部活探し編・4
「次はサッカー部を見るぞ!」
水泳部の件があったにもかかわらず、
相も変わらず花山は部活を制覇するつもりだ。
「そんなお前が望むほど嬉しいイベントがあるとは思えんがなぁ」
「勘違いするな! 私は男子中学生ではない!
四六時中、覗きや覗きに興じているわけではない!!」
ということで放課後、
遠目からの見学と称してのお散歩ツアーが始まった。
「む、あやつらは向かい合って何をしているんだ?」
「基礎練か何かだろ」
準備運動の一環にグラウンドを何周するだとかあるが、
その後にもスポーツに応じて行われる流れがある。
サッカーではお互いが向かい合ってボールを投げてやって、
それに様々なスタイルのボールの受け方をして投げ主に蹴り返す
というものをやっているようだ
基本的にボールを地面に落としてはならない。
「試合はまだなのか~?」
「お前まさかサッカー部だとかが、
ずっと試合形式の練習してるとか思ってないだろうな?」
「......」
答えは沈黙であったが、
その稚拙な考えはあっさりと読み取れた。
本当にこの先が思いやられる、文化部でも門前払いの腑抜け具合だ
「あのなぁ、花山......
お前が思い描いているのは小学校の頃の部活もどきのクラブ、
もしくは昼休みのグラウンド風景を思い描いてるかもしれないが、
部活というものはそんな甘いもんじゃ――」
「あ、ボールだ」
飛行機でも見つけたような遠くのものを指すような言い方でありながら、
自分の顔に影が差した物体はあまりにも近く、
こめかみ辺りをヘッドショットしてきた。
「ぐえっ」
小さな悲鳴を上げて俺は倒れた。
その後ボールが軽く弾んで自分の目の前を転がっていくのを見て、
初めてサッカーボールであったことを認識する。
小学生の時の昼休みを思い出す。
グラウンドはもちろん、その周辺でさえ常に危険と隣合わせだ。
気付けば球が、人が、
自分の身体に目掛けて飛んで来るのだ。
一瞬の油断も許してはならない、隣に目を向ける隙も命とりだ
そんな懐かしさからなのか、痛みからか涙が流れ出た。
横倒しで滲んだ視界には転がったボールを力いっぱい蹴ろうとする花山が映る。
振り上げた足、雄叫びをあげる顔には怒りが満ち満ちているようだ。
そうだ、俺の仇を討ってくれ
冷静に考えれば、この女がもっと爆弾でも降ってきたくらいのリアクションを
取っていてくれていれば身を屈めることが出来たのだが。
敵は本能寺にあったわけだが
しかし渾身の足の一振りは空振りに終わった。
だけならまだ良かったが、
卓球やテニスの空振りとは訳が違って片足立ちの空振りはマズい。
バランスを崩して背中を打ち付ける姿が終始ゆっくりと、
くっきりと、まざまざと見せつけられた。
こんなことならば受け身の練習が出来たかもしれない、
柔道部を先にすることを勧めてやるべきだった。
共に立ち上がることは出来なかった。
もう戦える者も、名誉を挽回してくれる者も一人として残っていなかった。
目の前が夏の日差しの中で真っ白になった.....
その後、放課後にてグラウンド周辺で男女二人が
大の字で倒れているという事件が新聞部で取り上げられ、
近くにいたサッカー部員にも何が起こったのかサッパリ分からねえ
という怪事件として祀り上げられた。
事情を知っているであろうサッカー部員が言わなかったのは、
原因を作ってしまったことを隠しているのか?
二人がボール一つに倒されたという恥ずべき事実を隠してくれたのか?
はたまた敢えて隠してほくそ笑んでいるのか?
そんな自ら怪事件の中心である俺達二人も謎に苛まれ、
疑心暗鬼状態となり、
翌日からサッカー部に俺達が近付くことはなかった。
寒いですね




