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神託など戯言です ~大聖女は人より自分を救いたい~  作者: 福留しゅん
私は聖女にならないと決めました
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私は家族と朝食を取ります

「おはようございます、お姉様! お目覚めになられたのですね!」

「おはようございます、セラフィナ」


 めでたく聖女にならなかった私は清々しい気持ちで食堂に向かいました。その途中でセラフィナと鉢合わせしました。妹は太陽に照らされた花のような笑顔を私に見せてくれ、元気良く朝の挨拶を送ってくれました。私も軽く頭を下げて挨拶を述べます。


 セラフィナは姉の私を慕っていました。聖女になりたくなくて心を閉ざしていたにも拘わらず。セラフィナは恐れや疑いを知らない純粋さがありました。物事を良い方良い方へと捉えるのでいつも前向きでひた向き。だからこそお父様を始め皆から愛されていました。


 そんなセラフィナに私が嫉妬、ですか。そんな気は微塵も起きませんね。

 むしろ聖女にならねばいけないとの不安が取り除かれた今、私はそんな妹の心に応えたいと思います。おそらくセラフィナが聖女となる運命は変えられないでしょう。その際にささやかながら手助け出来ればなお良いのですが。


「もしかして聖女様に目覚めさせていただいたんですか?」

「いえ、今朝ふと目が覚めました。三日も寝たきりだったのでお腹が空いたのかもしれません」

「それでお姉様、聖女適性検査の結果は?」

「どうやら私は聖女にならずに済んだようです」


 事も無さ気に事実を述べた私にセラフィナは驚いたように目を丸くして声を上げてきました。まさかセラフィナったら私が聖女になるだなんて根拠のない確信でも抱いていたのでしょうか? 妹にとって私はそんな徳の高い人物なのでしょうか?


「……残念です。お姉様だったら素敵な聖女になれましたのに」

「ふふっ、皆から愛されるセラフィナの方こそ立派な聖女になるかもしれませんね」

「そんな! わたしなんかがなれるわけありません。恐れ多いって言うか……」

「適性があれば教養も出自も関係ありませんよ。行儀や作法は先輩方から学べばいいのです」


 勿論貴族として生を受けたセラフィナは教養も出自も十分なのですがね。ただ聖女とは如何に神の、人の、そして教会の奴隷となって献身するかになりますから、果たしてそうした現実にセラフィナが立ち向かって……いえ、そんな彼女を支える相手を探すのが乙女ゲーでしたね。


「折角の料理が冷めてしまいます。早く行きましょうか」

「はい、お姉様!」


 行き交う使用人に挨拶を送ると皆さん驚いた顔をさせてきました。そう言えばこれまでは自分の事ばかりで返事を返すのが精一杯でしたっけ。私にまとわりつく妹もただ煩わしいとしか思えなかったものです。やはり運命を強要なんてまっぴらごめんです。

 食堂には既にお父様とお母様、それに弟が座していました。起きた私に安堵するのか喜ぶのか、それとも聖女の適性が無かった私に失望するのか。果たして反応は……と色々と想像していましたが、どうやらその全部を入り混じらせているようで複雑な顔をしていました。


「おはようございます、お父様、お母様。ご心配をおかけしました」

「うむ、目覚めたようで何よりだ」

「キアラの分の朝食も用意しています。さ、早く座りなさい」

「はい、お母様」


 私達はお母様に促されて自分の席に着きました。そして家族全員で神に食前の祈りを捧げます。本当は私に過酷な運命を課す神に祈りたくはないのですが、身に付いた習慣は中々離れないものですね。

 それから料理を口に運びましたが、この数日全く食べていなかったのもあってはしたなくも早食いをしてしまいまして。お父様から「そんなに急がなくても料理は逃げないよ」とやんわりと窘められました。少し恥ずかしいと感じました。


