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部活探し編・21

わなわなと震える腕では

上半身を上げようとすることもままならない。

それでも途切れかけた意識の糸だけは切らさなかった


「また自慢になっちゃうんだけどさ、ナツね?

 男の取り合いで負けたことがないの!」


たった一瞬でいい。

この残り少ない気力をつぎ込んで、

一回だけでいい。

この気合が一連の動作の動力になってくれさえすれば。

薫はそう歯を食いしばった


しかし、ここで相手から聞こえてきたのは深い溜め息だった。



「でもなぁ、そもそも勝負になってなかったかも」


「......?」


地に伏すも燃える闘争心の前で

急に天敵は冷めたように呟いた。

聞き逃すまいと荒い呼吸を止める


周りで鳴るものは奥で聞こえる子供の騒ぎ声のようなもののみ。


「ナツってさあ、ほら?

 自分で言うのも恥ずかしいけど......」


屈むような服がすれる音、

目だけを上に向けると道着の中の忌々しい谷間が見える。

そして顔には嫌らしい笑みを浮かべ、胸部を指差す


「ここがアナタとは段違いだから。

 彼もずっと見てたよ? どことは言わないけど」


語尾に星でも付いてるようなウインクまでされ、

知りたくなかった真実までもが告げられた。

その時、薫の決定的な何かが切れた。


意識の糸ではない。

ぶちギレたのは、そんな生易しいものではない。


堪忍袋の緒が、心の底から噴き上げるマグマのような怒りで焼き切れた


「ウゥゥ!!」


短く唸る。

憤怒は叫びに変わりかけた。

しかし、それは肉体のスイッチであり、

全てを一瞬に賭けるという号令でしかない

絶叫に割けるほどに体力は残っていない。


鷲掴む。

相手の道着でも、憎たらしい胸部の肉塊にでもない。

床のマットに穴を開けるくらいに爪を突き立てる。

立つ必要まではないが、両足の平を地に付けなければならない。


引き寄せる。

神経が途切れたようなだらしない両足の筋肉が起動する。

両ひざを抱え込むように懐にセットできた


力む。

全身全霊全力解放、準備は整った。


解放する。 打ち放つのみ


「なっ!?」


虚を突かれた声を上げるには遅かった。

具体的には顎を引くのが吉沢は遅すぎた


上に突き上げるように向かう力は特に強靭である。

それを見ていたと言うのに、

間抜けなコンビが見せていたじゃれ合いにヒントがあったというのに。

完全に油断しきった、

そこで後悔と一撃が彼女を襲う


バク転をしながらの蹴り上げ、サマーサルトキック。

薫が思い出したのは何度も見た、お前にも家族がいるだろう、のセリフ。

それは勝利した者のみが見る台詞だが、

勝利を諦めなかった彼女にこそふさわしい技であった。


体格、言うなればスタイルで大負けしていた薫だが

この時足の短さが功を奏した。

丁度その場で回転して相手の急所に当たる絶妙の丈だった。

短いためにより力が加わりやすかった。


この決闘もまた一撃の内に終わった。


そんなことも露知らず、勝者は白目で恨み言が如く言い残した



「浮気者......許すまじ」


彼女を奮い立たせた怒りは、

正確には男に向けたものだったのである。


戦いは両者の気絶によって幕を閉じ、

壮絶にして一瞬の幕引きに周りは静まり返った。


ここでやってくるには遅すぎて、


ヒーローになり損ねたあの男が放り込まれるのであった。

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