家庭教師編・13
懐かしくほろ苦い......では済まされないほどにビターな過去に浸って
我に戻ると、非常に気まずい空気が流れているという二段構え。
この状況、いったい俺にどうしろというのか...
とりあえず本人に話を聞いてみる
「どうしたんだよ、具合でも悪いのか?」
定番の質問で反応を窺うが何も返してはくれない。
「なぁ、ちゃんと聞いて――」
「ダメ」
顔を向けさせようと肩に伸ばした手が宙で制止された。
「もし、アタシに触れたら......また襲うよ」
その警告にすぐ手を引っ込めて距離を取った、
急に怖気づいてドアの前まで脱兎の如く退いた。
「そんなに逃げなくても...」
うずくまったまま不満そうな声が漏れた。
「し、仕方ないだろ。
怖いんだもの...」
独り言のように俺も呟く。
その後また静けさが戻る
どうにも今日この部屋には何かあると
沈黙を挟む、ループの呪いにでも掛けられたように
息苦しさと切なさともどかしさに支配されている。
彼女は俺に出て行って欲しくないのかもしれないが、
この部屋が俺に出て行け
と言っているようだ。
実際ここに居続けても好転があるとも思えない
そうとなれば...
「俺からちょっと提案があるん......ですけど」
こちらの意図を読んだかのように目だけがこっちを向いて
つい態度が改まってしまった。
「そのぉ...今日はもう、お開きに......しない?」
この発言の途中にも
何を言い出すんだお前は!
という勢いで襲ってくるのかとビクビクしながらの打診であったが、
美咲は眼光は鋭くとも黙って俺の言い分を聞いた。
そしてまた彼女が腕に突っ伏すと
返事が来るのはいつかなぁ...という
目の前で話し合っているとは思えない杞憂を感じていると
「分かった」
ポツリと応えてくれた。
それを聞くと敢えてゆっくりと帰り支度をして、
今日はやむを得ず自分は帰るんですよ
というアピールを十分にしてからドアノブに手を掛けて
もう一度美咲を見た。
変わらず顔は見せてくれないみたいだ
ただ、それを暗黙の了解と受け取って
懐かしの空間からひっそりと去った。
階段を降りるとリビングのドアが開く音がして
「あれ? もう帰っちゃうの?」
美咲ママが顔を覗かせた。
手には菓子セットみたいなものを持っていて
余計申し訳なくなる
「すいません、今日はちょっと早いとこ帰ります。
まあ、また来ますんで...」
「あ、そうなんだ!
全然遠慮せずにまたうちに来てくれて良いからね!」
元気な幼馴染の母の笑顔が俺を苛むように
その娘の涙を思い返させた。
頭を下げてへこへこと出て行くと、
外は目を射抜くような真っ赤な夕陽が照らす情景になっていた。
風は冷たい、
風当たりの強さが今はより一層増して
髪をなびかせ、肌に刺さって来るかのようだ。
昔に美咲の家から出てくる時は
外で散々振り回されて遊んだ後の疲労感があったが
心は軽かった。
何故ならなんだかんだで楽しかった、
という充足感があったからだ。
今日も色んな植物の種やら汚れやらを服に引っ付けてしまったけど、
また新しい場所を見つけた
今日も美咲と喧嘩をして泣かされたけど、
また仲直り出来た
この家の前であいつが来ることを待たされて、
大冒険の果てにこの家に帰って来て
母が迎えに来るか、自分の足で帰る頃には
一つ一つ成長していたように感じていた自分がいた。
そう、放課後には子供時代の全てが詰まっていたんだ
......ただ
今は何と空虚なことか
こんなにも寂しく、物悲しく思えるのは
もうあの頃には戻れないから、なのか
夕焼けの空に、
幼馴染の家からの帰路に、
初めてノスタルジックな気持ちを抱いて
自宅へと向かうのであった。
閲覧ありがとうございました。




