如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)⑬
一体全体どうなっているんだ?・・・・私って、人には見えてない存在なはず・・・なんだよね?
私は驚いで固まっていたが先ほどの事実を確認するため、ゆっくりと彼に近づいていく。
『わ、私もそちらに行っていいですか・・・?なんて。』
「ん?ああ、どうぞ。何処でも構わないので好きな場所で寛いでおくれ。」
大きく息を吐いたルドルフはこちらを見てまた朗らかな笑みを向けて、私に席を勧める。
やっぱり私が見えているし、聞こえているみたいだ。
『オジ様、今まで私が見えていたの?一体いつからでしょうか?』
「まずはこちらにどうぞ。」
疑問を口するが先にルドルフにまたソファに座るよう勧められ、私は彼に従って真向かいにちょこんと座った。
今まで好き勝手に動いても認識されてなかったので、今、自分が見られていることに慣れないと思いながら彼の顔をじっと見る。
……少しやつれ顔だけど、オジ様やっぱり素敵!ちょっとした佇まいといい、こんな人現実でいないし、うん格好いいわ~目の保養。
「小さなお客人、まずはわしと妻の命を助けて頂きありがとう。眠っている妻の分もお礼を申し上げる。」
突然、急にお礼をいわれて彼を観賞していた私は、最初何を言われたのか分からずきょとんとしていたが、直ぐに何を言われたのか理解して、慌てて取り繕った。
『いやいやいや、そんな礼なんていいですよっ。体調は大丈夫なんですか?良ければ眠っていてもいいんですよ?それよか頭あげてくださいっ。』
丁寧なあいさつに私は胸がこそばゆくなりながら彼に頭をあげてもらうよう頼む。
私は小さな違和感を感じ取り、彼の言った言葉が気になり口を開く。
『あの、私はこれまで誰にも見られたことがないんですが、私ってどう見えます?
小さな客人・・・というのは?』
以前夢の中で鏡に映った自分は仕事でよく来ているスーツ姿をしていたし、現実と同じ私の視点は今まで通りと変わらないでいた。
つまり大人な姿に小さな客人といわれ何か引っかかるものを感じたのだ。
その質問をすると、彼は何かを考えるように顎に手を置いて一度黙ったがすぐに口を開く。
「わしには、光る玉の姿に見える。」
・・・・・・・・え?まさかの人外だった。しかも光るスーパーボール。
意外な言葉に目をしぱしぱさせる。
「初めはわしも何も感じなかったし、見えていなかった。だが呪いがなくなる直前に自分とは違う何かがいると感じた。それからお主が見えるようになった。」
『・・・・・・・・・。』
話しを聞いて思い当たるのは彼の中の呪いの根源を見つけ出す際、魔力を通して調べたから・・・が原因な気がする。
自分の魔力と彼の魔力が共有を果たし作用し、私の存在がわかるようになったのではないだろうか。
といってもこれはあくまで仮説の話しではあるが・・・・。
「どう見えると聞いたという事は、お主はわしが見えている姿、というわけではないのだね?」
『はい。私は貴方の様に手足もあり身体も顔だってあります。・・・・・不思議ですね、どうしてそんな風に見えるんでしょうか?』
「・・・目視できる限界が光る玉の姿、ということではないかな?お主は本来見えない存在なのだろう。初めはアイーゼ・・・彼女の放った何かの魔法かと思って警戒していたが、お主からは悪意を感じるものがなかった。なので彼女の問題が解決するまで放っておいたのだが・・・。そしたらお主が彼女を捕らえ、彼女に対して怒っている言葉が聞こえてきた。ロゼフには聞こえてないようだしひとり驚きはしていたのだが・・・・。」
と、ルドルフは言葉を区切って、何か確信めいたように私をじっと見つめる。
・・・・・ん?何そのキラキラした瞳。どっかで一度見たことがあるような気がするんだけど。
あとオジ様目力強いっ。
「わしが知っている知識の中でお主の存在に合致するのは妖精という存在だけだ。長生きはするものだなぁ、この年になって妖精に出会えるとは・・・。」
しみじみといわれ、私は声を詰まらせる。
すみません、オジ様。私詐欺妖精です、スーツを着込んだ30代の女です。
心の中で吐露して謝る。
でも、実は私人間なんですって暴露したらしたで光の玉がなんでしゃべってんだってなるだろうし
ややこしいだろうし。光る玉って私は人魂ってなるじゃないか・・・うん、まぁいいか妖精で。
でも、この世界設定の妖精の存在ってある意味すごいよね、ご都合良い存在が妖精ってことは、
なんでもやりたい放題じゃん妖精。
まぁただ妖精と思われてるから大っぴらに妖精はなんでそんなに皆から好かれているんですか?なーんて聞けないんだけどね。
「お主のお陰で多くの者が助けられた。」
『実際被害が何処まで続くのか、わからない程強力な感じでしたね。』
