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私はまた晩餐会に出る破目になりました

 今日一日は本当に長かったです。日の出と共に防衛戦が始まり、後方で待機するだけかと思ったらまさかの敵襲を受け、それも私達と同じく神より奇蹟を授けられた寵姫達で、後退を余儀なくされた、と。相手が退いてからも怪我人を治して回り……くたくたです。


 なので今日は腹ごしらえを終えたら明日に備えて寝よう、と思った時期も私にはありました。王宮内の客室に戻ろうとしたら宮廷使用人が待ち受けており、なんと聖国国王が晩餐に招待していると言ってきたのです。


「いいわ、参加すると伝えて頂戴」

「リッカドンナ様、ですが……」

「聖国の要人達と対立するのは得策じゃないわ。もう少し気力を振り絞って付き合ってあげましょう」


 リッカドンナは神官達の不満を黙らせて参加の旨を伝えました。これもまた聖女が教会圏で滞りなく活動出来るようにするための政治的立ち回りというものなのでしょう。目先の人を救うことばかり考えていたかつての私とは雲泥の差です。


 晩餐、と言われてやってきた先で開かれていたのは夜会でした。それこそ聖国に派遣されたリッカドンナを歓迎した先日と同規模の。変化があるとすればアウローラと蛮族討伐とやらに向かった軍の将校、そして今日寵姫に打ち取られた軍人が不在なぐらいですか。


 しかし、平時だった前回と違い今は侵攻を受けている真っ最中。呑気な宴に私は呆れて物が言えず、リッカドンナは明らかに憤っている様子でした。聖女に随伴する神官や騎士達も不快感を露わにしています。


「聖女様! 今日のご活躍は聞きましたぞ!」


 聖国国王は相変わらず眺めるこちらの目が疲れそうなぐらい豪奢な服装と装飾を身に付けていました。リッカドンナの姿を目撃すると真っ先に歩み寄って来ましたが、たったそれだけ急いでもう息が上がっていました。


「いやはや、まさかあの蛮族共が聖女様の奇蹟を打ち破ってくるとは信じられませんが、貴女様の奇蹟に恐れをなして退却したのでしょうな」

「お世辞は要りません。それより陛下、どうして本国に寵姫について知らせてこなかったのですか?」


 ……前言撤回します。今のリッカドンナは教会や聖女の営業よりも聖女としての使命が勝っているようです。場の空気など知ったことかとばかりに聖国の君主を責め立てました。他愛ない交流で盛り上がり心地よく音楽が奏でられていた宴が静まり返ります。


「寵姫? はて、何のことやら」

「とぼけないで下さい。遠征軍が聖地を奪還してからもう結構年が経つから周辺諸国の内情はある程度把握出来ていたんですよね? 寵姫、あたし達聖女と同じように神から奇蹟を授かった者がいるって報告してこなかったのは何故ですか?」

「ああ、あの恐れ多くも神を騙る魔女共ですか。聖女様のお耳に入れるまでもない詐欺師の類ですな。立ち塞がろうと神にアダを成す異端者として処理すれば良いだけかと」

「その神の敵を払う奇蹟を授かった寵姫が現れました。アウローラ様の聖域の奇蹟もソイツに破壊され、防衛線を内側に下げざるを得なくなっています」


 些事だと言わんばかりの聖国国王にリッカドンナは容赦ない現実を突き付けました。聖女の発言に会場内はどよめきます。大方この催しは敵軍が退いた祝いも兼ねているんでしょうけど、思った以上に事態は深刻になっているのですよ。


「陛下が教会に包み隠さず報告していれば今頃あたしではなく寵姫に対抗出来る聖女が派遣されていましたのに」

「な、何を仰るのですか! 現に敵軍は一旦軍を退いたではありませんか! 変に皆の不安を掻き立てるのは止めていただきたい」

「それは多大な犠牲を払いつつも寵姫を弱らせたからです。明日また万全な状態で攻めて来られれば、聖域の奇蹟はまた壊されるでしょう」

「そんな筈はありませんな! 聖域の聖女様には長きにわたりこの聖地を守護していただいていますが、その間一度たりとも突破されたことなどありませんぞ」

「だから聖女と同等の存在である寵姫を派遣してきたんでしょうね。もう寵姫達はあたしはおろかアウローラ様にも止められません」

「何と弱気な! 魔女共など所詮小娘に過ぎません。数で押し切ればそのうち磨り潰せましょう!」


 国王は自信満々に述べた対抗策の意味が分かっているんでしょうか? リッカドンナが聖女と寵姫は同等だと述べた矢先の発言は、即ち聖女だろうと所詮は数の暴力で処理出来るのだとも受け取れます。


