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迷宮のクレープ屋さん  作者: あまみ
第一層
19/37

18.バターシュガークレープ

第一層エピローグです

 第一層の森の中で、一際大きく枝葉を広げる白い卵の木の下に、初めてのクレープ屋さんが店を開けた。

 白い葉の優しい木漏れ日の下で焼かれるクレープと込められた祝福の甘い香りに誘われて、お客様が列を成し始める。


 サチカは女神からの要請で二枚のクレープを焼き、黒髪の魔人とミミタマ族の魔人に手渡した。

 拘束を解かれたミミタマ族の魔人は、最初に見たものを親と刷り込まれた雛鳥のようにサチカの傍を離れたがらなかったが、案内妖精に追い払われてしまう。

 少し離れた場所に座り込んで涙目でクレープにかじりつき、次の瞬間にはその美味しさに垂れた兎耳をパタリとさせて喜びを表した。

 静かな黒髪の魔人は一口食べてから、感情の乗らない山葡萄色の瞳でじっとクレープを見つめて、その後は大きな三口で一気に食べ終えてしまう。

 バターシュガークレープは、どちらの魔人にも好評のようだった。


 口数の少ないこの魔人達は、二人ともこの第一層の卵の実から派生したミミタマ族の魔人という予想外の共通点を持っていたが、サチカにはそれを驚いている暇がない。

 次のお客様と次の次のお客様にも、バターシュガークレープを焼かねばならないからだった。



「すぐに次が焼き上がるぞ。対価はそこに置いておけ」


 カウンターで列を捌く案内妖精は、腰に手を当てて自分よりも小さなお客様を見下ろした。

 ぴょこんと跳ねる毛玉な卵達は、その手に携えた卵の木の葉や卵の花をカウンターに置いて、バターシュガークレープを受け取って行く。

 クレープのキッチンカーの前にお行儀良く列を成しているのは、小さな卵型のミミタマ族達だった。


「ミニサイズのクレープも作った方が良いかなあ?」


 あの小さな体ではクレープが大きすぎるのではと心配してカウンターから覗くと、クレープを購入したミミタマ族の一匹が、数匹のミミタマ族に歓声とともに迎え入れられているのが見える。

 待ち構えていたミミタマ族達が力を合わせて器用に包装を剥がすと、端々からぱくりと齧り、ぴょんぴょこ跳ねて喜んでいた。

 盛り上がるその一団を羨ましそうに見ていたもの達が体を寄せ合って何やら会議し、その中から一匹が意気揚々と進み出てクレープ客の列に並ぶ。


(良かった、普通サイズでも大丈夫みたい)


 しかも、集客効果が素晴らしい具合だ。

 サチカはにっこり微笑んで、次のクレープをテキパキと折りたたむ。


「なー君、お願いします」

「おう」


 できあがったクレープを案内妖精が次のお客様に手渡してくれる。

 サチカがクレープを焼いて、ナビィが接客をするオペレーションも遽に始めた割にはスムーズなものだろう。


 それにしても、突然できたクレープの行列は、焼いても焼いても短くなる様子がなかった。

 無限に採れる女神特製の収穫籠のおかげでクレープ生地が尽きることはないが、貰い物の発酵バターとグラニュー糖は有限なので、在庫はほとんどないに等しい。

 同じことを気にしたらしい案内妖精が、ピシリとした声を上げる。


「あっ、おいお前ら、食べたばっかりでまた列に並ぶな!」


 クレープを食べ終えたミミタマ族の一匹が再び列に並んだのを注意したものだったが、


「あら」

「おや」


 同じく二巡目の創世の女神とカフェラテ色の魔王も、ちゃっかり列に並んでいた。

 ぴくりと案内妖精の翅が震えて、サチカはナビィの堪忍袋の緒がぷちりと弾けた瞬間が見えた気がした。


「あんたらも遠慮しろ、永遠に終わんねーだろ!」


 遠慮をかなぐり捨てた案内妖精は頼もしいまでに列を捌き、最後尾で二巡目のお客様にノーを言い渡す係には垂兎耳のミミタマ族の魔人を急遽採用する。

 黒髪の魔人は、どこからか発酵バターとグラニュー糖を届けてくれた。



 サチカは、じゅわりと鉄板に生地を落として、クレープを黄金色に焼き上げる。



「はい、バターシュガークレープ、お待たせしました!」



 優しい風が木々を撫で、白い木漏れ日がレースのように揺れている。

 甘い香りと、お客様達の満足のため息。


 異世界迷宮のクレープ屋さんは、始まったばかり。

 当然不安はあるけど、どこであってもクレープは同じく美味しいのだから、うまくやっていける気ようながした。





第一層の登場人物紹介を明日投稿します。

次章は少し書き溜めてから再開予定です。

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