家庭教師編・18
「わ、私があの女の好みを探って来いと!?」
「ああ、頼んだぞ」
あっけらかんと言ってやったが、
ご本人はどうやらご不満の様でプンスカしておられる。
「何でそんなことをしなければならないのだ!
そのような時間があるなら、私はハルの好みを調べる!」
「いや、そんなことしなくていいから。
お前がさっき聞き入れてやる、と言った頼みをしてるだけだからな?」
自分の言ったことに首を絞められて
お嬢様苦しそうで可哀相~
「な、何を他人事で人を哀れんだような目で見ているんだ!
私はあの女が嫌いだ! 関わりたくもない!」
腕を組んで、そっぽ向いて
だいぶ気分を損なっているようだ
「そんなに人を悪く言うもんでもないぜ?
それに、探ってみたら案外良い奴な一面が――」
「いーや、そんなもの万が一があっても認めない!
アレは言うなれば恋敵!
日本の歴史に名高い、大奥というのを題材にしたアニメを私は見て
ライバルには何があっても負けてはならぬ、と学んだのだ!!」
異国文化を完全に誤った捉え方をしている恒例な人間が目の前にいるが、
馬鹿にするのは後にして
とりあえずその気にさせる。
「そこを何とか頼むよ~...もし、花山が頑張ってその仕事をしてくれたら...」
急に目つきも目の色も変えてコチラに眼光を向けてくる。
相当の期待が目線に乗せて当てがわれて、
考えていた宿題の量を減らす程度のご褒美では首を縦に振らないであろう所まで
読めてしまった。
「してくれたら...?」
声もいつもの甲高い声から欲望に飢えた低い声になっている。
コイツ、かなりの報酬を求めてやがるな......
「その~...なんだ...お、お前の好物をやろう」
ああ、大富豪の娘になんてことを言ってしまったのだ...
と一瞬深刻に考え掛けたが
まあ、いいか!
俺の弁当のから揚げとかで!
すぐさま思い直した。
意外にもこのご令嬢、
結構旨いものを食わせてもらって舌が肥えているから
庶民の食べ物なんざ、口にもしないだろうなぁ
という予想に反して俺が食う弁当の中身を見て
「む、美味しそうだな!
ちょっと分けてくれないか?」
騒がれるのも嫌なのでくれてやると
まさかの大喜び。
「は、ハルの母親は3つ星、いや4つ星シェフか!?」
「そんなに星は付かねぇよ。」
たかだか市販のから揚げが気に入ったみたいで、
ランチタイムはほぼ毎回花山が持ってくる豪勢な一品と
俺の安価なから揚げを交換している。
思わず入れてしまうツッコミの時にうちの母が作ったのではなく、
そこらへんの店で買えると言わなくて幸いであった
言っていたら昼休みの一つの楽しみが消えていたところだ。
そんなことを思って目の前の状況を忘れていると、
花山が高笑いしていた
「言ったな!? その言葉に、男に二言は無いな!?
答えよ、ハル!」
迫られる約束に嫌の予感がするが
最悪、別に守らなくても良いだろう
「おう、ちゃんとお前の好物をくれてやる」
こうして俺と花山の契約が結ばれた。
「それはそうと、もう一回しっかりとテストやれな?」
「やだ」
そしてゲームを没収して追いかけっこが再スタートした




