家庭教師編・30
迅速でありながら繊細に扉を閉めた。
だが令嬢爆弾の一撃で我が家族の睡眠状態に揺らぎが生じていることだろう
それはつまり
いつ誰が起きてきてもおかしくない!
「んふ~」
危機的状態になったことによって意識が冴え渡り始めた俺は
まず、ベッドに飛び込んだ花山をすぐにはたき落とした
「何やってんだお前...! 人のベッドに勝手に寝やがって...!」
抑えた声で説教しても迫力が足りないためか、
花山はニヤニヤして見つめてくる
「ふふ~ん。これであの女より先に、いや!
奴には成し得ないことを成し遂げたぞ!!」
ふざけたを抜かしやがるので頬をつねる
「だから静かに...!!」
さっきまでの恨みもあってかなりの力が入っているはずだが
ヘラヘラと笑っている。
そこで察した
なるほど、それが狙いだったのかと
「にぇへへへ...にゃったぞ~...」
夢でも見ているように目標の完遂に浮かれている。
長期戦が予想されたが満足そうな表情を見るに、
ここが仕掛け時と睨んだ
「ほら、もう良いだろこれで。
美咲もここまでのことはしなかったよ」
「お~? にゃはりか~...」
つねられていることなどまるで意に介さず恍惚としている、
これならば多少強引でも気付きやしないだろう
そう踏むとすぐさま今来た道を騒々しくしてでも
一瞬で戻ってやろうと掴む場所を頬から腕に変えたのと同時に
誰かの足音を聴覚がキャッチした
全身に冷水をぶちあてられたかのような寒気を生じて
動悸が始まった。
ただ末端から冷えていく神経は
判断力を尖らせてくれた
今すべき最善の方法を、
唯一の活路を、
導き出した
「こっちに来い...!」
「んん~?」
酒に酔ったような女をグイット引っ張って向かった先は......
バン!
咄嗟の行動からほんの数秒で足音の主は俺の部屋を開け放って姿を現した。
だがその目からは寝床に横たわる俺の背中と
いつも通りの風景しか見えてないはずだ
問題は家族の内の誰が、
どこまで接近してくるかだ
いざという時は狸寝入りは解除せねば
「おい、兄」
声で分かった。
またぶっきらぼうな兄貴の呼び方、
弟ともう一人の俺の兄弟である妹の澪だ
「ん~...なんだよ?」
あくまで寝て起きた演技を貫き通す。
「なんかすっごいうるさい音が聞こえて、
アタシのだ~い好きな安眠が阻害されたんだけど」
やはり不機嫌だ。
昔から寝起きが酷いが、中途半端に起こすと鬼のように怒るのは
もう幼稚園児の時からだ
「何のことだ...?
俺だって寝てたんだから知らねえよ」
自分も今に起こされた被害者面をしていく。
事実、俺は被害者だ
「嘘だよ。
だって兄の部屋の方から聞こえてきたもん」
早く犯人を特定して八つ当たりしたい、という凶暴な気持ちが声に表れている。
何とかしてこの場だけでも凌がなければ...
澪は暴力的だ、
あと少しでも気に入らない解答をすれば
すぐにプレスをかましてくるだろう
そうなったら俺よりも
今まさに毛布と俺の腕の中にいるエリーちゃんが危ない、
そしてバレてしまう......!!
閲覧ありがとうございました。




