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家庭教師編・32

気付けば前でもスヤスヤ、

後ろでもスヤスヤとこっちの気も知らないで

眠りこける少女達に挟まれる自分がいた。


嘘みたいに和やかで羨望の眼差しを受けそうな空間だが

嘘みたいに俺の頭の中は警鐘が鳴っている。


そろそろ、やばい


正直

心地よい体温に包まれて危機感を忘れてた節はある、


だが時刻はそろそろ登校時間に至っていることだろう


体勢も変えられないとスマホも時計も見られない。



ハッキリと分からない時間帯に脈が速くなる。

本当にこのままどうしよう


そうして脳内整理が始まる。


まず一つ目の案は、

今日ちょっと動けないくらい頭痛が酷いわ...

とか言って学校を休んででも時間を作って

抜け出せるだけのチャンスを待つ。


二つ目は今すぐに花山を抱きかかえて

隣の妹を踏み倒し、

全員を叩き起こすほどの勢いでもって

誰かの目に触れる前に家から脱出する。


三つめは、

隙を見計らってベランダから花山を降ろす。

しかしこれはあまり現実的な作戦じゃない


他にも稚拙な作戦が多くあったはずだが、

もはや覚えていないほど成功は見込めないものだ


となると自動的に

選択肢は結局2つになった。


動かずして勝つか、

動いて勝つか



緻密な計算と脳内演習が行われ、

どちらの方が成功率が高いか

または欠点があるか?


妹と花山の腕や足が俺の身体に伸びてきても

動じない集中力は

拮抗した二手の戦略の優劣を付け始めていた...!


という時に


バンバンと何かの音がする。

周りに配る意識も遮断していたために

接近にまるで気付かなった


「ハル! アンタ遅刻するよ!!」


「は、はーい!!」


思わず元気に返事をしてしまった。

これで動かざるが山の如し作戦は使えなくなった


あれだけ考えて置いて選択の余地など無かったのだ、

母はバタンと勢いよくドアを閉めると弟の部屋も開けに行ったようだ


おかげで思い切り年も近い妹と添い寝をしている事実はスルーされたものの、

ピンチは続く。


また機嫌の悪い妹の声が聞こえてくる


「もう、うるさいなぁ...」


しかめっ面をして澪が寝返りを打った。

その先は床だった


ビタン!


と叩きつけられた音がして恐る恐る

花山を隠して覗いてみると


「痛ーい!!」


大声を上げて頭がにゅっと出てきた。

寸でのところで避けなければ激突事故が起きたことだろう


しかし二次災害を防いだとて、

本人は全身を打ち付けられた怒りしか心にはない


「兄! アタシのこと押したでしょ!」


「お前が勝手に倒れたんだろ!」


「問答無用!!」


遂に久しぶりの兄妹ファイトが始まった。


普段はあまり面と話すことも無い、

普通の兄妹関係にある俺達だが

一度(だいたい澪からの一方的な)衝突が起きると

取っ組み合いがスタートする。


力でも体格でも勝る俺が負けることはないが、

今回は背後に死守しなけれならない者がいるだけに

初めのぶつかり合いに弱気になってしまった


よってイナバウアーのようにのけ反って前から掛けられる体重にギリギリ耐える羽目になった。

このまま後ろに倒れればもれなく、

女の子のうめき声が聞こえることになるだろう。


そうなったら言い逃れは出来ない、

何としても花山の身体には倒れられない!


「ぐおおお...!!」


「どうした兄! 寝起きでは弱いか!」


「寝起きが悪いお前に...言われたくないわ!」


体幹のバネの力が妹を押し返した。

もう少しで兄妹の体重がそのまま幼女体型にのしかかるところだった


かなりの力で弾き飛ばした澪は後ろの家具にぶつかる。

するとその痛みにまた怒りのパワーを増大して襲いかかって来る


だがベットから降りて臨戦態勢になった俺にはどうってことはない。

体当たりの勢いをどっしりと腰を落とした構えで吸収し、

相撲の要領で投げ飛ばした


例え相手が女とて、妹とて

この山崎治雄、容赦せん!


「くっ...許さんぞ!」


フラフラと立ち上がる妹に本気の体勢になった。

早く決着を付けて花山を逃がさなければ...


「何でこんな朝から、死闘をせにゃならんのだ!」


再度お互いの闘気がぶつかり合う刹那、

仲裁の声が下の階から響き渡った


「朝から何ドタバタ大騒ぎしてんの!!

 あと40秒で学校行く支度してなかったら承知しないよ!!」


母の声に子供たちは止まった。

昔からの親の説教が刷り込まれた体は本能的に制止を行ったのだ


俺と妹に視線の火花が散った後、


「覚えてろよ!」


そう言って妹が退散した。

戦いは一旦済んだ、

そのことに気が抜けかけたが

へたり込む足をグッと踏みとどまらせた



まだ何も終わっちゃいないことを思い出したからだ。


後ろでは幸せそうな寝顔を毛布からむき出しにしている花山の姿があった

閲覧ありがとうございました。

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