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部活探し編・ラストインパクト

「どわああ!!」


結局生きたまま頭から投げ飛ばされた。

激しく後頭部と背骨を打ち付けたが、痛みよりも

徐々に囲まれて注目されていることに気付き、恥ずかしさが勝った。


「こ、これはこれは皆さまお揃いで...お日柄も宜しく......

 ははは、そのぉ~......」


気まずさが場を支配し、汗が全身から噴き出して顔が熱くなり

頭が痒くなってくる。

当然立場は不法侵入に続く不審者なのだから居心地の悪さはピカイチだ


「し、失礼しましたァ!」


雑に大魚でも拾い上げるように花山を脇に抱えて、

出口の扉に激突した。

鍵がかかっていたことをすっかり忘れて、

一度転がった花山をその場に残して帰るところだった。


もう一度花山を回収に急いで戻った時も

部員たちは急展開の連続に硬直しているようだったが、

吉沢さんは彼らに任せることにした。


そうして、翌日から俺たちが拳法部に近付くことはなかった。



「かくして俺達の冒険の旅は終わった......部活探し編・完ッ!!」


「それで私の部活はどうなるんだ?」


「お前は立派な帰宅部じゃないか」


「それもそうだな」


こんな一言二言で片付くことを自分たちは

一学期終わり近くまでやっていたのであった。

夏休みはもうすぐになってしまった


「なぁんか重要なことを忘れてる気がするんだよなぁ」


「私のことだろ、きっと」


「とりあえずそれは絶対に無いんだけど......なんだったけなぁ」


「おい!」


いつも通りの花山の大声がよく響く。

今日も教室は静かだ。

皆が最近はどうやら一生懸命に顔を突き合わせて

勉強なんかをしている。


「にしても皆真面目なもんだよな」


「確かに。 私やハルのようにもっと快活さが必要だな」


「そこはお前ほどじゃないと謙遜しとくよ」


「えへへ」


何の嫌味や皮肉も効かなそうな女の笑みが

今日に凍り付くことになるとは今この時、誰も予想できなかっただろう。

かく言う自分も泣きっ面になるのだが


ガラガラと教室の黒板側のドアが開く。

久しぶりのご出演の担任の先生だ。


「はいはい、え~...皆さんお静かに。 席について~」


クラス中が着席したり教科書をしまう音で溢れる。

花山は仕方なく少し離れた席へと移動。

こうして学級委員長の角田さんをじっくり見ることができる


席替えをしてからというもの

物理的距離の縮まりを機に、心の距離も近付けるようにと

様々なアプローチを掛けようとしていた。


しかし彼女の威光の前には全てが未遂に終わり、

ただ観察するのみに終わる毎日だった。


そんなある時、自分は気付いてしまった。


こうして眺めるだけの存在として認識するのもありなのではないかと。

あの人との距離はこれが一番いいのではないかと思えてきてしまった。

傍観の傍、つまり傍らにいることは出来ず、

諦めにも近い新たな関係性の模索は儚い。


だとしても、彼女は凛として現に美しい。

聡明の擬人化といってもいい


下らない企みや恋心も吹き飛ばすような清楚の化身、

彼女をたった机三つ分は程離れた距離で見られる自分は幸せ者だと

感じられるようになった。


様々な国の混血でロリロリしくて見た目が可愛いだけの

混じりっケのある女とは大違いの堂々たる純粋の美が近くにある。

それだけで、自分は十分満たされている


「ええ~、明日は学期末テストですが皆さん頑張ってください。では」




「......え?」


浮かれる自分を先生の帰りの会の締めくくりの最後の言葉が切り裂いた


嘘でしょ?

嘘だろ?


ごめんなさい、神様。

ワタクシ十分じゃ、ありません。満たされてません

部活探し騒動で一切、勉強してません


「時間をくださいいいいい!!」



悲痛な叫びが放課後の喧噪に消える。


現実な責め苦の前では純粋な憧れもどうでもよくなるのだ。


涙に埋もれた男と、席に座ったまま凍り付いた女の二人は

教室に哀愁漂う夕陽が差すまで残っていた。

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