家庭教師編・15
「どうだったかなぁ......」
もう少しで抜けそうなささくれを必死に引っこ抜こうとするかの如く、
あらゆる角度で美咲を泣かせた原因を考える。
もはやそれを俺は唯一あの時代に置いてガキ大将を倒したかのような
勝因と呼んで思い出そうとしていた。
物理的にポコポコ叩いて泣かしたとかは有り得ないにしても、
給食のデザートを食べてやった可能性、
アイツの好きな人をバラシてやった可能性など
様々に精神的に追い詰めたであろう要因を模索し続ける。
きっとこの湧き上ってくる、人を困らせる方法の内の一つに
自分が過去に実践したものがあるはずだ
そう信じて独り言を呟きながら試みているのだ
......まあ、そんなことをやっていると
どんな仕打ちを幼馴染にしてしまったのか、
そもそもどうしてこんなに心ない方法が思い付くのかが
恐ろしくなってくるが。
「こら、ハルよ。
しっかりと私を見ろ
お前は家庭教師なんだぞ!」
己の邪悪の部分に向き合っていると
無邪気な声が聞こえてくる。
「ああ、悪い悪い......う~ん」
「だからその悩み事に戻るなぁ!」
ピーピーと高い声に今までの思考が吹き飛ばされそうだ
「あ~、もう少し声のボリューム下げてくれよ......
耳がキンキンする」
あ、もしかしたら耳元で大声で叫んで泣かしたとか?
いや、違うかぁ......
「そのまず頬杖を、やめるのだ!」
考え事をする時の癖で出る腕をはたかれてガクッと顔が落ちる
「うわっ...もう、やめてくれよミニーちゃん」
「私はミニではない! エリーだ!!」
とうとう席を立って肩をグラグラと揺らしてくる。
三半規管が弱い俺はその振動だけですぐ気持ち悪くなってきた
「わ、分かったからやめて......オプッ」
「まったく、反省したか!」
「う、うん...」
まだ揺れてるような感覚に囚われながら
悪魔の様な攻撃をしてくるお嬢様を退けた。
あ、もしかしたら俺も美咲の机やら椅子を揺らして酔わせたとか?
いや、違うかぁ......
「あ、頬杖」
「! ま、待ってくれ! 揺らすのだけは――」
その後めちゃくちゃに揺らされた
~数分後~
「わ、悪かった...
ちゃんと...お前を...見てるから...だから、もう」
「うむ、ならばよろしい」
やっとご令嬢を席に着かせると俺も姿勢を正して席に座り直す。
まだ微弱な地震を感じるほど平衡感覚が狂っているが、
意地でも頬杖だけはつかないように耐える
とりあえず楽な姿勢を探して前屈みに机に肘をつくフォームに落ち着いた。
この恰好だけで気だるそうに見られるだろうが
もう顔面なんて蒼白そのものだろう
花山には頼むから声なり人揺らしなり、加減を覚えて欲しいと
切に思った。
段々と正常に感覚が戻ってくると大きく息を吐いて
目の前の生徒を見やる。
辛そうな教師を差し置いて結構真面目にやっているようだ、
花山の真剣な顔を体力テスト以後、初めて見た気がした。
そう思うと......
コイツは俺を巡ってあの戦いに本気で取り組んでいた。
ふざけた奴ではあるが、あの時の花山はしっかりしていた
その時にコイツが内心に秘めていたのは何だったのか、
美咲に負けたくなかっただけか、
それとも...
「なぁ」
「ん~?」
ついついそんな疑問が口を突かせてしまっていた。
今更に何でもないとは言い辛いし、
コイツに対してはもう聞いてしまおうと思えた
「体力テストの時......何でお前あんなに頑張れたんだ?
数日前まで引きこもってた奴の動きには見えなかったぞ」
それを受けて花山は意外そうに目を丸くした。
かなり間抜けな顔だが笑う余裕は疲弊した俺には無かった
「ほぅ...ハルが素直に私を褒めるとは」
「べ、別にそういう訳じゃ――」
「ふっふっふ...そうか、そうか...
ハルも成長したのぉ」
腕を組んで偉そうな態度を取られたので突っ伏す
「ん? どうしたのだ~ ハルよ? 恥ずかしいのか?」
更に煽って来ることに自身の発言を悔いて
無視し続けた。
するとまた肩揺らしをしようと喜んで近付いて来たので、
黙秘権を守ろうと正当防衛でビンタをかましたら
その後めちゃくちゃメイド3人衆とひと悶着起こった。




