家庭教師編・35
「はあ...」
机に突っ伏してため息を吐くのは何か久しぶりな気がした。
アイツが学校に来るようになってからは嫌でも話に付き合わされるので、
狸寝入り中などお構いなしに俺に接してくる
それが今日は流石に朝のゴタゴタもあって
遅刻しているようだ。
まあ、こっちはしっかりきっちり清く正しい学生として
登校時間には間に合ったんですがね
そうだ、まず一つ目の嫌味はそれを言ってやろうと心に決めた
しかし、待てど暮らせど奴は来ない。
これもまた懐かしく腹立たしい気持ちだ
あんだけ迷惑を掛けて置いて
今日中に報復もさせないつもりか?
かくなる上は放課後に奴の屋敷に強行して......
「ハル~?」
名を呼ばれただけで体が跳ねた。
美咲の声だ
「今日と明日はちゃんと来てよね?
テスト直前なんだから!」
「お、おう。
もちろん忘れたりしないさ」
もちろん忘れていた。
危なかった、というべきか
十分に驚かされた
まさかのタイミングの告知にまだドキドキしている。
元の関係に戻ったはずなのに
俺がビクビクしてどうするんだ、と言い聞かす
しかし今朝の事情を美咲が知れば
軋轢は確実に生じるはずだ。
頭に浮かぶ危険物を開示してはいけないという意識が
心の平静を脅かす
そうして飛び切りの笑顔の幼馴染の前で
脂汗をかいていると
「お~ セーフセーフ...ふぅ、間に合ったな」
お待ちかねの人物が良い汗をかいたとばかりに清々しく走って現れた
「何がセーフだよ、思いっきり遅刻だぞ」
「へ? それは誠か?」
スッとんきょんな反応をした花山に美咲が優しく伝える。
「ほら、時計をよく見て薫ちゃん」
「気安く呼ぶな! 女狐め!」
調子は相変わらずのようだ、
それでこその報復のしがいがあるというもの
「そら、美咲も花山もそろそろ授業の準備した方が良いぞ」
「は~い」
ニコニコの美咲と威嚇する猫のような花山の睨み合いを制すると
素直に美咲が引き上げて行った。
さあ、ここからが本番だ
まだ美咲が消えた先を凝視する花山に何気ない感じで話し掛ける。
「そう言えばお前へのプレゼントが机に入ってたぞ」
「本当か!?」
贈り物に庶民的な喜び方をする令嬢の横で
俺はしたり顔をせずにはいられなかった。
「誰からだと思う?」
「当然、ハルからであろう!?」
「ああ、そうだ」
花山の嬉しそうにガソゴソ探す満面の笑みが徐々に青ざめて行くのに反比例して、
俺が満面の笑みになっていく
「な、なんだこの参考書は...!
私はこんなもの頼んだ覚えは――」
「テストは今週の木・金だろ?
そうなったら美咲に比べてお前と勉強してやれる時間が少なくて不公平になってしまう、
だから......」
わざと間を開けてワナワナと震えてこちらに絶望した顔を向けるのを待った。
彼女は既に許しを求めて涙目になっていた
「宿題をプレゼント!」
「ヤダアアぁ!!」
飛び掛かって来るのを余裕で押さえ、
おまけに
「やらなかったら...お前の大切な物がどうなるか...分かってるな?」
念入りの警告を入れて置いた。
止めの一手だ......
と勝ち誇っていると
「ゆるせ~! あやまるから~! 今朝の――」
窮鼠猫を嚙む、程度の抵抗では済まない爆弾発言を
慌てて手で防ぎ、
塞いだ
災いの元である口を。
本当にこのまま軽い口をさるぐつわか何かで塞ぐべきだ、とつくづく思って
溜め息と共に肩の力が抜けた
閲覧ありがとうございました。




