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家庭教師編・O29

「ご、ご冗談を...」


「いや、本気だぞ? 私は?」


もうプライベートの拠点に踏み入れさせたというのに、

まだこの女は領土侵犯しなければ気が済まないようだ。


アイツの黄色が混じったようなアンバー、通称・狼の目を見れば

その本気の度合いが窺える


「履物を用意してくれるかな?」


勝ち誇ったような顔も合わさってこれ以上ない程の

敗北感を受けているようだ


当然今はこれからの生活を人質に取られている、

コイツが大声を出しただけで

朝に、それもパジャマ姿の女を家に上げている状況を家族が目撃する。


これを見られれば家族からは隠れて俺が連れ込んだものと

どうせ思われるだろう。


なんせ俺の言い分なんぞ信じないからな、

うちの家族は...!


「こちらを...」


適当にスリッパを引っ張り出した。

遂に本格上陸を許してしまった


策など無かったが

今だけで防衛は十分に失敗している。


だが致し方無い。

そう思うしかない


なんせあのまま放置すれば

周り近所の人が、

どうやら早朝に山崎さんの家の前で女の子が泣いていたらしい

だとか噂が発生すれば

後々どんな尾ひれがついて来るか分からない。


大衆はだいたい小綺麗なヒロインの肩を持ちがちだ


つまりコイツは俺の目からは憎たらしさしか映らないが、

傍から見れば

悲しみにむせび泣く美少女だろう


きっとそんな可愛い女の子が山崎家の長男に何かされたんだわ!


と確実になるだろう......


なんせ、エリーちゃんは見てくれだけは良いからな!


...それに外見幼女だし



「うむ、下がって良いぞ」


下がるかボケぇ!

どこに他の居場所があるんや!


「いえいえ、部屋まで案内しますよ...」


へりくだってご機嫌を取ろうにも

どこまで図々しくなっていく金持ち娘には逆効果だ。

もう止めてやる


普通なら同年代にこんな態度を取られたら

ああ、そんなご丁寧に...

と謙虚な態度が出るものだが

コイツに普通が通じると思った俺が愚かだった。


「じゃあ行こうか、エリーちゃん?」


「うむ!」


出来る限り馬鹿にしたように名前を呼んだが

嬉しそうな間抜け面で返事をされる。


成行き上、手まで繋がされて


怒る気力も手から吸収されていくようだ



にしても花山の手が冷たく感じた。

いつから外にいたんだか......


同情も呆れも一遍に胸に広がる



ゆっくりと階段を上がって自室に近付いてくると大きなため息が出る。

自分の部屋に誰かを連れ込むのは無二の親友に続いてコイツで二人目だ


これを知ったらまた美咲は豹変するのではないか


そんな新たな懸念がまた湧いてくる。

このバカちんが公言しなきゃ良いのだが...


ニコニコワクワクしている花山の顔を見て

一体何が目的なのか空恐ろしくなってくる。


頼むから現在慎重に階段を上がっている努力を無に帰すような

大騒ぎは勘弁だ


一歩一歩、家族のそれぞれの寝室から物音がしないか

ビクビクしながら進む。


そしてようやくマイルームの前だ


ここまでの道のりがこんなにも長く感じたことは無いだろう



そんな大袈裟に一段落着いたと力を抜いた瞬間


隣の爆弾がやらかしてくれた



「おっじゃまっしまーす!!」


ひときりデカい声で我が拠点に突入して行った。

まだOKも出していないのに


もはや驚くよりも真顔になって

余計な感情の波が立つ前に手早く、



爆音源娘と自分を部屋に閉じ込めた


閲覧ありがとうございました。

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