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神託など戯言です ~大聖女は人より自分を救いたい~  作者: 福留しゅん
私は聖女にならないと決めました
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私は生まれ変わりました

新連載始めました。

 神は言っていました。全てを救え、と。


 私は幼少の頃に授かった神託と奇蹟に従って苦しむ人達を救ってまいりました。病気で苦しむ人を癒し、怪我を負った人を治し、罪を犯した人を許す日々を送っていました。いつしか人々は私を聖女と呼ぶようになりました。


 私の名声が高まるにつれて善意の奉仕は権威を帯びていくようになりました。利権と申しましょうか。聖女と呼ばれる私を利用して神の教えを広める教会の影響力が増していきました。いつしか私の奉仕には莫大な金品が伴うようになっていったのです。


 それでも私は人の善性を信じ、ひたすら人を救っていったのです。自分の背後に取り巻くおぞましい人の欲望から目を背け続けて。

 それでも神は引き続き私に語りかけます、私には使命があると。思えば私は崇拝ではなく狂信していたのでしょう。神より声を授けられる私は選ばれし者だと。私には人々を救わなければいけないんだと。他ならぬ神の代理人として。

 純粋な救済から程遠くなっていくのに対して私の奇蹟は更に磨かれていきました。医者も目を背ける重病となった患者を次の日には運動出来るほどに、兵士が手や足を失っても元通りにするほどに。人々はますます私を崇め敬い、そして影ながら恐れていきました。


 そして私はとうとう人が担うべきではない奇蹟まで手にしてしまったのです。

 そう、死者の蘇生という神の御業に。


 神の定めし寿命をも覆した私に人々は目の色を変えました。そして神の教えに、実際には経典に具体的に記されているわけではございませんが、背いた私は次第に神の使徒ではなく悪魔の使者ではないかと言われるようになっていきました。


 私が聖女から魔女に転落するまでにはそう多くの日数はかかりませんでした。


 異端審問官でしたっけ? まさか私が身を以て拷問を体験するとは思いませんでしたね。私は神の啓示だと信じて疑っていませんでしたが、それは悪魔の囁きだろうと決めつけられました。身体中を痛めつけられましたし、尊厳も奪われましたし、散々に罵られましたよ。


 そうして大勢から汚らわしい魔女と銘打たれた私は投げられる石や汚物を一身に浴びながら、最後は処刑されました。終末にて蘇る為に必要な遺骸すら残されない火刑に処されて。聞いた話では残された灰も土に埋めずに川に流すんですって。


 神の忠実なる僕として生きてきた私は神に救いを求めました。私は人々に手を差し伸べてきたのに神は私に手を差し伸べないのですか、と懇願しました。常に縋られる立場だった私はこの時初めて神に縋ったんだと思います。


 神は言いました。全てを許せ、と。


 それで私は悟ってしまいました。

 私は神の代理人ではなかった。救世者でもなかった。神の定めを成す為に生を受け、成し終えた時に死んでいくだけの奴隷。神は私を愛してなどいなかった。そんな私が神の救いだの愛などとはおこがましい。


 どうして私を見捨てるのか、なんて怒りも悲しみもありません。これで神の下に召される、なんて安らぎなんてありやしません。これが人々に尽くした私への仕打ちか、なんて怨みすら抱くわけがありません。


 私に湧き上がった感情は空しさ。

 神の僕として振舞っていた愚かな私への後悔。

 不都合が生じれば容赦なく捨てる無慈悲な人々への失望。


 嗚呼、神様なんて信じなければ良かった――。

 それが私が最後に抱いた思いでした。


 ……そう、最後だった筈なんです。

 けれど最後ではなかった。そう、私には次があったんです。


 ■■■


 最初は驚くしかありませんでした。燃え盛る火の中で絶望していたのに次に目を覚ましたら温かい毛布にくるまれていたんですから。そして私ははるか遠い日の幼少期を思い起こさせるような愛を授かったのです。


 生まれ変わった、と理解するには大分時間を要しました。


 物心が付いた、と周りが判断するぐらいまで成長した私はようやく今の自分の境遇を理解しました。元々過ごしていた時代からかなり過ぎている事。国こそ違うものの相変わらず教会を頂点とする教国連合に属している事。そして私がさる貴族の家に生まれた事。


