部活探し編・19
裏手の細道から侵入し、
リトルとミドルと自分はしゃがんで下窓から。
ビッグは体格の都合上、立って上窓から密かに観戦することとなった。
「お前たちの大事なお嬢様ってあんなに逞しく動けたんだな......」
「初めて、見た」
目の前で広がる光景は軽やかに動き回って翻弄する花山と、
巧みに受け流す吉沢さん。
身体と身体が鋭く打ち合う音、
音を出させているのは花山の方だった。
攻勢は今、体格では不利な花山だということだ
「見ろよ、あれ!
アイツ小柄でジャンプ力あるから
派手なアクション出来ると思ってたんだよなぁ」
「そんなはしたないこと普通しないし、させない」
戦いに興奮するのはどうやら男だけのようで、
室内の観客たちで騒いでいるのは男ばかりだ。
何故かきっちり正座をしているのがシュールである
メイドを含めた女性陣は冷静に試合を見つめている。
そしてリトルメイドは厳しい解析結果を口にした
「まずい、このままだとお嬢は負ける」
「え......」
しかしそれは素人目からは信じられないようなことだった。
「そうかなぁ?
未だに花山の攻撃はノンストップだし、
吉沢さんなんか段々動きが小さくなってるぞ?」
そんな呑気なコメントに小メイドは深い溜め息をついた。
酷く詰られる気がする
「よく見ろ、おバカ。
お嬢の今の攻勢はラストスパート、
優勢だからじゃない。
もう限界は近い。それに相手の女の動きが小さいのは......」
そこで言い淀んで悔しそうに
小メイドは下唇を噛んでから続けた。
「既に奴はお嬢の動きと力加減を見切って、
最小限の対応でいなしているから。
このままでは形勢逆転、からの一方的試合。
本当の優勢は......アイツだ」
小メイドの苦悶の表情と衝撃の分析に呆気に取られていると、
中からはざわめきが聞こえてきた。
見ると、腹を押さえて花山が四つん這いになっている
「な、なんだ!?
常人には見えない腹打ちカウンターでも喰らったのか!?」
「違う。
あれはきっと......」
「くっ......
どうなってしまったのだ、私の...カラダ......!」
「ただの体力切れじゃないの~?」
その余裕たっぷりの声は薫の頭のすぐ上で聞こえた。
あれだけ攻撃に攻撃を重ねた、
容赦ない連撃を受け続けた女は強がりでも
瘦せ我慢でもなく平然と呼吸も乱さず、見下ろしていた。
「ああ、なるほどね~
ちゃ~んと日常的に運動しないと~
彼に捨てられちゃうぞー?」
「なっ! く、くぅぅ!!」
反論も反撃も出来ずに
薫の身体は、横っ腹は激痛が走り
呼吸をするたびに傷が疼くようだった。
「さあ、早く立ってよ。 今度はナツの番なんだからさ」
首を上げるのも億劫になると、
相手の足元が見える。
薫は強い屈辱を感じた
文字通り、目と鼻の先の足を引っ掴んで転ばせてやることも出来ない
足元にも及ばない状況が出来上がっているのである。
愛する者のためではなく、自身の尊厳のためにも
小柄な少女は気力を振り絞って震えながらも立ち上がる。
しかし、その不屈の闘志による
再起は、苛烈な報復の始まりを迎え入れることを意味した




