家庭教師編・33
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澪がベッドの上の衝撃の事実に本当に気付かなくて良かった。
そう心から安堵して
行動を急ぐ
母の一言で家の中は慌ただしくなった、
弟と妹が支度に手間取ってるようだ
当然俺も例に漏れず準備をしなければ大目玉喰らうが、
第一にそれよりも花山を連れ出さなければならない。
今しかないと覚悟すると
無理やりお寝ぼけさんを引き起こし、
自室のドアを開け放った
スパイのように廊下の左右を確認すると
即座に花山を伴って階段まで走り抜ける。
少しでも見られたら終わりだ
心臓が早鐘を打つ中、
連れはまだ目をショボショボさせている
階段から下を見ると
そそくさと母が行き交っている。
あそこが難所だ
母の状態とタイミングを測って
そこを駆け抜けるだけで肩の荷を降ろせるんだ...!
それでも上から来るかもしれない弟と妹に警戒しながらの待機は
気が狂いそうだ
腹をグッと押すような緊張にトイレにも行きたくなってきた
逸る気持ちと機会を伺う気持ちが胸中でせめぎ合う。
もう行けよ!
いや、まだだ!
流石に今のタイミングだったろ!
いーや、まだだ!
小刻みに行こうとして自分でストップが掛かる、
まさにクラスでやる八の字跳びで前の子に続いて連続で入れない
ビビりの子そのものだった
そんなことを考えると脳内で俺を茶化す声が聞こえてくる
「おい、ビビり! 早く行けよ!」
「どうした意気地なし~!」
う、うるさい五月蠅い!
俺は意気地なしなんかじゃあない!!
自主マインドコントロールで発奮すると
花山を軽々と抱き上げた。
それはお姫様抱っこであった
「王子様...」
寝ぼけまなこのお姫様ならぬ、お嬢様の一言がその気にさせた
行ける、俺は...そうだ!
颯爽と駆ける王子だ!!
...颯爽と駆けるのは馬だって?
そんなもん必要ねぇ!
目をカッといんして
トップスピードで駆け抜ける!!
いっけえええ!!!
階段を一飛びで降りた
着地と同時に電撃が走るが如く、
二人分の体重の衝撃が我が身を震わす。
だが屈しない
急に廊下に弟が飛び出して来た!
だが崩れない
速度そのままに弟を突き飛ばす。
玄関に着く!
しかし土壇場である物を見つけてしまう、
それは花山の履いて来た靴!!
だが動じない
咄嗟の判断で俺はまるでサイズが合ってない靴に
無理やり足をねじ込んでドアをこじ開けた。
当時この瞬間のことを未来の俺は克明に語る
「押し戸でなければ死んでいた」と。
開け放った景色はいつも通りのものであるはずなのに晴れやかに見えた。
空気さえ新鮮に感じた
敷地の入り口には輪になって話し合うメイド3人衆の姿があった
「おい、お前ら!」
声を掛けるとバッとこちらを振り向いて
花山に目を移すと、
目の色を変えて駆け寄って来た。
「さっさと連れ帰ってくれ!」
きっとどうやってお嬢を助け出そうなどと相談しあっていた中
救世主がお望みの娘を抱えて来てやったというに、
分捕るように俺の腕から一番大きなメイドが花山をひったくると
大急ぎで3人とも帰って行った
「ちぇ......礼も無しかよ」
と吐き捨てるように言いながらも
ホッと一息ついてその背中姿を見送ってから
やり切った達成感に包まれて踵を返した。
と、同時に
「「山崎 治雄」」
機械で作られたような声が共鳴して背後で聞こえたのでギョッとした。
振り返るとさっき見送ったはずの一番大きいの以外の二人がいた
せっかくいなくなってくれたのに
再び戻ってきたことに慌てて今度は俺が駆け寄る
「お、おい...! 何で戻ってきたんだ...! まだ何か――」
「靴」
「へ?」
片方の一番小さいメイドがそう言って下を指差さした。
花山の小さな靴をギチギチの状態で履いたままだった
「あー! 悪い悪い、つい...」
これも両足とも脱ぐとプチメイドにひったくられた、
そしておまけに
「いくらお嬢様が好きだからと言って無理やり連れ込むの良くない。
今度からは気を付けるように」
的外れな警告を残して高速で去って行った。
「アイツが勝手に来ただけなのに...」
ボソッと言い返して俺も帰ろうとして
また体が止まる。
そうだ、もう一人いた
向き直ると静かにしてる中くらいのメイドがいた。
コイツはとりわけ個性が薄いので影が薄い、
気付かずスルーするところだった
「......」
何言うのかと思って待ってみるも
見つめ合う時間が流れるだけだ。
そこで
「ああ...えっとお前もまだ言いたいことがあるのか?」
俺から口を開くと
ハッとして彼女は一歩近づいた。
大きな一歩だ、
身長が同じくらいなので鼻を突き合わすギリギリの場所で
「ありがとう」
とあまり温かみの無い声で言うと
顔を寄せて
温かい感覚が頬に触れた。
すると笑顔を残して彼女は去った
自分が今、何をされたかを知ったのは
家の方に茫然と向き直った時に見えた、
ドアから顔を覗かせていた母の口からであった
「ハル!! い、今、あ、あんたにキスしたのは彼女か!?」
ああ、何で一難退けたのに......こうなるんだ!!
なんて日だ!!
ガッデム!!
閲覧ありがとうございました。