 ――そして、聖女なる存在の事。


 そう、聖女! あの忌々しい役目が未だ存在していたのです。更には一時代に必ず一人が就く教皇のように扱われているんだとか。教会の権威すら平伏するとまで語られ、女教皇とまで呼ばれる事もあるそうです。

 聞いたところその使命は概ね変わらないようです。苦しむ人々を癒し、悩みを解き、罪を許す。神の奇蹟、そして教会の偉大さを知らしめる日々を送る哀れな道具。神は絶対だって信じて日々務めているんでしょうと冷めた感想を抱きましたが、捨て置けない事実がありました。


 教国連合に属する女性の市民は例外なくある一定まで成長したら聖女の適性を受ける、というもの。なんと聖女には至らずとも神より奇蹟を授けられた者は神の使徒としての務めを果たさなければならないんだそうです。


 私は絶望しました。折角新たな生を受けたというのにまた運命の奴隷とならなければいけないのか、と。不幸な事に私は神から奇蹟を授けられたらしく、癒しの力が使えました。練習すればきっと前のような救いも与えられるとの確信もありましたから。


 更に、適性審査の日が近づくにつれ、段々と聞こえてくるのです。初めは幻聴かと思いました。はっきりと耳にするにつれて信じたくないとの思いに支配されました。けれど神はいつだって私の都合など考えてはくれないんです。


 神はまた言っていました。全てを救え、と。


 私はその場で卒倒しました。後から聞いたら三日三晩意識が戻らなかったんだそうです。どうせならそのまま永眠してしまえば良かったのにと怨みましたが、下手に頑丈だった自分に批難を向けるしかありませんね。


 ……夢を見ました。昔の私が過ごした都市とも今の私が過ごす町とも違う、木も草も無い建造物だらけの世界。

 見た事も無いぐらい大勢の人が行き交っていました。鉄の乗り物が凄い速度で駆け抜けていきました。一体どんな仕組みなのか分からない道具が一杯ありました。私が聞いた事も無い言語で喋っていました。

 意味不明だらけの世界。けれど私にはどうしてか全てが理解出来ました。そこは神の権威が死んだ世界。人の叡智が神の奇蹟を凌駕した時代。文明と言う新たな力を手にした人々は神を恐れずに発展を遂げていたのです。

 その世界での私は女子大生……正確には大学院生でした。世の中の役に立つかも分かっていない最先端の研究に没頭して、その合間に様々な創作物を読み漁りました。青春を謳歌する話だったり宇宙を旅する話だったり、いかに私の知る世界が狭いんだと思い知らされました。


 それから驚いてしまいましたが、なんとその中にあったのです。

 今の私が今後送る様子を記した書物、げーむというものが。


 乙女げーむでは私は主人公である妹共々聖女の適性持ちなのですが、その差は圧倒的なんだそうです。妹は神に祝福されし御子などと持て囃され、皆から一身に愛を受けて育つんだそうです。そんな才能に嫉妬した私は妹に陰湿な嫌がらせをしてしまうのですって。

 まあ、結局そうした悪意が最終的に私に破滅をもたらすんだそうですけど。悪役令嬢が犯した罪に相応しい罰を与えられて。妹は最終的に女教皇となって更に生涯の伴侶と結ばれて幸せに過ごしましたとさ。


 ええ、吐き気がしますね。

 だって現世でも私は酷い目に遭うんですもの。

 神はきっと私が苦しむ様を御覧になって興奮なさっているんでしょう。


 目が覚めると私は寝具の中で包まっていました。起きたくなくて毛布を頭から被りました。けれど夢の世界には逃げられませんでした。仮病を使ったっていつかは必ず適性は確認しなければならないでしょう。

 いっそ神の教えでは禁忌とされる自殺をしたらどうか。そう真剣に考えた時でした。


「神様は言いました。全てを救えと。なら最初は自分を救っちゃいましょう」


 私ではないわたしが語りかけてきたのは。

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