家庭教師編・ファイナル
「遂に今日か......」
しみじみと呟くのは自室での朝、
待ちわびたようなそうでもないような感じで訪れたテストの朝だ
大層なイベントでもないのに口を突いて出たのは多分...
今までとは違って真面目に、頑張ったからだと思う
思えば、高校受験に失敗して入った初期の私立の高校生活はどこか億劫で
懸命になることや真面目に頑張ろうとする気持ちが抜けていた。
一種の燃え尽き症候群みたいなものだったのかもしれない
それに信じてもいなかった5月病というのも重なって
誰かと関わろうとする気力も失せていた
だからこそ弟や妹との小さな喧嘩が最近起きた久しぶりの出来事になっていた。
それほどまでに熱を失い、
目の下にクマも出来れば
その目の輝きも無い死んだ魚のようなものであったと思う
そんな自分が今では洗面所の鏡で顔を見てみると
少し活気を取り戻したように見えてきた。
少し、であるのはまだ目の下にクマがあるからなのだが...
これは生まれつき付いたようなものだし気にしなくて良いだろう、
つまり復活したと言ってもいいかもしれない
元々快活な性格でも無かったことを思えば
復活以上の元気が出てきた、とも前向きに考えられる。
きょうだいとも接することもあまりしていなかった者が
家庭教師になってみたり、
勉強を本気でする気が無くなっていた者が
空が明るい内から辺りが真っ暗になるまで学習活動に打ち込むようになったり、
何のいざこざがあった訳でもないのにクラスの誰とも関係を持とうしなかった者が
ある程度集団の空気に溶け込み始めた。
その嘘みたいな変わり様が全て自分のことである
それが起こり始めたのは、アイツと会ってからだ。
はた迷惑で生意気で子供っぽくて
同い年とは思えないくらいのエネルギーの塊のアイツに
最初はただの変な奴だと思った。
それも結構オツムが心配になるくらいに
でも実は根性があったり、
ワガママだがある程度言われたことはブーブー文句を言いながら
やったりもする
そんなダメ人間にも光るものがあるのを見てか、
そこはハッキリと自覚していないが
俺も影響は......確実に受けたと思う。
いつを境になんてものは無いが
ゆっくりと少しずつ前を向き、
明るくなり始めた
それがあってか
疎遠であった、というのはオーバーだが
幼馴染とも話すことがグッと増えた
前はその幼馴染の気まぐれでしか顔を合わせることも無かったが、
現在では必要以上のコンタクトが生まれている
過去の友達とのメールのやり取りにも話題性が出てきて
今度何年ぶりかに会うことにもなった
そう考えると驚くほど様々な周りを取り巻く環境が上向きになった
考えれば考えるほどに、アイツのおかげなんだな
と思わざる負えなくなってしまう
それがほんの少し...
変な話だがちょっと悔しい
笑ってしまうくらいの悔しさだが
なんせこのままでは
はた迷惑で生意気で子供っぽいアイツに礼を言わなくてはならなくなってしまう
「でもまあ...そんなことしたらまた付け上がるし...しなくていいか」
一人勝手に納得すると
どこかしんみりとして感慨深くなった気持ちを吹き飛ばして
勢いよく家を飛び出して学校に向かう。
遊びやごっこのようなものだったが、
俺が育てた教え子二人の知力での決戦が今日に行われるのだ
どういう結果に転んだとしても自分と二人を、
大いに褒めてやろう
そう、素直な想いで心に決めた
閲覧ありがとうございました。




