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家庭教師編・14

その明日の火曜も続いて美咲との勉強デーであったが

日中にも放課後にも会おうとしても見つけられずに、

成り行き上キャンセルとなった。


その次の日も見かけることさえなく、

せっかくの自分のためだけのテスト対策が出来る日の

自習の時間を上の空で過ごしてしまった。


元々勉強嫌いとしては集中が切れることはいつものことではあるが、

いつもと違うのは

集中の切らし方にあった。


大体自宅というのは真面目なことを取り組むのを阻害するかのような

誘惑が多数潜んでおり、

ゲームなり空腹なりが

その勉強の手を止めることがほとんどだ。


だがその日ばかりは授業中にも、

落書きでもペンを分解して遊ぶでもなく

ただ茫然としていた。


そのために気付けば授業が終わっていたり、

休憩時間に入ってもボーっとしていると

花山に


「お、何を呆けておるのだハルよ。

 ここは目覚めのキスをしてやろう」


とか何とかふざけたことを言っているのが耳に入りながらも

目線もくれずにビンタをかます、

無気力人間になってしまっていた。


そう、まるで抜け殻


魂を抜かれた抜け殻人間になっていたのだ。



当然原因は美咲のことにある。


ただ急に

美咲ちゃん可哀相、どうしたのかな?


なんて人が変わってしまった訳ではなく、

ずっと気に掛かっていることがあって意識は目の前のことに向かなくなっていた。


それは、過去に美咲を泣かしたことの原因とその後の結末だ。


考えている内に徐々にではあるが、

当時の記憶が蘇ってきてはいるのだ。


そのため、美咲を泣かしたのは


俺自身なのではないか


というところまで来ていた。



確信ではないが、漠然とそんな気がしてならない


しかし、それが何故かまでは未だ分からない。


あの頃の俺と美咲の力関係は言ってみれば

ガキ大将とその子分レベルであった。


今思えば情けないやら悲しいやら複雑な心境だが、

当時はアイツの


「ハル! 着いて来い!!」


のたくましい一声に抗える訳が無かった。


だからこそ、その時代に俺が美咲を泣かせた

とあっては下剋上も下剋上。

ジャイアントキリングと言ったところか


天地がひっくり返ってもそんなことは......

と自分で思っていて虚しくなるが...


何はともあれ、それだけ有り得ないことであるがために

一体当時の貧弱少年であった僕ちゃんは、

どうやって快活さや体力に加えて人望もあった強大な幼馴染に

一矢報いたというのか...!?


まるで歴史上に実際あった、

謎の大逆転劇を紐解かされているかのような気分だ



「う~ん...」


それで今や木曜の放課後、

花山邸にて生徒よりも難しい顔をして過去に向き合って悩む

家庭教師が出来上がっているのだ。


「なぁ、ハルよ。

 正だの負だの数学というものは数に優劣を付け過ぎではないか?」


そうしていつも下らないことを問う花山は、

俺のレッスンが始まる前に数学は得意だと語っておきながら

試しにテストをやらさせたら散々な結果で結局教える教科を増やした、

更に悩ましい存在であった。


「...ん?

 何かまた無駄なことを言ってる気がしたけど、何か言ったか?」


「なっ、なんだと!

 私の発言を馬鹿にしただけでは飽き足らず、

 更に話をしっかり聞いていなかったというのか!

 このぉ~!」


飛び掛かって来るお嬢様の顔面を、

いつも通り手の平で押さえつけながら

また溜め息が出る。


本当に思い出せない......



ああ、なんて


思い出しそうで思い出せない記憶というものは


こんなにも


もどかしさに溢れているのだろうか...

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