家庭教師編・19
契約が取り付けられた翌日、
いつも通りの登校する車内で花山に確認する。
「いいな? しっかりと調査してくるんだぞ?」
「うむ~ まかせろ~」
ゲームをしながらの恰好にまるで信頼も色気もあったもんじゃないが、
今頼れる同じ女子という部類に入った人間だとギリギリ思えるのは
目の前のぐーたらお嬢様しかいない。
いつもより欠伸が多くて確実に夜中までゲームをしていることを
看破しながらも、
頼む側の立場としてしつこくするのも流石に気が引けたので
黙って託すことにした
そして過ぎること午前の授業、
昼休み、
午後の授業...
隣にいるから嫌でもチラチラ見てしまうが
今日全くコイツが変わった動きをしているのを見ていない。
日常的に花山は俺の傍を着いて離れない、
それこそ美咲より粘着女なのだが
今日も同じで俺と関わる以外は幸せそうに寝ているだけで
美咲の調査をしている素振りがまるでない。
どころか今は不真面目な寝不足もあってぐっすり寝てやがる......
一度引っ叩いておくべきか、とも思案したが
感情に任せて一時的に自分の気を晴らしても
結果的にコイツの機嫌を損ねて美咲のことが分からずじまいになれば、
一生の後悔になるやもしれない
言うなれば一時の苛立ち、されど一生の得となるなら
選ぶべき答えは沈黙。
我慢、忍耐...現在固く握られる拳を収めること、つまり非暴力だ
そうだ、暴力など何も生まない。
すべきことは信じることだ
そう思い直して表情にこやかに花山を見たが
くっっそムカつく
「では、えーっと...ここを山崎、答えてみろ」
「へ? あ、はい!」
その後答えられるはずもなく、怒られ周りに笑われた
俺のフラストレーションはゴポゴポだ。
怒りが煮えたぎっているのさ、分かるかね花山くん?
今日の放課後の家庭教師タイムにいつもの
数倍の宿題とゲームを没収してやることにした
これは暴力でも権力の乱用でもない、
教育なのだ。
当然美咲について何も着手していないと言うのならば......
もはや言うまでもないほどの鉄槌が下るだろう...
激情に自分の顔が歪む中、
ふと誰かが廊下を通った気がした。
教室から席を立たないで出来る限り首を伸ばして見ると
やけに背の高い女子と、
その横を歩く二人の女子がいた。
制服を着ているので同じ学校の生徒であろうが、
何故か他の女子とは無縁の俺が見覚えがあるような気がしてならなかった
「ハル...」
また自分の名が呼ばれて身体が跳ね上がて振り向いてから
教師に呼ばれた訳ではないことを冷静に分析すると、
隣の奴からの寝言だったことに気付く。
「覗きはいかんぞ...」
やけにタイムリーな寝言に気味悪くなって
ゲームを没収するのはやめにした。
...でも絶対、宿題増量は譲らんぞ
そう睨むと花山の顔色が少し悪くなったのを見て
その刑罰までは確定だな、と心に決めた




