ上司と部下っていう関係・・・?』
「・・・・・?」
『1人の女性は真意はわかりませんが王家と縁を持ちたい、もう1人は望んだ相手の妻になりたい。それぞれの利害一致で手を組み、1人は呪いと誘導を。もう1人は権力で妨害をしたんじゃないでしょうか?』
「仮にそうだとして、あの女狐がカナディア嬢に手を貸すだろうか?自分の思惑通りになった後にそんな足が付くかもしれないリスクを・・・・・いや。」
何か思い当たったのかルドルフは口を一度閉ざして考え込む。
私はしばらく黙ってそれを見ていたが、彼ははっとして目を見開く。
「メイサの存在かもしれん。」
向こうで眠っている彼女に私は思わず目を向ける。
「メイサは臣籍降下したとはいえ王妹だ、それに多くの人脈を持っている。彼女は常日頃自分の一言は周りの人間を左右しかねないといって、普段から個人に関しての悪評だけははっきりと口にしないよう努めていたのだ。」
『どうしてそこまで?』
「貴族は所詮横繋がりだ。そこに良い悪いも確かに存在するが、縁が途切ればすぐに家など傾く。安易な発言でその人以上に多くの人が不幸になりうることをメイサは望んではいない。」
上に立つ存在の人ってそういうのも気を付けないといけないのか・・・・・息つまりそう。自分がもし上にいる立場を想像してげんなりしながら彼の言葉に成程と納得する。
「だが最近で催された茶会でメイサは、側室の件は快く思ってない所か嫌悪しているとはっきりとその場で言い切っていた。側室の件だけは強く批判している、周りからしたらその言葉が重く伝わっていたに違いない。実際に第2夫人への周りの反発が女性陣からは日に日に強くなっていっている状態だ。そのように強い影響力のある彼女が死んでしまえば誰もが口を閉ざすところか反対派筆頭の彼女の死で勢いを削いていたに違いない。」
第2夫人、カナディアそしてアイーゼ。
目的がそれぞれ違う3人の女性が利害一致して邪魔だったメイサさんの命を狙っていたのか。
そんな話しを聞いてるとまたイライラしてくる・・・・本当、助けられてよかったよ。うん!
『じゃぁ、今回の計画はパァになったわけですね。相手の悔しそうにする顔が拝見できなくて残念ですけど、今はよしとします。・・・・でも、証拠があまりそろってない分反撃が難しそうですけど。』
「その通りだ、だがすべてが悪い方向というわけではない。とにかく情報を共有してそれからだな・・・・・来たか。」
何かに気が付いたルドルフは急に立ち上がり、私もよくわからないまま立ち上がって彼についていく。
迷わず扉をあけ廊下を見つめていると、大勢の足音が聞こえてきた。
8人・・・10人ぐらいだろうか、金属の音と一緒にこちらに真っすぐ向かってきていた。
扉の前までやってきたそれらはザッとルドルフの前で跪く。
『もしかして、聖騎士団ですか?』
白銀の騎士の鎧を身にまとう彼らに私はルドルフに問いかけると、彼は頷いた。
「左様。そして・・・・久しぶりだなハーティス。息災だったか?」
一番前の50代ぐらいの騎士に声をかけると、彼は怒った様子で彼を見つめる。
「俺の事より自分自身が大変だったろうが!大馬鹿兄上!」
「すまん。今回はわしもダメかと思ったが・・・どうにか生き延びることができた。だからそう怒らないでくれ。お前も少なからず影響は出始めていたんだろう?説明できず、すまなかった。」
頭を下げて言うルドルフにハーティスはまだ不満を言うつもりだったようだが素直に謝られて気が削がれたのか大きなため息をする。
「全く。兄上は、こちらが怒ろうとすればのらりくらりとかわしやがるから嫌なんだ。・・・・だが、本当に無事で安心した。それに俺やディオスも体が重い程度だったからそんなに影響はない、それとディオスは今回来られない、兄上の事や自分の管轄に喧嘩を吹っかけられたことにキレてな。嬉々としてすぐにでも反撃が出来るように色々と準備してたぞ。」
え?ディオスさんて何者?てかなにそれ、その人怖っ!
「そうか・・・ディオスも大したことがなくて安心した。」
「本当に、義姉上も助かって本当に良かった・・・・。」
ハーティスは優し気な笑みを浮かべて呟くように言った途端真顔になると、その場にスッと立ち上がり新たに左手を右胸に宛て姿勢を正した。
どうやら現実でいうと警察の敬礼らしい、ハーティスは騎士の礼を彼に捧げた。
「王命によりクレンティア王国第2聖騎士団団長ハーティス=ルーザッファ以下11名を携えはせ参じました。」
彼の言葉で一斉に跪いていた騎士達全員が瞬時に彼と同じ敬礼をしたのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
そして、何度読んでも何処かに必ず誤字脱字が見つかるっていう……本当にごめんなさい。頑張ります!
裏設定:メイサさんとルドルフさんの馴初め。前回でも書きましたが、大分2人は年が離れてます。そんな2人がなぜ夫婦になったのかというとさらっと言えば政略結婚です。混乱している王政をどうにか建て直したかった現王は、まず確かな人脈が多い公爵家のルドルフと妹を結婚させることで人脈を固めたかったのと、妹が他の貴族に利用されないように人として信頼している彼なら…と妹を託します。上記2つのことを解っていたルドルフはメイサさんに申し訳ない思いでいっぱいでした。こんなおっさんに嫁がされて申し訳ない思いだったのです。けれどメイサさん、実は幼い頃からルドルフさんに一目惚れをしてずっと片想いと同時に自国の為他国に嫁がされる覚悟をしていた為諦めていたので、それはもうめちゃくちゃ喜んで嫁いだそう。後からその事を知ったルドルフさん、最初は戸惑ったけれど彼女の人柄そして真っ直ぐ自分に気持ちを告げてくる彼女にひかれ、今は超ラブラブです。メイサさんのこのぐいぐいな所はアドルフさんに引き継がれています。
……設定説明長くなってもうた。