まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう㊿と②)
今回作中に不快にさせる内容表現があります。ご了承ください。
「君は大人にこう教わらなかったかい?『幼い子供が魔法・・・魔力を操作すれば死ぬ事はないが意識を失う事例があった。だから協会は属性を調べるのも魔力を操作する修練を始めるのも原則として5歳から行うことになった。』と。まぁみるからに君は良い子だからそのままそういうものだとして覚えたんだろうけどね、俺が子供の頃家庭教師からそれを教わった時それがどうしても気になった。」
炎の魔法で燃え出た煙で視界が悪くなっているなかで彼は楽し気に声を弾ませて話し続ける。
「どうして小さい子が魔法を使えば意識を失う事を知ったのか?なら子供は一体どんな風に意識を失っていくのか?そもそも本当に意識を失うだけなのか?俺は気になった。だからここを任された後実験をしたのさ。なにせ、ここの奴隷たちは魔力が高い。そいつらが生産した子供も魔力が高い。だから実験するにはもってこいだった。するとだ、今お前のように過剰に魔力を使えば、意識を失うどころか死んでいった!最初は粘膜の弱い部分からの出血!もっと使い続けさせれば手足の痺れに全身の力が脱力していき、その次には言語障害!そして最後には泡を吹いてもがき苦しみながら死んでいった・・・ひ、ひひひ!!」
口端から涎を垂らしながら笑いその男は杖を振るう。すると一瞬強い風が吹き荒れると充満していた煙と燃えて尽くし灰となったモノを一気に霧散させ視界をクリアにさせた。
周りにいた部下は死に絶え誰も生きてはいないことに、『防御魔法すら出来ないとは無能だ。』と、悲しむどころか苛立ちを覚えながらバカスは舌打ちをして前を見やる。
遠くに見える小さい少女はそこに立っているのをバカスは捉える。その少女ティリエスに至っては特に服がほんの少し煤けたこと以外変わったことはなく、止血の為に袖を鼻に押し付けながらその場に立っていた。
少なくとも火傷で倒れていると予想していたバカスは少々眉を潜めたが、彼女の周りの防御魔法は砕け散っていることにすぐににやりと嗤う。
あれだけ強固な魔法を長時間使用していたんだ、大方魔力を使い果たし魔法を放つ気力はないらしい。
そう判断したバカスは歩き出す。
一度負傷した腕が少し痛むものの気にせずバカスは一歩一歩彼女に近づく。
一方の彼女はじっとただバカスを冷ややかに見つめているだけで何1つ言わない。
そんな態度をみせるティリエスを見れば見る程、アドルフの顔が浮かび再び苛立ちが募っていく。
と、彼女はゆっくりと鼻を袖で押さえていた手を下ろした。
「なんだその眼は。あぁ・・・そうか、まだ何か悪あがきでもする気か?今度は鬼ごっこでもしようか?いや、かくれんぼでもいいぞぉ、ひ、ひひひ。」
彼女がまだ初めて出会った頃と同じ、いやそれ以上の反抗心を宿したその眼にバカスは苛立ちつつももうこの子供には何も出来ないという余裕が彼の心を落ちつかせていた。
「お前の疑問や過去の話しなど、どうでもいい。」
ティリエスは右手で自分の胸元をぎゅっと握りしめ、そして今まで黙っていた彼女が口を開いた。
突然の鋭い言葉にバカスはスッと顔を無表情にさせる。
「お前のそんな話しを聞いたところで、お前は男として私の父に負け、人として非道な行為を繰り返した愚かな男という存在でしかない。そんな男の人生の為に私や私の家族いや・・・ここに居る全ての人を巻き込むな。」
「ここに居る人間・・・ひひっ、ここはなぁ、奴隷の女とその女どもが生産したもの、そして少し使える道具がいるだけだ。そんな奴らを巻き込むな?あいつらはなぁ買われた存在で人じゃない・・・それをどう使おうが俺の勝手だよなぁ・・・本当に。あーあー、本当にイライラするなぁ。」
そういって男は杖の先を彼女に向けるが、だが彼女は怯むこともなくただ真っすぐに男を睨む。
全く表情を変えずに睨みつけてくる眼に男は更にイラつかせた。
もう、殺してやろう。
男は杖の先に魔力を込め始める。あの御方から譲り受けた杖は次の魔法で使えなくなるだろうが、仕方ない、確実に殺すためだ。
「この至近距離で魔法を使えば、お前は死ぬなぁ・・・もし、俺の為に動くというなら殺すことは辞めてやろう・・・どうだ?死ぬのは嫌だろう?ほらっ、ほらぁ!俺に命乞いしろ。」
恐怖で歪む顔が見たい男は彼女を煽り詰め寄る。だが、彼女の眼にはそんなことをしても恐怖心など抱くはずもない。
そして、彼女はフッと静かに笑ってみせた。
「私はまだ死にませんわ。お前のようなクズ野郎にこの命差し上げるつもりも命乞いするのも絶対お断りですわ。」
「このっ、言わせておけばぁぁ!」
怒りをとうとう爆発させた男が魔力を発動させようとする。
ティリエスは男の顔からふと頭上を見上げて口を開いた。
「お前のような輩、私もそしてお父様も負けませんわ。」
「このくそ餓っ。」
バカスが言い終わるその時だった、大きな音が頭上から響き魔法を中断し咄嗟に上を向いた。
何故頭上が壊れたのかそんな疑問より先に多くの瓦礫が振り、大きな穴が頭上に出来たのを理解する。
そして次に視界を捉えたのは、思った以上に時間が経過していた夜明け前の空の色とともに何か大きな黒いものが降ってきた。
なんだ、あれは?
理解が追い付かないままそれをじっと見つめていると突然それは自分の眼前に現れそして次には自分の左頬に大きな衝撃を受けた。
自分の頬からメリメリと何かが砕けたような嫌な音が聞こえ、そして強烈な痛みともにバカスは後ろへと吹っ飛ばされる。
杖も自分の手から離れ先端の黒石が床に落ちた衝撃で割れるのをスローモーションで見た後、男はものすごい音を立ててゴロゴロとまるでボールのように勢いよく転がった。
受け身もとれず全身に痛みを感じながら何が起こったのか、痛みをこらえながら前を見つめてそれが何かを確認する。
そして、男は驚愕しそしてその存在に恐怖し心臓が嫌な音を立て呼吸が先ほどより荒くなっていく。
嘘だ、嘘だ・・・どうして、ここが、いや、なんで今ここにこいつが居るんだっ・・・。
「アドルフ、公爵・・・。」
男は目の前に現れた男の名を口にしたのだった。
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