部活探し編・17
「来ーい! エリィィィ!!」
「Come onだとぉぉ!? 叩きつぶしてくれるわァ!!」
一方が真っ向勝負であれば
一方は、
「助けてェェェ!!」
「お~い! なぜ逃げるんだいィィ!?」
逃げ惑うだけの一方的な対決もある。
「くっ、くそ!
もう美咲は頼れないし、この前逃げれたのは
もし覗きがバレたら、という想定のもとの避難経路も準備していたからだ!
主にアイツが先導したから逃げれた......!
しかし、今はッ!」
孤立無援、
温室育ちでない男にはいつも通りである。
「あ、ああ...だ、ダメだ! 疲労が......!」
もたつく足では長距離走など不可能、
それに短距離派には辛すぎる持久戦。
勧誘に捕まるのは時間の問題だった
「逃げなくたっていいじゃないか~!」
声と重厚な足音がドンドン近付いて来る
「うう......ここまでか」
柱にもたれかかり、後は無抵抗のままに
パッツパツの競泳水着姿にされるのみ。
「さあ、行こうか」
筋肉隆々の男の背丈はそびえるように影を差すように見え、
治雄は身体から力が抜けて行くのを感じた。
しかし、背丈がニュッと伸びたように見えたのは錯覚ではなかった。
実際それ以上に大柄な人物が勧誘の鬼の背後に現れたからである
「ウッ」
そう小さく呻くと水泳部顧問は自分の方に倒れかけ、
咄嗟に目をつぶった後すぐに衝撃に襲われることはなかった。
何事かとゆっくり瞼を開くと、そこには......
「ビックメイド!?」
花山の使用人、メイド三人組・通称メイドリニティの内が一人
2m近くの体格が特徴の大メイドが、
1m90㎝ほどの大男を後ろから支えていた。
「た、助けにきてくれたのか......?」
急な展開に事態の把握が追い付かない中、
言葉で語ってくれない寡黙な大メイドは
ただ静かに首を横に振って遠く離れてしまった武道場を指した。
「えっと......とりあえず、行けと?」
またゆっくりと首を縦に振るのみであったが、
応えには十分であった。
彼女は大切なお嬢様を助けるのに、
俺の力も必要だから成り行き上助けてくれたようだ
「分かった、走って行くよ」
正直、倦怠感を乗せた肉体は重かったが
おっかないメイドの手前のらりくらりする訳にも行かず、
ジョギング程度のスピードで必死さを演出していると
結局勧誘の鬼と共に担がれる羽目になった
「その男を俺のそばに近寄らせるなァーッ!!」
「ヌンッ!!」
強力な回し蹴りが拳法部トップの腕に響いた。
その威力と身のこなしの軽さに目を見開く
「ハアァ!!」
続けざまに放たれる蹴りにも鋭さが落ちるどころか、
戦いの中で感覚やコツを掴み始めているのかのようだった。
見届け人である拳法部員達も開いた口が塞がらなかった。
これが恋する乙女の真のパワーなのか、と。
問答無用の試合が始まってからの数分、
何の誇張も無く薫は吉沢を防戦一方に追い込んでいた
「あ、あのおチビちゃん...!
いつまであんな猛攻をしているんだ!?
もう2、3分は経とうとしているぞ......!」
正式な拳法の試合でもおよそ制限時間は2・3分。
それを優に超えようとする時間まで、薫の攻勢は今も続いていた。
驚きを隠せない部員達は興奮したように叫ぶ
「そ、それに見ろッ!
身体の硬さと小さな体格を脚力で、
相手の上半身を跳び越すような跳躍力で補っているッ!!
技も素人とは思えん!」
技に関しては格闘ゲームの見様見真似でしかないのだが、
それを即興で可能としているのは持ち前の
薫の身体のバネの強靭さであった。
その特長を無論、吉沢も理解していた。
だが理解しているからと言って、
掴み技は反則。
どうこうできるものではなく、周りの歓声にも近い
解説に苛立ちを覚えることしかできない。
しかし、ただただやられている訳でも無いのが
自称天才スポーツマンの吉沢の強さの所以であった。
それをまだアドレナリンが噴出している薫は知らない。




