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家庭教師編・31

「...にしても何でさっきからやたら不機嫌なの?」


それはお前だろ!


という気概など有りはしない、

いつも通りの調子に装えていないことに体が冷たくなるような

熱くなってきたような...


冷や汗と共に沸くのは普通の汗だ。

何しろ季節は真夏をそろそろ迎えようという時期に

クーラーも付けずにもう一人の人間と密着してるのだから当然だ


「それにこっちも向かずに背中ずっと向けて...」


ここに来て澪の心情は怒りから疑念に変わり始めた。

それは冷静さを取り戻してこちらを分析しに掛かる、

非常に危険な状態だ


しかし

何てことはないよ!

なんて妹の方を向ける訳がない。

俺の体と毛布を使ってやっと花山を隠している状況は崩せない。


「べ、別に何でもないよ」


「いや機嫌悪いしおかしいよ、兄」


「本当に怒ってないから!」


言った直後、



という声が出そうになった。



誰がどう見ても気分を害してる人間の反応である


「......」


澪が無言で見てくる。

怪しんでもいるだろうし、

下手したら反感を買ってしまったかもしれない


もう妹に顔向けが出来ない兄になってしまった


「はぁ...」


そんな兄貴にため息を一度つき、

彼女が取った行動は


「仕方ない兄だなぁ...」


そんなことを言いながら背を向けているわずかなスペースに押し行ってきた


「......!?」


俗に言う、添い寝である


「いや、何でそうなるんだよ...!」


目的が分からない行動に狼狽と焦りを隠しきれない。

これでは更に身動きが取れない


「アタシも眠いし、兄への嫌がらせも兼ねた機嫌直し」


「いや、全然嬉しくないから...!」


必死になって否定する俺にどこか冷たい視線を感じた。

腕の中の人からだ


いつも妹とこんなことしてるのか...


みたいな冷ややかな心情が込められているようだ。

さっきまでのお前の行為の方が大概なのだが



そうしてしばらくの間、

奇妙な川の字が一つのベッドの上で繰り広げられた。


流石に悪ふざけか何かだと思っていた俺は妹が離脱して行ってくれることを望んで黙っていたが、

一向に背後から動きは無く

どころか段々と聞こえてはいけない音が耳に入ってきた。


笛のような、隙間風のような音、

安らかな寝息である


もちろんこちらの胸中は穏やかとは遠くかけ離れたものだ


冗談じゃない、

マジに寝てしまったのか我が妹よ


事態は悪化の一途を辿り続けている......



そんな絶望に打開策をずっと考えていると

現状を忘れるものだ。


花山がモゾモゾしながら何か呟き始めて

我に返った



「熱い...」


「あ、すまん...」


抱き枕のようにしていた彼女を少し解放した。

やっと外に顔を出せたと大きく息を吐いた、

その熱を首元に感じた


「まったく...私にこんなことをするなんて...」


「元はと言えばお前のせいだろ...」


顔を赤くした花山はすぐに笑顔になった


「でも...とても幸せだ...ハルとこうしていられるのは。

 出来ればずっと、こうしていたい」


「......」


それに返す言葉は無かった。


今はそんなスイートな時間に感じていられる場合じゃないからだ。


コイツからすれば、バレてもこれからの生活にダメージは無い

どころかプラスに働くかもしれないが

俺にとっちゃ致命傷だ



何とかしてこの苦境を打破せねば


そう思いながらも背後に浅い眠りの監視員を置かれては

硬直状態を続けることしか出来ず、


朝の空はどんどんと白んでいった

閲覧ありがとうございました。

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