鑑定魔法して特定した事実は伏せてルドルフに相槌を打つ。
そしてあのときに調べた呪い魔法の特性を思い出す。呪いがなくなるまで親しい者に死の呪いが次々伝染していく魔法、2人が死んでしまったらどのくらいの人が危険な目にあったのだろう。
それを思い出し、今更ながらに自分がチート魔法使えてよかったと安堵する。
「2人で食い止めていた時期でさえ、わしの兄弟達や家族、友人や領民にまで影響が出始めていたから被害は深刻だったに違いない。しかし、不思議だったのはわしの倅と倅が好いた女性はこの呪いはかかっている様子はなかった。」
『あ、多分私が以前腕輪をあげたからかもしれません。』
思い当たることがあり私は彼に言う。
「腕輪とは?」
『えっと実はですね—―――――。』
それから私は彼に彼らとの出会いを話す。
とある夜会の時に初めて彼らに出会ったこと。
彼らが気になってついていって助けたことがあること。
そして何からしら命の危険が迫っていた彼らを護るために腕輪をあげたこと。
今回もアドルフがいたからここに現れ、ルドルフさん達の現状を知り助けて今に至る事を搔い摘んで話した。
「・・・・なるほど、そうだったのか。」
ただ黙ってルドルフは聞いていたがすべてを話し終えて口を開く。
私は、何か考えている様子の彼におずおずと尋ねる。
『あのね、オジ様。私から見ても2人はとてもお似合いだと思うよ。呪いのせいで突っぱねていたのは知っているんですけど・・・・その、2人を認めているという事でいいんですよね・・・?』
先ほどの怒気の表情で声を荒げて、追い出すようにアドルフに言い放っていた姿を見ていたので自信なく彼に尋ねる。
できれば、彼らには添い遂げてほしいという気持ちの私は確信めいた言葉が欲しかった。
それに。こんな中途半端で夢から覚めたら気になって気になって二度寝してしまうと思う、確実に・・・明日仕事なのに。
彼にとって私の質問は意外な質問だったのか、アドルフと同じ紫色の目を丸くさせてこちらを見つめる。が、すぐに微笑みを返される。
「勿論だとも、妻もそうだが断る理由がない、わしらもとても嬉しいことだ。だが元々公爵とは名ばかりのような家だ、それに苦労が多いこんな家でも良いのかと逆にこちらがお嬢さんに申し訳ないとも思っているよ。」
苦労が多い・・・?小説でよく出てくる貴族社会のやっかみとかだろうか?
彼の言っていることは分からないが、とりあえずご両親が承認している言葉が聞けて私は大満足だった。
とすれば、結婚も秒読みだぞ。やったねアドルフさん!リリスさん!
一人ガッツポーズをしていると、ドアのノックが聞こえてきたのでそちらを見る。
ルドルフが入るよう声をかけると、入ってきたのはあの執事さんだった。
「失礼します。旦那様、すべての言いつけが終わりました。あと数刻もすれば第2聖騎士団がお見えになります。あと、アイーゼの部屋からこのようなものが。」
ルドルフに一礼して彼は現在の状況報告を伝え何やら持っていた書類を渡す。
犯人の部屋から見つけたものなんて良いものではないのだろう、目を通した彼が険しい顔をする。
「やはりあの女が関わっていたのか。」
「如何いたしましょうか?」
「これだけではあの女までたどり着けるのは難しいだろうな。だが、あやつの牙を折るのは可能だろう。」
『オジ様、・・・・一体何の話をしているんでしょうか?それともあまり聞かせられない話しなんでしょうか?』
私の言葉にルドルフは押し黙る。恐らく人同士の争いごとに私を巻き込んで良いものかどうか考えているのだろう。見えないからといって絶対大丈夫なんてことは保証はない・・・・けれど。
『オジ様、危ないからって私をのけ者にしないでください。私がいないところでまた危ないことになっていたらと思うと、私後悔します。それに・・・私、あの2人の事はがっつり助けるって決めたんです。だから2人の家族の人も同様に助けます。だから、私色々サポートしちゃいますよ!どんとこーいです!』
胸を張って自信満々に答えると、ルドルフはその言葉に小さく笑った。
「なれば・・・・、もう少しわしらを助けて下さいますかな?妖精殿。」
『っ!もち!あたぼーですぜ!!』
その言葉に私は満足し大きく頷き笑いあっていたら、ゆっくりと音もなくやってきた人に気が付いて一斉にそちらを振り向いた。
「あ、あの・・・旦那様、妖精・・・というのは一体・・・?」
と、ここで遠慮がちな声で執事のロゼフが言う。
しかも大の大人がおろおろしているのが伺えて、数秒間の後、何かがツボだったのかルドルフが盛大に吹き出して笑ったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今週の土曜日と日曜日は予定が入ってしまい投稿は難しいです。
次回は三連休のどこかで投稿できるように頑張ります。