家庭教師編・21
その後の花山は不安通りの怠けっぷりで俺を怒らす気力さえ
失わせた。
考えたくはないが自分の子供を親として、
自分の担当するクラスの生徒を教師として、
どうしようもない奴だった場合見限りたくなる心境を
理解してしまったが故に
俺はアイツのやる気レバーをオンにしてやるどころか
俺のヤル気レバーがオフになってしまっていた。
それに応じて花山も燃え尽き症候群なのだろうか...
まだ大した勉強もさせていなければ、
実戦もさせていないのに...
それを周りも指摘してくれれば良いのに、
お嬢の従者は甘やかすことの方が正しいと思っているみたいで
ご令嬢はダラダラでこっちの頭がイタイイタイすることも
もはや無くなった
友人としては楽しい人だけど
家族になるとしたら無理、
だとか女子は酷いことを言うものだと思ったが
今回のことで花山への意識は
まさにそうなってきてしまっていた......
それでも少し前は俺の指示を受けてナマケモノのようなスピードであっても
素直に動くところは愛嬌もあった。
ゴロゴロとしているならケツを引っ叩いてやって
「ほら、勉強しなさいや」
と声を掛けてやり、
「ああ、今やろうと思ってたのにハルのせいでやる気失くした~」
とか生意気なことを言おうものなら
遠慮なく赤ちゃん肌の頬をつねって起こして机に座らせて勉強させた。
だがこの本番2週間前にしてぐうたら娘の態度は悪化した
あまり本気でやっているつもりはないのに
触覚がおかしくなってしまったのか、と心配になるくらいに
揺り動かそうが
引っ叩こうがまるで反応せずゲームばかりしている。
どんなに可愛い容姿で
それも小さい女の子だったら許せるものなのだろう、
と思っていた淡い考えは現実が払拭した。
あれが自分の愛娘であっても許し難い
怠惰の塊は、
助走を付けて奴が寝っ転がるソファーごとひっくり返してやる
くらいの激情が湧くところだ
そんな事態にしてしまったことで取り返しのつかない、
まさにルート選択を失敗して
所謂、詰み
を体感していたというのに
まだ状況が悪くなる余地をあと2回残していることを宣告されたような
絶望が待っていた。
それは俺が執拗に美咲のことの調査を迫って
拗ねてしまったことだ
傍から見れば
何だ、そんなことか
と思うやもしれないが
自身が家庭教師、と散々触れ回っておいての境遇だからこそ
辛いものがあった。
本当に花山は梃子でも動かぬ
不動明王レベルの引きこもりちゃんになってしまったのだ
俺に話しかけられると地獄で罪人を裁く閻魔大王のような険しい顔を
クワっ!
として綺麗な顔をちり紙をぐしゃぐしゃにまとめたように
自力で顔をクシャクシャにして威嚇してくるようになった
加えて死後硬直を自由に操れるようになったかのような
身体がピンとして崩れない術を身に着けてしまったようだ。
乱暴に動かしてもまるで動きやしないし、
抱き上げようとするにはこれ以上ないほどやりにくい
子供の浅知恵のようで
弟にもこういった態度は取られたが、
他人にされるのと家族にされるのでは訳が違う。
弟の場合はくすぐってしまえば機嫌を良くして硬直を解くが、
流石に相手が花山という女っ気のない奴だとしても
身体をまさぐる訳にはいかない
それに幼女っぽい見た目が更にその行為に犯罪臭を醸し出し、
併せて
女梅みたいな顔をした者を相手に迂闊に手が出せなかった。
何より周りにはいつもメイド共が必要以上の
スキンシップを大事なお嬢さまにしようとしていないか
と構えられている以上、
その行為は完全に非はそちらにあろう
という形になってしまう。
花山は甘える、ガチ泣き、
の他に新たに威嚇と固くなる
を覚えてしまったのだ
そんな盤石な強情娘の技構成の前に出来上がるのが
鬼嫁の前で正座させられる夫のような、
寝そべるご令嬢の前に四つん這いでうな垂れる俺の姿だ。
見ようによっては浮気の許しを請う土下座にさえ見える
不動明王に楯突くことも非そちになることも
避けたい俺は真っ当に言葉で訴えかけるが......
「なぁ、勉強しないか?
それじゃあ美咲に――」
「あぁん!?」
美咲、というワードが出るだけにヤンキー娘に。
短い付き合いだが
あんなに良く言えば純粋無垢、
ハッキリ言えばアホっぽい子が多感な時期にオラつくような女子になってしまった事は
悲しみに落涙を禁じ得ない。
しかしその原因に今回は自分も加担しているとあっては...
しつこい男は嫌われるらしいが、
確かに今回は俺も無神経であったか...
段々と勝手に二人が俺を巡っておきながら
自分が悪いのではないか?
という俯瞰した目線になることが続くと
そろそろ悟りの光が見えてきそうだ
しかしまだその道は遠い、まだ俺はただの人間だ。
そのために今日もため息をついて
これから二人とどうするかを悩んでいる。
テストまで残り2週間以内の土曜も過ぎてしまった
日曜日の夜、
自分のための勉強そっちのけで
幼馴染とお隣さんとの接し方に頭を抱える山崎少年であった。
もう明日は美咲の家庭教師をしなければならない月曜が始まるというのに......
閲覧ありがとうございました。




