部活探し編・7
「ハルよ......重大なことに気付いてしまった」
「お前もか......」
机に広げられているのは学校の地図、
そしてプール、グラウンド、体育館、校舎にそれぞれ
大きなバツ印が付けられている。
ほぼ学校一帯が危険地帯となっているのである
「俺達は気付いていなかった!」
「学校とはこんなにも恐ろしい所だったとはッ!!」
部活を探すことによって自分達が魔境に通い続けていたことを
知ってしまった。
知らぬは仏だった、無知であれば良かったのだ......
「ハルの悪夢は現実となった......」
「いや、なっていたんだッ!
もう既にッ!!」
またバカップルが騒いでるよ、と周りは呆れムードだが、
こっちはお通夜ムードだ
「......よかった」
「え?」
ボソッと花山らしくない小さな声が聞こえた。
「...なければよかった」
「おい、お前...」
「こんなことなら、引きこもりを辞めて学校に来なければよかった!
今度こそ私は生徒をやめるぞッ! ハルゥゥゥ!」
「制服をここで脱ぐんじゃねえ!」
小競り合いが始まる
「はッなッせッ!」
「おいおい、落ち着けよ!
それにお前本気で言ってるのか?」
こちらの低い声色に花山の動きもぴたりと止まる。
シスターのように制服を被りながら
「俺達の原点を思い出そうぜ?
俺達は自由なんだ、どこにも無所属のフリーなんだよ。
確かに恐ろしさに包囲されてるが、生徒辞めるほどじゃあないだろ...
お前の半狂乱でこっちの目が覚めたわ」
しぶしぶ説得に応じて制服姿に戻させると
本来の目的を思い出させる
「そもそもお前が入りたいと思えるような部活があれば、
それに入ればいい。
そう思わなかったなら、今まで通りで良いじゃあないか
お前が視察すべき部活はあと一つだ。
そこを終えたらゆっくり判断すればいい」
「あと一つ......?」
「忘れたのか? 吉沢千夏さんが誘ってくれた、拳法部だ!
終着はそう、まだ俺達の限られた行動範囲でも行ける...」
ここだ!
そう地図を指差し、言いたかったのだが......
「...? どうしたのだ、ハルよ?」
「ふ、二つあるんだった......そうだ、道場は二つある!!」
バツ印を着けていないプールの側の建物と、
バツ印が付いた体育館を同時に指さした。
「ど、どういうことだ?
プールの近くのいかにもな建造物は分かるが、
体育館にはハルが怖がっているものしか......」
「お前は体育の時、室内より外で暴れたい性格で、
体育館で授業の際、毎回拗ねてるから分からなかったのだろうが
体育館には地下があるッ!」
花山の驚愕は近くの机に身体をぶつける派手な音で分かった。
驚くのも無理はない、
部活を使う者しか地下の空間については詳しくない。
自分も最近、地下に様々な部活用の倉庫があることを美咲に聞かされた。
そしてそこには部活ができるスペースもあると...
「では、そこなのか?
ちなとゥが在籍する部活は?」
「いや確証はない、故に......」
この時、既に教室内にはバカ騒ぎする我々しかいなかったのだが、
翌日にでも吉沢さんに聞けば済む話だったことを
冷静ではない自分達が拗らせたのはまさにこの時だった。
「俺達は二手に分かれて捜索しなければならないッ!!」
そもそも見学の付添人であることを忘れていたのである。
「な、なんだってェ!?」
それを何の不思議に思わない花山もまた間抜けであり、
バカップルの呼び声は現実のものとなっていることを
当人たちはまだ知らない。
「くっ......では、問おう。
どちらがどっちに行くのだ?
わ、私はできれば地下などの暗くて...ではなく、
ジメジメしたような所は嫌なのだが......」
「ん、暗いのが怖いの――」
「そんなことないもん!!」
返事も真意についてもそれで十分だった。
「よし、俺が地下にいく。
だが地上とは言え、お前も油断するなよ
あそこの近くは水泳部なる脅威があるからな」
「それはこっちのセリフだ、ハル...
ハルはまだ体育館で起きた私の知らない惨事での心の傷があるのではないか?」
「ふっ......」
「な、何が可笑しい?」
決め顔に、決めポーズで言ってやった。
怖い思いばかりしてきて、遂にテンションがおかしい
「恐怖は乗り越えるためにある。
敢えて立ち向かっていかなくてはならない...
アスパラガスを残さず苦い顔して食うみてェにな......」
最後の部分の苦手の食べ物についてが花山に伝わらず、
首を傾げられて恥ずかしかったが
すぐさま背を向けて仕切り直した
「さ、行くぞ。
今日で終わりにしよう」
ゆっくりと歩きだした。
振り返ることはなかった
「アスパラガスを食べるところがよく分からなかったから、
もう一度説明するのだ、ハルぅ~」
お笑いネタに説明を求める子供の様に
察しの悪い相方から離れるため
赤面ダッシュで、目的地に向かうのであった




