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題名はまだない。何せこの物語はまだ途中なんで!  作者: ちゃらまる
第2章~誕生編~
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まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう㊿と⑦)

6/5 文章を少しだけ訂正しましたが内容に変わりはありません。




自分の顔に光の熱を感じてティリエスはゆっくりと目を覚ました。

既に日は昇り夜が明けた空が目の前に広がっているのをみて、自分はどうやら地面の上で眠っていたのを理解する。

自分の身体を汚さないように敷いている布からは微かに父の匂いがしているのを感じ取りながらゆっくりと起き上がった。



「どうやら、終わったようですね・・・。」


騎士達が荷物を運び出している様子や悪事を働いた人間達の捕縛されている姿をみるに、今回の件の決着がついたようだ。

そして、もう1つ――――。


私はある場所を見て立ち上がると、1人の騎士が私が目覚めたの事に気が付き駆け寄ってきた。


「ティリエスお嬢様!」

「お勤めご苦労様です。お父様は?」

「今、我々の指示に当たっています。それより立ち上がって問題ありませんか?加勢の者達がくるまでまだ横になっていた方が・・・。」


心配していた騎士の声に礼を述べようとしたその時だった。

大きな女性の声が自分の耳にまで届く。

正に自分が向かおうとした場所からで、ティリエスはそちらへ視線を向けたが咄嗟に騎士がその場所を自分の身体で隠した。


「ティリエスお嬢様、不躾な態度申し訳ありませんがどうか、このまま・・・。」


まるでその先を見せないようにしている騎士に、私は彼の言葉を否定するために首を横に振った。私の行動に眉をひそめた優しい彼に「けれど。」と言葉を続けて口にする。


「大丈夫ですわ。・・・でも、どうか・・・何も聞かずあちらへ行かせて下さい。」

真っすぐ彼を見つめると、ぐっと何かを我慢するような表情をしたが黙って私の前から退いて小さく敬礼した。そんな彼に会釈し小さく息を吐いて、私は前を見据えてゆっくりとその場所へと向かっていった。





木々たちのない大きく広い場所へ行きついたそこには、初めて見る女性達がいた。

痩せこけた者や誰かに殴られたのだろう傷や痣が出来た者達が涙を流し項垂れている姿があった。中には悲鳴のような声を上げて泣いている者もいて、騎士達の言葉に耳を傾ける者は殆どいないようだった。


「彼女達は自分達が大人しくしていれば子供や幼い弟や妹には危害を加えない、ちゃんと面倒を見ると・・・そう言われて今まで耐えていたそうです。・・・それが、こんなことに。」


彼女達が蹲っている先には均一に並べられられた遺体・・・彼女達の子供や家族である弟、妹達の亡骸。

ついてきた騎士の口から彼女達がどうしてこのような場所で今まで耐え、逃げないでここで暮らしていたのかティリエスは騎士の言葉で理解する。


ティリエスが助けられたのはたった8人。

その子供達が眠っている場所へこぞって女性達は安否を確認し、その場にいないと分かり広い場所で所狭しと並べられた遺体を目にして悟りそして女性達は皆絶望していったのだ。


ティリエスが被せていた白い布を騎士達が体の大きさに合わせて切っていったのだろう、彼らの上へ被せているそれをとって確認するまでの気力は残っていないようだった。



閉鎖的な空間で帰る場所もなく自由もなく、縋れるのは噓にまみれた男の言葉だけ・・・それが偽りと理解し守るべきものが最早いないと理解した後の絶望を感じる大きさも決して小さい事ではないと解っている。


だけど・・・それでも私は―――。


ある布の前で蹲る女性の前に私は歩き出す。

私が目の前に立っても暫くは放心状態だったその女性はやや遅れて私を見上げて見つめる。


「貴女の、家族・・・なんですね・・・。」

そう言うと、彼女の瞳に涙が滲み小さく頷いた。


ティリエスは彼女の家族の亡骸の前に座り込み、布から零れ出たその蒼白い小さな人差し指を軽く握る。


「初めて・・・産んだんです。」

小さな声にティリエスは振り向く。


「相手が・・・誰なのかなんて・・・関係なくてあたし。この子を産んだ時護るって約束っ・・・あだじっ、どうじでっ・・・どうじでぇ!!この子が死ななくちゃっ!なんでぇ!!」


