家庭教師編・36
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そうして俺は本番の週も家庭教師として
花山に罰を与えたり、
美咲に分かりやすく教授するなどしっかりと務め抜き
遂に火曜の夜に至る。
目の前の生徒があと一問解き終われば、
明日は自分のためだけのテスト対策に打ち込み
明後日からの本番が始まるだけだ。
つまり、あと数分で俺は二人を教える者としての任が解かれる
途中幼馴染との過去をめぐる関係の亀裂、
お隣の金持ち娘とのハプニング、
それが漏れ出して起こった二次災害の処理活動等...
完全に家庭教師という枠組みを超えての波乱と苦難に満ちた期間も
ようやく終わりを迎える。
そんなことを思うとホッと胸を撫で下ろす
その肩書を背負ったばかりに面倒ごとに巻き込まれた気さえする。
ただ......
目の前で懸命に集中する美咲の姿、
嫌々ながらも苦手な勉強に向き合う花山の姿を思い出すと
達成感...というものを感じないでもない
また自身もここまで学習活動に取り組んだことも無かったものだから、
良い体験であったのかもしれない
それでも今、辺りが真っ暗になる時間までの勉強は慣れない。
瞼が重く体が揺れる
そんな状態だからか、
こんな感傷に浸るのだろうか...
「うーん、出来た~...!」
伸びをしながら明るい声が聞こえて、
ぼんやりした視界が少し晴れる。
「おお、よくやったぞ美咲...」
彼女の方が疲れているはずなのに元気そうだ
「ちょっと~、ハルもう眠そうじゃ~ん」
「そりゃ眠いよ......お前は体力というか、精神力あるなぁ」
「まあ、そうだね~...
このテストはハルを巡る、あの子との2度目の対決でもあるし」
......ん?
その一言がバケツ一杯くらいの冷水となって俺の全身に掛かった、
が如くに足の先から頭の先まで冷えた。
目も冴えた
何故なら
すっっっかり忘れていた...!
もう全てが丸く収まって平和になったというのに
何故、人は争いを止めないの...?
いたいけな少女の様な気分になって
額に手を当てる。
「ん、どうしたのハル? 頭でも痛い?」
ああ、そんな対決があったことに頭が痛くなるよ
とは言わずに心配しながらあざとく接近してくる美咲を手で制しながら
「いや、大丈夫...眠気を払ってるだけだ」
適当に取り繕った。
「ふ~ん、眠いならうちに泊まっても良いけど~?」
ふぅ...やれやれ、
からかってるのか本気なのか分からない発言は控えて頂きたい。
特にあなたは
本当に判別が付かないから...!
「気持ちだけ受け取っとくよ...」
静かに諭して立ち上がった。
彼女に背を向け
腰を屈めて帰り支度を始める
カーペットに散らばる教材を一つ一つ拾い上げてはバックに入れる。
その一つ一つに確かな重みを感じた
周りを見回して忘れ物が無いか確認して
姿勢を戻す。
直立すると立ち眩みのようなちょっとした脱力にとらわれた。
そうしてよろけた俺を支えるように美咲が後ろから抱きしめて来た
「うん、あったかい...眠いんだね」
背中越しに彼女の体温を感じる
「ああ、すぐ帰らせてもらうよ」
そう一歩踏み出そうとしても
美咲は離れなかった。
悪ふざけかと思って彼女の腕に手を伸ばした時、
小さく聞こえた
「アタシ負けないよ...あの子にも、ハルにも」
直後は花山に対しての怖くなるような戦意を込めて発言かと思ったが
美咲は確かに
俺にも、
負けないという意志を表明したことに気付く。
そこに昔の幼馴染がもはやいなくなってしまったのではなく、
今成長して自分の後ろにいるんだと思えた
「やってみろ、俺だって負ける気はないぞ?」
懐かしい笑い声の響き合いが
その部屋に帰ってきた
閲覧ありがとうございました。




