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家庭教師編・II II

今日こそは......!


そんな意気込みで美咲へのトライを試みる。

会って腹を割って話合う場を設けるように持ち掛けるのだ


花山は拗ねてしまったのだから仕方がない、

そもそも自身の目的のために頼ったのが間違いだったんだ


己の手で解き明かすべき真相だ。


そう志新たに迎えた月曜の早朝、

結局会えずに終わる


まあ、この時間はあまりお互い余裕も無い。

さあ次だ、次


昼休み、

探し回ったが影も無し


まあ、自分だけの場所で昼食を嗜んでいるのだろう

次だ、次


放課後までの休憩時間、

背中を見たがトイレに逃げられる


...そろそろ本気出すか


放課後、

まさかの鬼ごっこ開始


終わりの会の別れの挨拶をするや否や

教室を出た先の廊下の曲がり角にギリギリで美咲の姿を捉えた。


やはり俺を避けての行動だ

今度は逃がすものか


小学生以来の追いかけっこ、

当時は追われる側だったのが

今に追う側に。


長い髪をなびかす後ろ姿が小さく見えてくるのは差を付けられているからだ


ここ最近で全力疾走などしなかった俺に

スポーツ少女の追跡は荷が重かった...


伸ばす手は空を掻き、

炎天下で汗ばむ男は息を切らして

遂に諦めて道端に倒れこんだ。


完敗であった



...というか逃げなくても良いではないか

一体何故俺から振り乱してまでも逃げて行くのか


嫌われてしまったのだろうか、

俺が襲ったとかいう訳でも無いのに

逆なのに


どうあれ乙女心は知恵の輪ように複雑で難解だ。

理屈で考えず

感じるままに試行錯誤しなければ解決しない


「ふぅ~......」


一息ついて水分を含んだシャツの重みを背負って帰る。


自宅に着くと真っ先に冷蔵庫に向かう


「水ぅ~...水ぅ~」


熱射の中の激走は喉の潤いを取っ払う、

よって砂地を長いこと渡った旅人のようになってしまうのだ


機械仕掛けのオアシスを開けて

いつもの麦茶をこぼれんばかりにコップに注ぐと

口に運ぶ。


空腹が最高のスパイスが如く、

ただの市販のお茶が命の水のように感じられた


「ぶはぁ~!」


求めていたのは水分であるのに

今に溺れそうだった状態から助けられたかのような声が出た。


そして段々と周りの音や景色が鮮明になった。

割とマジに熱中症になりかけていたのやもしれない


そうして正常な五感を取り戻して最初に聞こえたのはテレビから流れる音だった。

危機迫る息子を尻目に

リビングでくつろぐ母の姿が見える。


昼ドラ...と呼ぶには遅いが

ドラマを見ているようだ


当然見ているのは恋愛系のモノだ。

とんとドラマ、特にラブストーリーに興味の無い自分は

何が面白いのやら

と思わずにはいられない。


うちの母親は韓流から洋画のものまで

そういったものを食い入るように見ているが...


「酷い奴だねぇ~...」


それにかなり感情移入するタイプだから独り言が止まらない


「ちょっとハル、コイツ嫌な奴だと思わない?」


更に同意も求めてくる。


「ああ、ハイハイ。 そうだね~」


するとこっちは適当に返して

普段はそれで終わりなのだが、


「ちょっとは興味持ちなさいよ。

 アンタもこういう冷血漢なんじゃないでしょうね?

 女の子泣かしたりとか」


今回は随分と核心を突いて来たので受け流すだけでは終われなかった。

足が止まって、つい聞き返す


「俺はそんなんじゃないけど...母さんの嫌いなソイツはどんな人なんだよ?」


珍しく食いついて近寄ってきた俺に目もくれず母は

そのまま語りだす。


「それがさぁ!

 この主演の女の子が憧れの上司に告白するシーンがあるんだけどさぁ!

 その女の子の気持ちをまるで考えてない返答したんだよ、コイツ!」


丁度テレビ画面に出た俳優を指さす。

アクターに罪は無くとも

確かに演技が上手いだけに本当に憎たらしさが滲み出ている


そもそも、この男を好きになる主人公の方がおかしいんじゃないのか?


「それでほら!

 今出てる女の子を泣かしたの!

 その後も散々!!

 ああ、ムカつく!」


母上がエキサイトしているようで何よりだが、

自分は今画面に映る女優に目が釘付けになっていた。


確かに美人だが別に好みの顔だとか言うわけではない


その泣き顔が妙に引っかかった。

演技が下手とかではない


見覚え、つまりデジャヴ。


それもデジャヴのデジャヴ


徐々に何がそんなに気に掛かるのか

頭でバラバラになっていたピースが合わさって、

大きな形を成していく。


そして花山の泣き顔、

目の前にある女優の泣き顔が脳裏を掠めると筋道が出来た様な気がして、

フレミングの法則の手を顔に着けたくなってくる


それと同時に俺は自室に走り出した


「え、ちょ、ちょっとどうしたの!?」


突然の奇行に驚く母を残して

階段を駆け上がって我が部屋に入って取り出したのは

白紙。


そこに忘れないように今得た答えをガリレイが身に宿ったが如くに書き殴る。



勿論、その答えとは重要な美咲との過去の記憶そのものである

閲覧ありがとうございました。

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