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部活探し編・6

「今日は文化部にするか」


「何でハルが決めるのだ?」


先手必勝とはいかず、花山にしては至極当然の疑問をぶつけられてしまった。


「そ、そりゃあ残すはあと文化部くらいだからだろ?

 そうしたらお前の気も済むだろうし――」


「いや、今日も体育館だ!

 曜日によってあの無駄に広い壇上でダンス部が練習をすると聞く!

 だから体育館に――」


「ダメだッ!!」


机を叩きつけて遮る。

その騒がしさもいつもの痴話喧嘩か、とクラスメイトから周知されているため

一瞬こちらに首を向けるのみである


「何故だ!

 そもそも昨日からおかしいぞ、ハル!

 何故先に帰った!!

 わ、私はひとりぼっちになってしまっていたのだぞ...」


涙ぐむ仕草がコイツの場合、マジな可能性もあるので

それをされると強く出れなくなる。

ちょっと男子~集団に限らず、花山お嬢様には常に周囲に

必ずと言っていいほど使用人がいる。

下手な態度を取れば花山が止めない限り、ロクな目に遭わない。


改めて考えると、コイツにぼっちの時間はどこにあるというのか


「と、とにかくだな...良い機会だろ?

 全部見て回るんだから、お楽しみは最後でも良いじゃないか」


努めて慰めるような形を観察者に見せる。

花山の譜代大名のような女子グループは既に

下手な学生コスプレをした使用人に耳打ちしている、危険だ。

というか、もう奴らも使用人と変わらん


「うう......そのせいだ......

 私の応援チームが負けたのは...」


「そっちかよ」


ゴソゴソとポケットを探って何かを手渡してきた。

重みにびっくりして手元をよく見ると、偽物か錯覚を疑うかのような

レンガくらいの厚さの札束だった


「ハルの勝ちだ......

 例え愛する者が相手とはいえ勝負には負けたくないものだなぁ...」


「なんつーロイヤルバトルさせる気だったんだよ!!」


流石に丸ごと貰う訳にもいかず、

底一枚だけ抜き取って返した。



「ということでやって来ました、文芸部」


文化部と言えども侮るなかれ。

数多くも、この時期にはどこも満員状態になっている。

そもそも屋内でやる活動に大人数は都合が良くないものだ。

小さなコミュニティでそれぞれ濃密な絆を築き上げることを

コンセプトとして立ち上げられた部活も少なくない。

けいおん部や学園生活部、学校非公式クラブまで挙げれば

少数精鋭主義がマイノリティでないことは確かだ。


そんな中、今でも部員を募集中で

見学もぜひ来てほしいとの嬉しい申し出を頂いたのが

文芸部だ。


それもどこから聞きつけたのか、文芸部長直筆の

詩が机に入っていた。


知的にしてロマンチックに綴られる招待状は

胸を躍らすようなものであった。

一体、どんな人なのだろう?

見学の、それも付添人であるのに

わざわざ自分にも素敵な手紙を送ってくれた人に対する

純粋な興味が湧いた。


そして高鳴る鼓動を抑えられずに指定の教室の前のドアにいる。

今までは開放的な空間にひっそりと入っていくだけで

緊張感なんてものはなかったが、

今回は自分達の入場がその時点で知れてしまう。


「なんだか緊張するな......お前もそう感じるだろ?」


不安になると頼りない花山にも同意を求めたくなる。

しかし彼女にしては珍しく具合でも悪いのか、

単純に聞いていなかったのか答えが返ってこなかった。

ただ、無言で目の前のドアを見つめている


そして、


「ハルよ、招待状を受け取ったのは確かだな?」


「......へ? そ、そりゃそうだ。

 ここにあるし...そもそもお前だって貰って――」


「私は貰ってない」



驚きに口が開きかけるよりも早く、

ドアが開いた。


そこには長身の女の人がいた。

性格さえ知らなかったが直感的にその人が、今握っている詩の作者だと分かった。

とても綺麗な人だ


「Welcome to the Literature Club!」


茶目っ気からか英語でのご挨拶を頂戴した。

自然と顔がほころぶ


温かい歓迎を貰えて良かった、

下手したら後数分くらい立ち尽くすところだった。


冷たく白い部長の手が自分の手に触れてドキッとした。

そのまま引かれるままに教室に入っていく、

照れくささを感じながら笑みを後ろに向けると

花山が室内に入って来ようとしないことに気付く。


自分が女の人にデレデレしているが不機嫌なのだろうか。

それしては神妙な面持ちといった感じで頑なに一歩を踏み出さない


肩に手を置かれてハッとして前を見ると、

そこには四人いた。


小中大とグラフのように右肩上がりに背の順で並んでいるかのような女子三人と

男子が一人。

どうやら今のところは彼のハーレム状態といったところだろうか


羨ましいぞ、このこの~

くらいな冗談を交えて彼とはこれから異性に囲まれて生活する者同士、

苦労でも語り合いなどと好意的にその男の顔ジッと見ていると、

前髪に隠れた瞳がほんの少し見えた。


そこに生気は無いように見えた。


そんな観察を遮断するかのように部長が前屈みになって前に現れ、

背後を指差した。


振り返ると、

そこには詩が張り出されているようだった。


ゆっくりと近付いてそれぞれ特徴のある部員たちの

心のこもった作品を二点見終えて次に目を移した瞬間、

奇妙なものが貼ってあった。


白紙には黒い文字ではなく、The Hanged Womanと掛かれた

何か占いに使うカードのようなものが貼ってある。

カードの絵は吊るされている女の人の絵のようだ


「これは何ですか」


質問すると部長は今度は部員を指差した。

丁度彼女の身体で指さす方向が見えないので

自分が首を伸ばしてみてみると、

そこに三人いた女子の内の一人がいない。


その瞬間、

風が吹きつけた。


とても冷たい、

背筋が凍るような乾燥した風だ。


唸る風の音の方に目をやると

窓が割れている。


割れていること、

そして風が冷たいことに疑問が生じる


「今は夏なのに......」


夕暮れにしては暗すぎる空から手の先から血の気が引く

風が吹いている。


冷える手に何かが触れて強く自分を引っ張った。


花山の温かな手だった。


「お、おい!」


身長差から転びそうになりながら走らされ、

振り返ると部長の悲しそうな笑顔が見えた気がした。


そのままいつの間にか人気がなくなった、

永遠にも感じられる廊下を走り続けていると視界が白み始め、

耳にはカスタネットを叩くような軽快な音が入って来た。



「はっ!!」


「お、やっと起きたか」


上体を起こして周囲を見渡すと、いつもの景色がそこにあり、

生徒たちの楽し気な会話や生活音に包まれていることに気付く。


花山を直視するとキョトンとした顔で文房具を両手に持っている。

それらをかち合わせて俺を起こしてくれたようだ


自分の手が何かを握っている。

冷や汗が吹きだし、急いで確かめると


詩でも招待状でもなく、さっき花山からくすねた札だった。


「もう放課後だぞ~

 さっ、今日は文化部に行くのだったな!

 ハルよ、どこに行くとするか?」


息を荒くして、俯くこっちの緊迫感も知らずに

無垢な笑顔で覗きんで来る彼女の顔を見て心からホッとした。


そしてこっちも笑みを浮かべて、彼女に答えを返した


「文化部はやめよう」


その後花山に言い聞かせたことによって、

翌日から俺達が文化部に近付くことはなかった。

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