家庭教師編・12
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「ちょっと男子~
美咲のこと泣かしたでしょ~?」
...この声は、そうだ。
このド定番極まりない決まり文句は小学生の頃の記憶、
あの男勝りの美咲が何故か泣いていたために
近くにいて関係の深かった男子が美咲の友達集団に呼び出されてしまったのだ。
思えばあの頃から美咲は友達が多かった
「し、知らねえよ!
そもそも泣かす側に立ってるのはいつも美咲の方だろうが!」
それに俺の数少ない友達の声が思い出される、
そいつとは今にも続く関係だ。
確かその時に俺共々美咲を泣かした犯人として多勢に無勢の女子に、
昔から臆病だった僕ちゃんは戦々恐々とする中で
友達は勇敢に抵抗していた。
「それは...まあ、確かにそうだけど」
こちらの言い分が通るほどに力関係は明らかに反対なことで
周りにも認知されていた。
それほどまでに当時は美咲が泣かされるなどということは、
異常事態であったのだ
「でも現にミサちゃんは泣いてるんだよ!
鼻からでも膝からでも血を出して泣かないミサちゃんが泣いてるってことは
誰かに泣かされたに決まってるじゃない!!」
あの時の美咲は本当に我慢強くて...というかまさにクレイジーで
危険地帯に俺を伴って目の前で怪我を負っても、
ヘラヘラ笑っているような
良く言って素晴らしき探求心の塊、
ハッキリ言ってイかれちまった女の子だった。
そんな奴が泣いているのだから緊急招集が開かれるのも無理はない
「そ、それで何で俺達が疑われるんだよ!」
あの時の俺は小さく相手方にバレないように、
そうだそうだ
と無言で頷いていたのも覚えている。
「だってアンタ達ミサちゃんと仲良いじゃん、
きっと遊んでる時に酷いことでも言ったんでしょ~!」
そう突き付けられると友達も流石に押し黙って
過去にそんな暴君美咲に勇敢にも楯突いたことがあったか、
と真剣に頭を悩ませた。
しかし、どれだけわざっとぽくウンウン唸っても
心当たりは無かった
「俺も...治雄もそんな覚えはないぞ」
引っ込み思案の俺の分まで彼は弁明してくれたのだ。
ところが、ほぼ孤軍奮闘の男に女共は寄ってたかって容赦しなかった。
奴らには一度疑ってかかると後に退けない意地でも生まれてしまうのか、
追求を止めずに
終いにはただの罵詈雑言の嵐で俺達を攻撃してきた。
確かその精神的ダメージで、
心に当時の罵倒の声がトラウマとして刻まれて
今に美咲の涙を見てフラッシュバックしてきたのだろう
そう考えると自分が覚えているのは
罪も無く傷つけられ、
汚れちまった悲しみに苛まれた嫌な思い出である
という形だけ。
重要な
その出来事がどのように収束したか、
ということを覚えていない。
一体どのように事が収まったのだろうか......
あのままであれば、
その後に辿る俺の小学生生活はクラスの女子をほとんど敵に回した
悲惨な期間であった
との記憶があっておかしくない。
ところが、そんな覚えは一切無い。
ならば必然的に何かあって、美咲の涙の件が丸く収まっていなければ
おかしいはずなのだが...
その覚えも一切無い。
どうであったか......
追憶の中で惑い、俺を包んでいた想起の空間は
段々と今現在の意識が強くなってくることによって
引き剥がされて現実に戻り始めた。
そして前に広がっていた光景は、いじけるように
うずくまる彼女...
どうしてこうなってしまったのか......
ああ、
実に困った
くまった。
泣きたいのはこっちの方になっていた




