まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう㉒)
今回出てきたカジイチゴは存在してますが、勿論毒性はありませんのであしからずご了承ください。
もとよりアドルフ卿がこの領地から離れる際は、メドイド所有する騎士数名を屋敷の警護を要請している。
基本、領地をもつ貴族には騎士団を所有しているがルーザッファ領の騎士の人数は他の領地に比べ圧倒的に少ない。
理由は資金繰りも原因の1つとしてあげられるが、それより先代のルドルフ卿の際例の資金制度の廃止の件で忠義を示すために個人能力が高い騎士達を王直轄の騎士として派遣しているということが大きい。
貴族は騎士を人ではなくモノとしてみている者も少なくなく、本来なら領地に居ない時点で別の騎士で補充されその領地での騎士としての居場所はなくなるわけなのだが、ルーザッファ前当主そして現当主である彼らは新しい騎士を雇用せず少ない人数で彼らの為に騎士の席をそのままにしている。
その意図を少なくとも友好関係あるメドイド家の騎士達は理解しているのでこうして要請されたらルーザッファ家へ赴くのだ。それにいつも要請されるのは騎士になって日が浅い新米達で問題ない事から遠征訓練の一環としてこちらとしても十分身のあるものだ。
だが、今回はいつもと勝手が違った。
アドルフの要請した人数が15人、いつもの倍である。
しかもその中に自分グリップとヴォルが必ず入っているのが条件だった。
グリップとヴォルの役職は第3部隊隊長に第7部隊隊長である。強さで言えば序列10位内に入る人間2人を配置した屋敷警備の依頼。
この異様な要請にすぐさま気が付いたラディンは、義父であるハーティスにこの事を話すと彼もまた異様な事に気が付いた。
アドルフはどんなことでも報告を欠かさない、たとえそれが普段通りの事でもだ。
だがいつもと異なる事の理由が書かれていない、それらで察せられることは彼は現在それを文に記されることが出来ない警戒態勢の状態ということ。
彼らはすぐに手慣れたもので編成を行い朝早くに合流が図れるように意図的に出発時間を早めたのだ。
彼らのこの機転は正解だった。
実際に今回の騒動の合間に本人と情報のすり合わせを行えば、ここ2、3週間前から屋敷周辺を誰かに見張られている気配がするらしい。
変に反応すれば向こうも警戒すると思った彼は妻や子供にはそれとなく外出を控えるように伝え、自分も普段通りに振舞ったのだという。
だがここでも妙な事が起こった、妻の護衛騎士に当たる者から体調不良を訴えることが起こったのだ。
妻の見立てだと体調不良は毒性のある木の実が原因と判明した。名前をカジイチゴと言いその木の実はこの辺りだとなじみ深いものでよく彩のサラダに入っている酸味のある木の実で、熟れていれば問題ないが熟して黄色くなる前は鮮やかなピンク色をしている。この時の木の実には少量だが毒性が含まれておりに食せば下痢や嘔吐、発熱を起こすものだ。
食べて致死には届かなくとも体調は崩れる。
嘔吐物からその木の実の欠片が見つかり判明したのだが、騎士は基本ここで出される物を食べて飲んでいる。
体調を崩した騎士からも聴取したが外で食べたということはなく普段通りに屋敷の食事を食べたのだという。
結局なぜそれが入っていたのか分からないまま事は取り敢えずただの体調不良として扱ったわけだが、だがこれで内部にも周りを監視している内通者がいる可能性が出てきた。
そしてピンポイントで彼女の護衛騎士が体調不良になった・・・ということは。
数ヶ月前からの女性の変死体といい、今回の事を考えると何か事を起こそうとするものがいるのかもしれない。
情報を照らし合わせ終えた瞬間、ある考えが頭を過り誰もがやられたと瞬時に悟った。
もう既に山賊の襲撃騒動が起こり警戒を強める前にすんなり屋敷の侵入を許してしまったからだ。
まだアドルフが居たから気が付いたもののもしアドルフが既にここを発ってしまい情報の照らし合わせがなければ向こうの策にはまったまま誰も気が付かなかったかもしれない。
真っ先にそういう可能性を想定しなければならないヴォルがまんまと策にはまったことに、ヴォルは自身の憤りと焦燥した。
自ら行ったことがリリスやティリエスに害が及ぶかもしれないという事態へ発展させてしまったのだ。
でもだからってまだ内通者もわからない今の段階でリリスやティリエスに変に警戒されてもかえって危険だ。そこで彼らは出来ることなら2人に知らせず守り切りたいと考えたのだ。
だが、そんな思惑も向かいにいるグリップのせいでなくなってしまったのだ。
苦々しくグリップを睨む。グリップは大げさにため息をすると呆れた目で彼を見つめた。
「なんだよ、その目は。」
「なぁヴォル、今回は別に誰のせいでもないじゃん。何焦ってんだよ。」
「どういう意味だ?」
「確かに状況を悪くさせたかもしれない、でもさぁ。あの中に事前に滑り込んだ犯人がいたと解ってあのままにしたらさ、それこそアドルフ卿はめっちゃ怒るんじゃね?」
「それは・・・だが!」
「あの人別に怒ってなかったし、逆に礼言ってくれたじゃん。なら俺達はアドルフ卿に応える働きをしないと。俺はリリスさんは黙っていても良いと思うけど、ティリエスちゃんは別。あの子は敏いし賢いからこっちから釘指しておかないと変に首突っ込むと思う。」
きっぱりと言い切った彼の言葉に反論の言葉を詰まらせる。
それはヴォル自身思う事だったからだ。
だが・・・。
「でもグリップ、それでも俺は言うべきではなかったと思っている。」
ヴォルもはっきりと言った。
「あの子はまだ4歳なんだ。大人があんな小さい子を巻き込んで頼るんじゃない。」
グリップも痛いところを突かれ、困ったように苦笑した。
ヴォルはヴォルで大きくため息を吐いた。
「・・・・・もっと俺達が頑張らないといけないということか。」
「まぁ、そういうことになるんだろーね。」
2人は小さく笑ったのだった。
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