地面に手を叩きつけながら泣きくずれるその女性の言葉は、ここに居る女性達の心の叫びだった。

その場に居た騎士達は何も言えずにただその場で黙るしかできなかった。


ティリエスもまた暫く何も言えずに地面を見つめるだけだったが、彼女は意を決して泣いて蹲った女性の前に歩き出す。

その彼女の行動に騎士達は驚き動揺した。


その周りの動揺にか、それとも彼女が目の前に来たからか、女性は顔を上げる。


ティリエスの抱いていたモノに女性は涙が止まる。

彼女が大事そうに抱えていたのは、白い布で包まれた自分の子供の亡骸だった。


「そんなっ・・・」

「いや、そんなことがあり得るのかっ?!」


騎士達は自分達の目を疑い驚愕する。その言葉に他の女性達も顔を上げてティリエスを見つめる。

彼らが何故驚愕したのか、ただ単に子供が死体を抱きかかえたことではない。


自分達がここへ運んでいた時は子供達の死体は強い死臭がし、その姿の殆どは腐り落ち形は崩れ、とてもじゃないが見せられないモノだった。

だから、1人1人にせめてとあの白い布を被せていったのだ。


あの抱きかかえている子供の遺体もそうだ、一番といっていいほど酷い有り様だったはずだ。


だが、彼女が抱いているその遺体は運び込んだ時には無かった小さな子供の顔がはっきりと遠くからでも見えた。

まるで、死体ではなくただ胸に抱かれそこで眠っている可愛らしい姿がそこにあり、それの姿に誰もが女性達も食い入るように見つめた。


一心に注目を受けたティリエスはそんなことは気にせず悲し気に微笑み目の前の女性に口を開いた。


「貴女方の護りたかった命はもう助けてあげられない・・・けれど、せめて最後まで頑張った家族を抱きしめてあげて。大切な人の死を気持ちが追い付くまでゆっくり時間をかけてもいい・・・それは貴女の気持ちです、誰のものでもない貴女の痛みだからそれでいいんです。・・・でも今は、この子達の為に沢山悲しんで慈しんで・・・この子達とお別れをしませんか。そうじゃないとこの子達は貴女達が心配で女神様の元へ行けないから。」


その言葉に誰もが目を見開く。


生きとし生けるものは皆女神の元へ旅立ち、そしてまた新たな生を与えられ生まれ変わるといわれている。

ティリエスが言うように、もしこの子達の魂が彷徨い女神の元へたどり着かなければその魂は魔のモノに喰われ消滅し、二度とその魂は生を与えられることは出来ないというこの世界の教えを思い出した。


ティリエスの言葉に彼女は耳を抑え一度きつく目を閉じたが、耐えるように乱暴に涙を拭うと差し出された我が子をそっと受け取る。


「          」


小さく誰にも聞こえない、子供の名を彼女は囁く。

すると、母に抱かれたその子は開いていた小さな口がゆっくりと閉じていきその口元には安らかな笑みをした子供の表情に変わったのだった。

「っ!」

抱いている彼女も驚き眠る我が子の頬を触るが、冷たいままだと分かると彼女は涙を流し・・・けれど先ほどのように泣き叫ぶことはせず我が子を見守るように微笑んだ。



それを見ていた女性達もゆっくりとだが立ち上がりふらふらと歩き出し、自分の目の前の白い布に覆われた我が子や家族をそっと抱き上げてそして同じように抱きしめ涙を流していった。


彼女達のその行動に騎士達も動いていった。


体力がなく赴くことができない身体の女性には、騎士達が遺体を彼女達の前まで抱き上げて連れて行った。

男である騎士に近づいてきた騎士達に初めは怯えたが、自分達の家族の亡骸を大事そうに抱え彼らもまた彼女達と同じように涙を流し悲しんでいる姿に彼女達は抵抗をみせず、静かに受け取りただただ子供達の死を静かに悲しんだ。




さわさわと柔らかい風が頬を撫でる。

それと一緒に、ティキから聞いたあの甘い香りが皆を優しく包んでいくのを感じとりながら、ティリエスはその場から澄み渡った青い空を見上げたのだった。




いつも読んでいただきありがとうございます。

裏設定:作中にはかかないけどこんな実はこんなアイテム。

ティリエスが被せた白い布→黄泉の織物:あの世の神の髪を織り込んだとされる白い布。死んだ人に使用すると生前一番美しく幸せだったころの肉体へ戻る逆戻りの織物。ソシャゲでも酷い亡くなり方をした人に使用し、遺された人たちはそうして友人や家族を弔った。3日間肉体は維持される代わりに3日後肉体は淡い光となって舞い上がり地上には何も遺らない。事実は誰にもわからないが淡い光となったそれは女神の元へそのまま連れていってくれるという説がある。

という代物。主人公はそれを見越して子供達に被せ腐敗の時間を止め、騎士達の手により1人1人に使用としたことで効果が発揮され、彼女達の元へ還ったという流れです。

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