 騎士達も憤った様子でしたが、お守りする聖女が黙って聞いている手前、何とか抑え留まっているのが傍目からも分かります。当のリッカドンナは段々と聖国国王への失望を隠さなくなっていますがね。


「それで、国王陛下は今回攻めてきた寵姫を相手にどれだけ犠牲を払えと仰るんですか? 今日を超えるだけで決して少なくない尊い命が失われましたのに」

「勿論、神の敵を滅ぼすまでですな」

「寵姫が襲来する度に人的資源を浪費していくと?」

「聖地の守護という偉大なる目的のためなら致し方ありませんな」


 会場内はまるでリッカドンナが不必要に大げさにしていると言わんばかりの雰囲気でした。正義が自分達にあるのだから勝利を疑わない、とばかりに。前線に出ておらず寵姫の脅威を直に感じていないのですから仕方がないとも言えるのですが……。


「陛下。あたしは聖女に任命された者としてこのまま黙って破滅を迎えさせるわけにはいきません。この地には罪無き人々が住み、祖国を離れて派遣された兵士達も駐留していますから」

「であるからこそ皆が一丸となってあの蛮族共を駆逐せねばなりませんぞ」

「もはや聖国側にそんな武力は残されていません。本土に増援を望む猶予は残されていないんですよ。言ってる意味分かりますよね?」

「つまり、聖女様はこう仰りたいのですね?」


 ――聖地の陥落は時間の問題である。


 これが遠征軍の将軍であれば国王や貴族達は一笑に付したかもしれません。しかし教会の権威の象徴とも言える聖女からの発言は無視できる代物ではありません。不安が広がり始めたのを聖国国王が鎮めます。


「今から全土に避難を呼び掛けても船は用意出来ないんですよね? 降伏の際に交渉の席を設ければ本土への帰還は許されるかもしれません。ご検討を」

「馬鹿馬鹿しい。例えあの化け物共がここまで攻めてこようと私達は最後の一人まで聖地を死守するために戦う覚悟が出来ている」

「全員が全員大義に生きてるわけじゃないんですよ! 陛下の自己満足にあたし達を巻き込まないでもらいたいですね」

「ほう、では聖女様は残念ながら聖地よりも命の方が惜しいと」

「その通りですが語弊がありますね。聖地の優先順位はそこまで高くないだけです」


 リッカドンナは真剣に迫りくる危険を伝えますが、国王は大事には捉えず呆れた様子でため息を漏らしました。国王の様子に感化されたのか他の貴族達も概ね落ち着きを取り戻し始めています。正常性バイアス、とかつてのわたしだったら表現したでしょう。


「……どうやら聖女様は戦場の気にあてられて疲れているようですな。無理に出席を頼んだ私共の落ち度だったようで謝罪します」

「そう、それが聖国の総意だと受け止めてよろしいんですね」

「結構。話は終わりですかな? では戦いに勝利した祝いの席を設けましたのでごゆっくりとお楽しみください」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 聖国国王が踵を返すと宴は再開されました。リッカドンナは離れていく国王にはもはや目もくれず、テーブルに並べられた食事を黙々と口にし始めます。暴飲暴食とまで形容出来る程に凄まじい勢いですね。


「リッカドンナ様! あんな無礼な真似をされてどうして黙っているんですか!?」

「これ以上アイツの説得に労力を割くのは無駄よ。それより折角ご馳走が用意されているだもの、お腹いっぱいに食べましょう」

「ですが……!」

「いいから食べなさい。命令よ」


 リッカドンナの指示で神官や騎士達は渋々食事を取り始めます。私も朝から気を張り詰めていたせいでお腹ペコペコですよ。気が付けばマナーなんて気にもせずに多彩な料理を食べ漁っていました。


 その後何人かがリッカドンナに挨拶しに来ましたが、彼女の応対は全く取り繕わないおざなりなものでした。過半数以上はなんて無礼なと怒りましたが、何名かは先ほどのやり取りに思うところがあったようで、聖女の忠告を深刻に受け止めているようでした。


「やっぱり、アウローラ様に戻ってもらわないと駄目なようね」

「いえ、あの方が戻られてもマジーダに対抗出来るとは……」

「あの方をあんな危険な奴と直に戦わせられないわよ! もう聖国は終わったも同然だけど、アウローラ様を道連れには出来ないわ」


 アウローラを帰還させる。

 ここに来てリッカドンナの方針は私の企みと合致することとなったのでした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 獣人達は、昔キアラ達の神の使いという、名称が歴史に残っているかな? [一言] 聖国の国王は、現実を見ない愚か者。
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