第一章 第五話 過去と目覚め
結構シリアス入ります。
第一章
第五話
また同じ夢を見ている。
いや、正確には過去に体験していることをまた体験しているような感じだ。
夢であると認識しているはずなのに覚めない。夢であると自分自身に言い聞かせているのに目の前の光景が、もう嗅ぎたくもない肉や髪の焼ける匂いが、もううんざりとする程に聞いた悲鳴が、何より僕の脳みそがこれは現実だと訴えてくる。
この先の光景もこの先に起こることも、ましてや僕や弟達、そして母さんの言う言葉ひとつとっても僕は知っているのに行動ひとつ変えられない。
いつものように僕は泣きながら誰にも聞き届くことの無い、言葉にならない助けを叫んでいる。僕の隣にはさっきまで僕と一緒に食べ物を探していた弟達がバラバラになり血溜まりを作っている。目から光は消え失せて、千切れた体からはまだ生暖かい血液が垂れ出ている。目の前では母さんが逃げろと叫んでいるが、次の瞬間には肉塊へと変貌する。僕はただただその光景を見ている。
何をする訳でもなく、いや、何もすることが出来ずに僕の宝物が、僕が父の代わりに守ると決めた大切な人達がバラバラになっていく。
だが、サイレンがなると同時にその殺人器はまるで何事もなかったかのようにマザーシップのもとへと帰っていく。
僕の手元にはバラバラとなった弟達と肉塊と化してしまった母親。全てを喪ってしまった喪失感や、何も出来なかった激しい自己嫌悪、さっき家族と共に死ぬ事が出来なかった後悔といったぐちゃぐちゃになってしまったものしかもう残っていない。
僕は穴を掘る。何もかもを埋めてしまおうと穴を掘る。そしていつも僕の手からは血と土の混ざった匂いを微かに感じる。
そんな夢。
夢?いや、これは過去に起こった事実。
帰ることの出来ない現実。
多分僕は永遠にこの夢を見続ける。僕は僕を許していない。あの場所にいながら何もせず、なんならあの時に死ねなかった僕を許せるはずがない。あの場所で家族と死ねたらどれだけ幸せだっただろう。でも、僕は死ねていないし、生きてしまっている。生きてしまっているのなら、生きるしかない。そうやって死に場所を求め生きている。それでも生来の生存本能なのか死にたくないとも思ってしまっている。だからあの時も逃げて…
ザッザザザーー
あれ、あれから…どう…したん…だっ……
周りから音が聞こえる騒がしい…こんなに賑やかなのはいつ以来だろう。街のみんなはいつも死んだ目をしていた。そうだ弟達の誕生日の日。あの時は賑やかで楽しかった。母さんも笑っていて。いや、今はいいか。
ゆっくりと目を開ける。眩しい。いつもどんよりとした雲に覆われていた空の筈、ここはいつもより遥かに明るい。明るすぎるこんな光量を使ったらすぐに気づかれてしまうはずなのに。意識が鮮明になっていく…そしてぼんやりと光に慣れてくると周りの輪郭がわかってくる…
見渡すと金色の髪をした人と茶髪の人そして青色の髪をした女の人達。ん…なんでこんな髪の色が…?それよりももっと驚くべきなのは金色の髪の人は狐の尻尾が九本生えてるし同じような尻尾が一本茶髪の人からも生えている。それに青色の髪の人の額からは角のようなものが二本生えている。あたりは見たことも無い光景だし…。
うん、これはまだ夢だ。
そう決めつけて再び意識を手放すまでにそれほどの時間は必要としなかった…
これからは基本主人公(男)主観で物語が進んでいきます。