「キアラ。先程聖女様がいらっしゃって聖女適性試験の結果を拝聴した」

「はい」


 お父様が本題に切り出したのは食事が半分ほど終えた頃でしたか。


「聖女の適性はそれほど高くなかったそうだな」

「はい。検査用紙の反応も鈍く、私には才能が無かったかと」

「残念な結果ではあるがそれだけで女の価値が決まるわけではない。これからも我が家に相応しい教養を身に付けていくんだぞ」

「はい、お父様」


 聖女になれないどころか平民にすら及ばなかった私に価値など無い、となじられると覚悟をしていましたが、思いのほか淡白な反応でした。肩透かしと言ってもいいでしょう。それ程私にはもうさほど期待しないとの判断の表れでしょうか? 失望がにじみ出てはいるようですが。

 とは言え平凡であれば家柄が物を言えます。この家の為になるような家の子息と婚約を結んで嫁いでいく未来が見えます。以前の私には考えもしなかった女性としての人生、きっと素晴らしいのでしょう。


「そう言えば、聖女様が奇妙な事を仰っていました」


 既に聖女とは無縁のこの先に想いを馳せていました私を現実に引き戻したのはお母様の言葉でした。はて、エレオノーラは特に私には何も言ってきませんでしたが。慈悲深さも聖女としての救済の一環でしょうし、私個人が彼女の興味を惹くとは思えませんね。


「うむ、確かに言っておったな。聖女になれないキアラに一体どう関係するのかは分からぬが」

「お母様、聖女様は一体どのようなお言葉を?」

「ありのままに伝えてほしいと仰っていたのでそうします」


 お母様は一呼吸置いてから私に真剣な眼差しを送ってきました。


「『神は言っています。ここで終わる定めではない』、と」


 ――。

 絶句、眩暈。


 私を正気に戻したのは自分の手からナイフとフォークが離れて皿の上に転がり落ちた音でした。慌てて私は行儀の悪さをお詫びしました。ですが私のただならぬ反応にお父様もお母様も疑問に思ったようでして、疑問を浮かべました。


「キアラ、どうかしましたか?」

「なん、でもありません……」

「お姉様、顔が蒼いです……」

「きっと私が少し他のご令嬢方とは違った数奇な人生を歩むのだろうと仰りたかったのでしょう。私は安穏とした日々を送りたかったのですが」


 早口をまくし立てて何とか動揺を抑えます。それはまるで自分に言い聞かせているようで、みっともないとも感じてしまいますね。セラフィナ達が心配そうに私を見つめてきましたが、ごまかす私にそれ以上は何も言いませんでした。


 ここで終わる定めではない、ですって? 神よ、他の聖女に天啓を与えてまで私に使命を全うせよと仰るのですか? もはや救済に向けての試練では片付きません。あまりにも残酷な仕打ちですから貴方様への信仰心すら失ってしまいそうです。


「その、だな……。セラフィナの聖女適性試験は一年後だったな?」

「はい、お父様」

「もはや聖女へ至る道は才能ではなく神による選定に等しい。私達はセラフィナの結果がどうであれ受け入れるつもりだ。何ら心配する必要は無いぞ」

「ありがとうございます、お父様」


 お父様は重苦しくなった空気を振り払うように話題を切り替えました。そんな配慮に便乗するようにお母様も弟も話に乗り、再び食卓に花が咲きます。私も不安を振り払うために遠慮なく乗らせていただきましょう。


 ですがお父様。私は知ってしまったのです。セラフィナが稀代の聖女となれる程の高い適性を持つと分かってからは以前にも輪をかけて妹を愛するのだと。そしてもはや平凡な私には見向きもしなくなってしまうと。

 悪役令嬢キアラはそれを屈辱と捉え、私はやむなしと考えます。それは差別ではなく区別。聖女の威光に目がくらんでしまっても仕方がありませんから。ですので今のお言葉に私は口だけなら何とでも言える、と冷淡な感想を浮かべました。


「お姉様、わたしは頑張ります!」


 そんな汚らしい思考を巡らせた私にセラフィナは笑顔を見せてくれました。何を頑張るのかと問い詰めたい所ですが、先が分かってしまっていて申し訳ありませんとの思いも生じます。


 ……上手く妹の結果もごまかせないものか。

 私はそう思うようになっていきました。

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